回りくどいとは思うけど
それで……ここは美橋玩具工場である。サンタクロース御用達の工場なんて、かなり歴史が深いと思うのだが、思ったよりも清潔感が漂う作りになっていた。というか、玩具工場というよりは……人体実験でもあってそうな風景だ。
なんというか、想像の斜め上であった。俺の想像していたのは、鉄で出来た壁に囲まれて、変な音をたてる機械同士が部品接合をして、ベルトコンベアーによって流れ作業みたいな。完全に俺の専門分野ではないので、一般的な想像くらいしかなかった。
「なぁ。美橋さん。ここって玩具工場ですよね?」
「えぇ。まあここが工場に見えないという率直な意見は、まあこっちも察せますがね」
「しっかり観察しておけよ、新人。玩具を熟知していないサンタクロースなんて、深夜の空を駆け回る資格はないぞ」
まず俺の根本的な間違いは、この場が『工場』というネーミングに踊らされ、勝手に『生産工場』だと思い込んだ事である。工場には技術を向上させる役目として、新しい玩具を開発する為の云わば『技術開発本部』という奴だったのだ。
「私の工場は他の企業とタイアップなんてしていない。企業のゲームとか、幼児アニメの実写版アイテムみたいな物は作っていない」
儲かっているのか……それ……。と思ったが、そう単純な話ではないようだ。廊下に飾られている『日本お○ちゃ大賞』の『~~部門』みたいな数々な品を祭られているのだ。モンドセレクションという奴か……意味を知らないけど。
「数々の批判家みたいな審査員を黙らせてきた。その栄光よ」
なんかそんな言い方をすると、折角の輝かしい栄光が黒光りしてしまう気がする。というか、ここが生産工場じゃないとすると、新しい玩具を作るのがこの場の役目なのだが。
「ここで開発した品物は、基本的に外国で発売される商品が多い」
「サンタの玩具工場だからね。悟られないように、開発場所、生産場所も全て分けているのだ。だから日本にいる子供達への玩具は、今頃別の国で作られているだろう」
そうですよね、こんな大量生産、大量消費がモットーの日本国家に役立つ玩具を作っている風には見えない。分散させて、目を眩ませているとは。考えているな……回りくどいとは思うけど。
「どっちかというと……なんか戦艦の中みたいな風景なのだけど」
さっきから、戦場に鳴り響く爆音のような火柱が見える。なにやら重そうな鉄の武装に身を包まれた男たちが、真剣そうな顔で危機に専門機械を押し付けている。飛び散る火花、鳴り響くギュイーンの音、そして殺伐とした空気。
「半端ねぇ。もっと物静かな場所だと思っていた」




