世界から魔力は否定される
気まずい空気が漂った。俺が不審な態度を取っているのはバレバレだっただろう。そして俺が思い切った行動を取った事で、遂にそのトリガーがひかれた。サンタクロースの秘密主義、その長年に渡って積み上げてきた、その『大切な物』を瓦解させるかもしれない可能性を、俺が潰そうとしているのだ。
「ここで何をしているのか。その本質を聞きたいのだろう。こんな薄っぺらい説明ごっこは止めて、ちゃんとサンタクロースの本質的な部分を聞き出したと」
「そこまではっきりとは」
「いいよ。一年中に教えなくてはいけない内容の一つではある。この工場見学は本来的にはその前に教授する内容だったんだ。今回は前倒しで工場見学を優先したが、まずこの施設に出向く前に把握しておくないようだ」
そうだろうな、だから……警戒している。
俺が桜台制覇様の一味であるという周知の事実を。サンタクロースの暗黙の了解を踏み荒そうとする人間の手下であることを。それを踏まえた上で、俺をギリギリのラインで、曖昧な信頼関係で、つなぎ止めているのだから。
「サンタクロースは元、古典的な言い方をすれば、『悪魔』『魔王』その類に属する。それはお前も身を持って体験しただろう。サンタクロースはとある隠居ジジイの娯楽的な歪みであった」
そうだ、俺はサンタクロース試験の第三次試験で、あの人と対話したのだ。面接という形で。あの人は俺にサンタクロースの発端を教えてくれた。それはロリコンジジイの隠居を花々と飾る、極めて私欲的な物だったのだ。
「だが、世界はサンタクロースを一部では認め、認知した。そして、一方では、全面的に否定した。神、悪魔、天使、霊媒、英霊。それらの類に何も名を連ねない。非戦闘主義の慈善団体。その異質な職業は、今までの魔力を持つ生き物の存在価値を全て否定した」
確かにサンタクロースは何者なのかを厳格に示した物はない。人間はサンタクロースを否定して生きている。
「世界から魔力は否定される。伝説上とでしか存在価値を認められない存在である『非現実』はサンタクロースの存在を異端とした。例え我々が何をしても、直接的な被害が出ないからだ」
空飛ぶトナカイ、宙を舞う橇、それらを除いてサンタクロースには極めて魔力を持っていながら、その価値を無駄にしている。しかも、子供が寝静まった後に行動する為に、完全に相互不干渉だ。
「サンタクロースは他の異能よりも、扱いが曖昧だった。よって不自然にイベント化された、つまり……ハロウィンのような、人間が日常をアレンジする為の、恒例行事となったのだ」
ここで重要なのは……その、『魔力』である。
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