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【電書化】長靴をはいた侍女  作者: 霧島まるは
おまけ

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10/12

交わされる手紙

親愛なる長靴をはいた侍女 殿


 いつも雨の中、手紙の配達ご苦労なことだと思う。

 最近は温かいとは言え、雨の日はやはり冷えるだろう。

 風邪をひかぬよう、気をつけられよ。

 当屋敷でも出来る限りの対応はするが、やはり出来ることには限りがある。

 侍女殿自身、身体を大事にされるように。


 先日、当屋敷の庭に薔薇が咲いたと庭師が報告に来た。

 まだ咲き揃ってはいないが、そう遠くなく見事な薔薇園となる。

 色とりどりの薔薇は、我が主もたいそうお気に入りで部屋に飾ることもこれから増えるだろう。

 あいにく薔薇園は中庭にあるため、侍女殿が配達の時に目にすることはないが、屋敷の窓越しに見せることは出来るかもしれない。

 侍女殿の主への土産話のひとつとして、目にしておくと良いかもしれない。もし見たいようであれば、私にそれを告げるといい。

 もし、貴女の主が薔薇を愛でたければ手紙にそう書くように進言するとよいかもしれない。おそらく我が主は、手紙に美しい薔薇を添えて返されるだろう。

 貴女の鞄に入るほどの長さに、庭師に切らせておけば、帰り着くまでに駄目になることもないだろう。


 では、日々気をつけて過ごされよ。


  伯爵家執事 ファウス=ユーベント



**********************



親愛なる伯爵家執事 様


 いつも心を尽くしたお手紙、ありがとうございます。

 おかげさまで、こちらの配達をするようになってから配達で風邪をひくことはなくなりました。執事様のお心遣い、いつも感謝しています。


 薔薇のお話、ありがとうございました。お嬢様にお話したら、とても喜んでらっしゃいました。おそらく、今日の手紙に書いてあると思われます。お嬢様より先に薔薇を私が楽しむのは気が引けますので、薔薇園を見せていただくのはまた今度にしようと思います。

 今日、お嬢様に素敵な薔薇がいただけますよう、図々しくも祈っております。

 お嬢様は薔薇を添えた手紙をどれほど喜ばれるでしょう。きっと枯れてしまうのをとても惜しまれると思います。美しいまま押し花にしてはどうかと提案してみようと思いますが、うまくいくでしょうか。

 お嬢様は、桃色の薔薇がとてもお好きです。ですが、伯爵様はどんな色の薔薇が似合う女性がお好きなのか、大層気にしてらっしゃいました。伯爵様の選んでくださる色であれば、きっと何色でも喜ばれることでしょう。


 ああもう、便箋が終わってしまいます。

 いつも綺麗にまとめることが出来なくて恥ずかしいです。

 執事様が呆れてらっしゃらないといいのですが。

 では、またお手紙します。


 子爵家侍女 ロニ=アイフォルカ




**********************



親愛なる長靴をはいた侍女 殿


 いつも雨の中、手紙の配達ご苦労なことだと思う。

 前回の雨は少しひどかったが、大丈夫だったろうか。

 馬車に泥水を跳ねられたりしていないだろうか。御者は通行人のことを考えない者も多い。気をつけて歩いた方がいい。


 先日、薔薇園を見たいと侍女殿が口にしなかったのは、貴女の主を立てたためだと手紙で知った。侍女として良い考えだと思う。

 その行いの良さが、神に通じたのだろう。当家の薔薇園が満開となった。雨が降っていてもおそらく素晴らしい眺めだと思われる。次の時には、是非とも見て行くと良いだろう。

 前回、我が主は侍女殿の主に桃色の薔薇を贈られた。私が先日の手紙の内容を告げたのではないことは言っておかねばならない。我が主が手紙の女性を思い描かれ、一番似合うと感じた薔薇を選ばれたのだ。

 私は赤紫ボルドーの薔薇が、見ていて心が落ち着いていいと思う。青い薔薇は当家にも、この国のどこにもないという。あれば、その薔薇が好きだったかもしれない。


 ところで侍女殿の長靴は、問題ないだろうか? 何か問題があるなら、私に相談するといい。何か力になれるかもしれない。


 では、馬車には十分に気をつけられよ。


  伯爵家執事 ファウス=ユーベント



**********************



親愛なる伯爵家執事 様


 いつも私を気遣ってくださるお手紙、ありがとうございます。

 馬車は大丈夫です。雨の日の馬車道は、一度怖いことがありましたので下町通りを通るようにしています。私の地元なので、顔見知りばかりですから安全に通って来られます。


 薔薇園、拝見出来るのが楽しみです。満開だなんて、こんなに嬉しいことはありません。この目いっぱいに焼き付けて、お嬢様にどんなに素晴らしかったかお伝えしたいと思います。ああ、お嬢様に怒られてしまうかもしれません。けれど、控えめにお伝えするのはきっと失礼になるので、精一杯お伝え致します。いいえ、いいえ、お嬢様は決して怒りっぽい方ではありません。ただ、ご自分の目で見たくてしょうがないときっと思われるでしょう。いつかそんな日が、来ると良いのですが。


 赤紫の薔薇、きっと素敵でしょうね。普通の家の花壇に咲く野薔薇はよく見るのですが、きっと比べ物にならないほど艶やかなのでしょう。

 まあ、青い薔薇はないのですか? 驚きました。もしあったら、それほど雨の日に似合う花もないでしょうに。残念です。


 長靴の心配、ありがとうございます。丈夫な長靴をいただいたおかげで、問題は何もありません。一度紐を取り替えはしましたが、足に馴染んでとても良い履き心地です。このままずっと、この長靴をはいていられればいいのですが、いつかこの靴ともお別れの日が来るのですよね。


 ああ、便箋が終わってしまいます。またお手紙します。



 子爵家侍女 ロニ=アイフォルカ



**********************



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