悪の帝王か、人類共通の敵か、世界征服の総司令官か
俺がすべき行動なんか、随分と昔に忘れてしまった。
目的を見失った訳じゃない。だが、目的までの道がまるで分からない。最終的に制覇様が幸せになれるように。それを目標に生きているが、具体的な道のりがつかめないのだ。だから彼女の言いなりにしかなれない、それが彼女を破滅させる道へと辿っていようとも、真っ暗な俺には確かめようがない。
「桜台制覇様の望んでいる事を叶えたとして、その先になにが待っているんだよ。俺なんかじゃない、制覇様は最終的にどうなってしまうんだ……。彼女が幼女でなくなった時に、その姿はどう変わってしまう……」
悪の帝王か、人類共通の敵か、世界征服の総司令官か。
「まあ、このままじゃろくな大人にはならないだろうね」
はっきり言うな、コスプレイヤー。俺だって分かっているよ、彼女がろくな大人にならないってことくらい。
「それで……君はどうするつもりだい?」
「そうだ、お前は桜台制覇様の為に、これからなにをするつもりなんだよ」
そんな事が分かれば苦労はしないのだ。お先真っ暗とはこの状態のことをいう。ウダウダと考えても仕方がないが、だからと行って動き方すら分からないのだ。取り敢えず実行という流れにすらならないのだ。
「それが分かれば苦労はしないだろうが」
諦めムードを通り越して、部屋がドンヨリとしていた。俺が不幸な感じを伝染させているとしたら、申し訳ないと思う。考え過ぎな性格がここまで面倒で厄介な人間だとは。自分で自分を軽蔑する。
「あの~取り敢えず制覇様に今回の工場見学の顛末を話して、それから身の置き方を考えるというのはいかがでしょうか?」
……なにを喋れと言うのだ。作戦失敗です、何も得られませんでしたと言えばいいのか? それとも馬鹿正直に、分かりはしたけど制覇様には教えられませんって言えばいいのか? なんとなく制覇様の為にならないからですって言えばいいのか?
「だから……なんて言えばいいんだよ……」
「悩んで下さい。最後まで制覇様の為に何が最優先か、考えましょう」
うわぁ、それでいいのかよ……。悩んで悩んで……例え間違った答えが出たとしても、それでも時間切れなら発言をしろ、という話か。
「拷問かよ……呪いなのか……これ……」
「悩みすぎる人間の宿命でしょう。嫌なら断念すればいい。結論を急いで、思考を停止すればいい。嫌なら……苦しみは長引いても……戦うしかないでしょう」
「分かった。行ってくる」
俺は……まだ覚悟が中途半端なまま、トボトボと廊下に出た。




