盗みそうとしている物
「なんか思ったよりもエンタメ性が欠けてるよね。真剣そのものって感じがする」
仕事を真面目に打ち込む姿勢は大切だと思うが、どうも玩具なんて物を作っている環境には見えない。まさか……この場に人間はいないのか。
「この工場に職人……もとい、職員はいないよ。サンタクロースは年に平均で一人くらいしか誕生しない。サンタクロースが経営する職場は、サンタクロースの資格がある人間だけが、その場に足を踏み入れる事ができる」
そうか、玩具造りのプロでサンタクロースなんて、そんな両方を併せ持つ人間がそんなに存在するはずがない。喫茶店のアルバイト程度みたいな専門性を問わない事ならともかく、手作業である玩具の仕上げなんて、そうそう技術がある人間はいないだろう。
圧倒的にサンタクロースは人数が少ない。年に一人というデータもザックリとしており、本当はそれ未満なのではないだろうか。だって、その時の試験の受験者で、全員がその素質を持ち合わせていないと判断され、全滅する可能性もあったのだから。
「サンタクロースは世間様に存在を悟られるわけにはいかない。極めて神秘に満ちた技術を持ち合わせる。子供の夢を守る為の組織が、大人の汚い技術の礎にだけはなってはいけない」
「この工場は極めて重要だということが分かったかな」
そうだ、俺が盗みそうとしている物は、そういう物なのだ。今までサンタクロースが全力で隠していた重要機密。サンタクロースという世間に認められてはいけない、歴史ある伝統を……俺は潰そうとしているのだ。
空飛ぶトナカイがいたくらいだ。きっとサンタクロースには、もっと俺の知らない超常現象を引き起こす何かがある。制覇様はその神秘の力を狙っている。きっとその引き金はあの隠居した魔王にあるのだろうな。奴の残した大魔術を何かに悪用する気なのだ。
「……それって外部に漏れるとどうなるのですか?」
「そんな可能性は考えてもいないが……サンタクロース事態が終わりだろうな」
お…わ…り……。おわり?
「終わりって、もうサンタクロースという存在が無くなるって事ですか」
「まあ、事態が丸く収まりそうなら、解決策を練るくらいはするだろうが、もうメディアに拡散したら……長らく続いた古からの伝統は消え失せる。これにて子供たちの終焉だ」
俺はもっと甘く感じていた。きっと俺の首が飛ぶくらいで、そんなに大事にはならないと思っていた。まさか組織崩壊とは。ここまで厳しく徹底した秘密主義だからこそ、今までのサンタクロースの未知数が出来上がっていたのだな。
さて、ここからが問題だ。
★




