それでも不必要だ
ここまで主人に歯向かったのだ。俺は無事では済まないだろう。制覇様が格下の俺の言うことを間に受けて、生活が改善されるとも思っていない。だが、『人間を超越する』。その目的が達成されない事だけでも……ただ、それだけでも、俺は制覇様のために成し遂げなくてはならない。
「制覇様……お願いしますから、お考え直し下さい。世界制服とか人間を超越とか、人類で成功した試しはないんです。お願いですから」
「馬鹿め。誰も成功したことのない課題だから、戦う意味があるのだろう。世界で最も高貴なる人間だと証明するには、全時代を上回る必要があるのだ。諦めるものか!!」
そこら辺が子供なんだよ。無謀という言葉がよく似合う。天才科学者が人間を超越して、誰がそれを承知する? 人を殺せば犯罪者、人の迷惑をかければただ迷惑な人。例え規則のある競技で勝ち遂せても、それは所詮は人間の超越とは表現しないだろう。それは人間の作ったルールでの結果でしかないのだろうから。
マスコミはいつまで持て囃すだろうか。人々はどれほどが制覇様の偉大なる力を認めるだろうか。そうだ、結局は『その他大勢』が全てを握っているのだ。人間の超越が不可能なのは、人間が群れをなして生きる群衆生物だから。組織として結果を残さないと、個人の超越した天才など、価値などないのだ。
「制覇様……俺は制覇様の部下です。ですから……一緒に学校に行きましょう。研究も自分のために使うんじゃなくて、人々を魅了させる為に使いましょう。制覇様……俺が本当にロリコンだったとしたら、あなたにこう言うべきなんだ」
俺は一呼吸置いた。そして、言った。
「本当に幸せになりましょう。あなたは変わらなければいけない時が来たのです」
制覇様…‥俺は、あなたを救う為に生まれてきたんだ。あなたが目指すべき世界はたった1人の孤独な世界じゃない。人間の超越なんて、もっと下らない連中に任せればいいのだ。制覇様がすべきことはもっと別にある。幸せを目指して、努力のベクトルを変えるべきだ。
「制覇様……届いて下さいよ。この俺の制覇様を救おうと思う気持ち」
肝心の制覇様の姿は……変わらない。態度に変化はない。届かなかった……。
「興ざめだ。見込み違いという意味ではないが、期待以上の……馬鹿だった。お前は私にとって『プラス』な存在だったのかもしれない。ある見方をすればね。だから私は君を私の懐に入れたのだろう。予感は的中だ」
だが、それでも……。
「それでも不必要だ」




