こいつが影の黒幕だったのだ
作戦失敗、制覇様を救い出すどころか決意を固めてしまった。
「ありがとう。私に間違いなく有益だった部下よ。お前があたしにとって害悪だとは思わない。きっと見方を変えれば、お前は私の一番の理解者なのだろう。長きに渡り意味のないかのように思える試行錯誤は、きっと本当は意味があったのだろう。優しいサンタクロースさん。それでもね、私は死に際に君の顔を思い出しても、戦うべき時代に生まれてきたのだ」
戦う時代。俺には理解できない、ロリコンには理解できない、サンタクロースには理解できない。闘争本能の次元。人間が高みを目指す上での揺るがない精神。
「私は戦いたいんだ。仮に負けても、仮に死んでも、夢半ばに朽ち果てても、後悔だけはしたくないのだ」
確かに『戦えた』ということに関しては後悔しないだろう。でも、『戦わなければよかった』という後悔はするのではないだろうか。
「友達は……? 制覇様はお友達をつくる事も諦めますか?」
「必要ないよ。今のモンスターキャッスルの職員だけで充分だ。ここに働いている職員は命を削る覚悟を持たせるレベルに私が弱みを握っている人物だけしかいない。私に必要な兵士は機械の人工知能で生み出す」
どうして……戦う事を拒絶しないのか。小学二年生の女の子がここまで途方もない夢を見られるのか。答えはそもそも存在しないのだろう。
「兵士も武器も作戦も、この平和ボケしている世界には打って付けのフル装備だ。世界は私に勝てない。まもなく私は世界を超越する。いわば、君の表現した通り、世界征服を成し遂げる」
俺が最後の忠告者……俺という最後のブレーキが……壊れた。
★
不意の銃声。俺は胸を貫かれた。意識が暗くなった。痛い、苦しい、そんな最後に残った残留思念すら消えていく。殺された? 誰に?
正面の制覇様じゃない、俺は後ろから背中を目掛けて撃たれたのだ。会話の途中だった、腕にはなにも持っていない、なにより制覇様は俺のことを、思考は違えど味方だと判断していた、殺すタイミングとしては不自然過ぎるだろう。
じゃあ誰?
モンスターキャッスルの職員? 俺のルームメイト? そんなはずはない。あいつらとはある程度は境遇を共感し合っていたし、仲間意識もあった。今のやり取りで殺すには理由が薄いだろうが。
じゃあ誰? そもそも俺はどうして死にかけなのだ?
「三太……くん……?」
制覇様の不安げで震えた声……そうか。制覇様にとって予知不能な事態だったのか。そうか、俺が倒すべき相手はもっと別にいたのだ。考えが浅かったな……、あともう一歩くらいで気がついて行動できたかも。後の祭りだな。
それにしても……どうして自分の娘を目掛けて発砲したのだ…‥。
振り返らずとも痛みで答えは導き出せた。こいつが影の黒幕だったのだ。
「お前は……桜台則之」




