いつもはもっと『良い子』だろう
人間の体はそう簡単に『思いの強さ』や、『魂の覚悟』などは考慮されない。痛みがあることも関係ない、本当に全身が動かないのだ。辛うじて意識を保つのが精一杯で、まるで自分の身体じゃないかのように、身動きができないのだ。
「こいつはお父様の部下じゃないよ」
「どうして反抗するんだい? この男は私の家の従業員であって、お前の玩具として提供していた部分はあったが、元を辿れば私のだろう」
「そんな理屈じゃないよ。こいつはロリコンだったんだ。きっと私を守る為に、この家で潜入捜査とかしていたんだよ。少なくとも私を心配していた」
……頭まで動かなくなってきたぞ。唇を噛み締めて、涙を堪えて、歯を食いしばって、ようやく意識が保てている。でも、痛みが消えないのに、眠気まで消えない。ここで寝てしまえば少なくとも痛みは消えてしまうのに、動けなくて役立たずの自分を保っている。
「制覇。考え直しなさい」
「考え直すとかじゃないです。あいつは……私の為にここ数日を生きていたんだ。私を救う事だけを考えていた。私にとっての最善策を死ぬ気で模索していた。そんな馬鹿で変態で忍者失格な意味不明のロリコンだったけど。それでも私の……友達だった」
友達……なのか? 友達でいいのか? 制覇様と長く付き合った訳でも、部下になって長いわけでもない。それでも……俺が友達第一号でいいのか?
「お前は『超人』になるんだぞ。そんな人間に友達がいるか?」
「…………いらない物なら、不必要なら、それでいいの?」
反抗している。制覇様が桜台則之に歯向かっている。俺のためにって考えるのは、死にかけの自分を慰めるためかもしれないが。本当にそういうふうに感じる。
「お前……お前が……そんな無駄な時間を費やす暇があるのか? 友達は面倒な存在だ。複数人いると決まって時間が奪われる」
「それは悪いことなの? その時間は貴重なのではないのだろうか? お父様」
空気が殺伐としてきた。家族喧嘩と表現していいのだろうか。桜台制覇と桜台則之との間にアカラサマな発想の溝を感じる。
「制覇!! いい加減にしなさい!! どうして今日に限ってそんなに態度が悪いんだ。いつもはもっと『良い子』だろう」
お前の侵略兵器にされている制覇様を良い子呼ばわりするな。お前が制覇様の普通な日常を奪ったんだ。どうんなメンタル的な施しを加えたか想像がつかないが、お前さえいなければ制覇様は普通の女の子だったんだ。父親のために生きる女の子なんて……間違っている。
「私は日頃から良い子じゃないよ」




