諸悪の根元を断ち切る
桜台則之、こいつの存在を忘れていた。
こいつは俺が最初にモンスターキャッスルに忍び込んだ理由であり、昔のターゲットである。こいつを殺すことが俺の忍者試験の任務内容であった。
「制覇……」
「お父様、いったいどうして私の部下を……」
「『私』の部下だからだ。この男は。こいつは私を殺すという名目の元に、この家に侵入した。任務に無様に失敗し、女々しくも我が家に寝返った。役に立てば生かす考えもあったが……こいつは私の兵器の邪魔だ。教育の阻害要素になる」
へ……い……き……?
「お父様。私は……」
「世界征服をするはこの私だ、制覇。お前は私の娘として人間を越える。私の最強の兵器として」
こ……いつ、なにを言ってやがる。
傷口から湯水のように血が湧き出た。地面ににじみ出たその鮮血は、制覇様の目に……俺の死体寸前の姿が見えているのだろうか。幼女にこんな姿を見せるとは、ロリコン失格かもしれないな。
「制覇。前にも言っただろう。お前には部下なんか必要ない。機械の部品ならいくらでも与えてやる。無駄な時間を過ごすな、無駄な揚力を使うな、無駄なカロリーを消費するな」
制覇様の部下じゃない……このモンスターキャッスルの部下達は、見張りの黒服も、金髪マッスルもコスプレイヤーも、俺も、所詮はこいつの手のひらで利用されていたのか。そして制覇様も……。
制覇様は……『超人』になりたいんじゃない。世界征服を企む悪の大首領に超人として利用されている。武器として、兵器として。
「き……さ……ま……」
声が出ない、目が霞む、奴の姿がライトに当たって見えない。黒いスーツにサングラスくらいしか観測できないのだ。
「おい、ゴミが散らかっているぞ。制覇、始末しておけ」
「ゴミじゃないよ。そいつだけは私の部下なんだ、お父様」
そうだ、俺は桜台制覇様の部下である。それ以外の誰かの軍門に下った覚えはない。こいつは俺をゴミだの、部下だの、非公認な馬鹿な話をしていたが、このまま死ぬわけにはいかない。こいつが黒幕じゃないか。ようやく俺の宿敵が現れたというか、倒すべきラスボスじゃないか。
制覇様の超人化計画を止める最高の手段。諸悪の根元を断ち切る絶好のチャンス。考えても思いつかなくて、無理矢理に当てずっぽうに行動して、ようやく敵が尻尾を出したんだ。元々、殺す予定だった相手だ。良心の呵責など皆無でOKな相手なのだ。
動けよ、身体。奴を制覇様の為に殺すんだ。ここで朽ち果ててもいい。無様に血まみれでコンクリートに這い蹲りながら死んでもいい。例え何を捨ててでも、プライドを削っても、あいつだけは仕留めないといけないのだ。




