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第三話 能力

「…………」


 朝礼が終わり、俺は机に突っ伏した。そして、その脳裏に蘇る昨日の記憶。

 元々、友達も少ない俺にとってあんな色々と楽しんだ……じゃないが、誰かと何かを一緒にやるってのは本当久しぶりだった。しかも、暫くはそれが続く。それに一目惚れの相手とも一緒に居られる。これは……そうかフラグか。そうだそのうち車にでも轢かれるか、柄の悪い能力者にいちゃもんつけられてボコボコにされるか……。

 いや、そんな事はないんだ。そう、いずれは俺が形並哲を元に戻して、それで葉桜に感謝されて、それで……。


「眠そうだな、未来」


 人が楽しく妄想を楽しんでるところに、俺の前の席の数少ない友人である『広野(こうの)連也(れんや)』が話しかけてきた。


「未来ていうな」


 毎回こいつとの会話はこの掛け合いで始まる。が、たまに"未来"云々が続くこともある。


「で、どうしたよ。あれか今日も何か写させて欲しいとかか」

「いやいや違えよ、てか俺だってそんな毎回課題を忘れるとか、ノート写してないとかはしねえから」

「いやいや先週は俺ノート貸しまくっただろよ」

「あれえ、そうだっけ?」


 どうでもいいやり取り。でもまあ三年からの、このやり取りもまあ悪くないか。一年や二年の時は本当に……。


「そういや、お前図書部の奴らとなんかやってんだって?」

「図書部?」


 少しどきっとする。多分図書部は読書部のことだろう、何故こいつがそんな事知って……。


「いやさ、お前が放課後図書部の奴らと図書室入ってくの見たて奴がいてさ」


 まあ、誰かに見られていても不思議じゃない。それよりも、その事を広野に伝える事が不思議だった。俺がましてや影薄男の俺がどこ行こうとどうでもいいことだろう。


「別に誰と遊ぼうがいいけどさ、図書部はやめとけって」

「いや、遊んでたわけじゃ……てかどうしてだ?」


 あと読書部な、と付け加え俺は広野に訊いた。


「お前知らないのかよ」

「後輩のことか?」

「なんだ、知ってんじゃん」

「つか、その事についてちょっと頼まれたんだよ」


 そうか、と広野は返す。

 と、この話はここで終わった。俺が知らなかっただけで、読書部は結構変な目で見られてるんだな。まあ、だからなんだという話であって。俺としてはあいつ等と、いや葉桜と一緒に居れればそれでいいんだ。


「でも読書部? て女子は可愛いよな」


 うん? 終わったかと思われた話題だったが続くのか……。


「ほらあの……黒髪のさ、ロングの子」

「ああ、桜倉川か」


 まあ確かに桜倉川は可愛いが……。広野の好みはもっと派手な子かと思ってたんだがな。


「ああいうさ可愛い子、というかしっかりしてそうで実はドジっ子というか。それに、家庭的ぽいしさ、結婚するならあんな子だよな」

「結婚ねえ……」


 そういうのなら確かにそうだろう。きっと幸せな家庭を築きそうだ。じゃあ葉桜はどうだろう。


「もう一人の子はどうだ?」


 俺は広野に訊いてみた。


「あの子もいいんじゃね、気が強そうで、でも最終的にデロデロにして……」

「ああ、デロデ……はあ?」


 なんの話だ。


「いやさ、ああいう気の強そうな子をね、俺好みにね……あんなことやこんなことをしたりね」

「…………」


 葉桜はこいつに近づけないようにしよう。俺はそう思った。

 と、ここで授業開始のチャイムが鳴り「今日も怠い一日が始まるねえ」と広野は前を向いた。

 さて、俺も授業の準備をするか。一限目はなんだっけな……。






 さて時間は過ぎて放課後、俺は図書室前に来ていた。

 今日の授業ほど時が過ぎるのを遅く感じた日はないだろう……いや、前言撤回そうでもないか。

 俺は一つ息を吐いて、扉に手を掛ける。やはり、昨日あんなことを言ってくれたとはいえ関係のない俺がここに来ていいのだろうか……。と迷っていても仕方がないので、俺は扉を開け中に入った。

 図書室には読書部の四人は既に居て、机の上にはいくつかの分厚い本が置いてあった……早いな。


「あっ、志比君」


 桜倉川が声をかけられる。同時に、葉桜と南里が俺の方を向いた。しかし、浅原は本から目を離さない。


「早いな、みんな」

「まあ、ホームルーム終わったらここまで一直線だからな」


 南里が本に視線を戻し答えた。それだけ読書部の哲に対する想いは強いのだろう。

 さて俺も何かしなくては……。


「えっと……今は何を調べてるんだ?」

「あっ、えっと今はね、どうやったら人の存在を消せるのか、てのを調べてるの」


 桜倉川が読んでいる本を示す。能力辞典というものだ。確かに、消す方法が分かれば戻す方法も分かるだろう。

 しかし、さっきのセリフは事情を知らなければ恐ろしいセリフだな。


 俺は、机の上に置いてある本を一冊取って椅子に座る。葉桜の二つ横の席だ。




ーー本を読み始めて数分後、俺はあることに気づいた。これって、ネットで調べた方が早いんじゃ……。


「なあ、パソコンで調べるとかは……ダメかな?」


 ダメでは無いと思う、読書部ってことで本の方が得意とかそういう問題だろうから。だが、一応は訊いてみる。


「パソコンは……(かなで)ちゃんと公治(こうじ)君がダメだから」


 それに、と桜倉川は続ける。


「本で調べる方が得意だからね」


 そもそも使えない人が居たか。そして、俺の中で葉桜の好感度が謎の上昇をした瞬間である。


「あっ、でもそっちの方が早いならパソコンでもいいからね」


 桜倉川が気を利かせた言い方をしてはくれたが……一人ではなあ。


「パソコン室に行くのか? じゃあ俺も行こうかな」


 南里が立ち上がる。お前だったら別に一人でも……まあいいか。

 ということで、俺は南里とパソコン室に行くことになった。


 パソコン室と図書室は同じ階にある。

 俺と南里がパソコン室に入ると、何人かがパソコンと睨めっこしていた。少し入りづらい空気の中、俺と南里は適当に空いている椅子へと向かい座った。

 さて、いざ調べるといっても簡単にいくとは思えない。存在が消えるなんてのは今回始めて聞いたし……まあ存在が消える、つまり記憶から消えるのだから当然といえば当然なのだが……。??? じゃあ何故読書部の四人は存在が消えた哲のことを覚えていたのだろうか。記憶からも記録からも消えているのに……。


「正直な」


 南里の声に俺は我に返る。


「諦めムードての? は漂い始めてんだよね」

「でも、その割にはえらく熱心に本を読んでたじゃん」


 諦めムードてのは分からなくもない。自分達以外に頼れる人間がいない。すると、ある程度の所で打ち止めになる。一筋の希望をもって俺に頼んでもダメだったとなれば……。


璃奈(りな)や奏なんかはまだ諦めていないだろうよ。でもさ、もう何日同じ事してると思ってんだよ……」

「……」


 数週間前……だったか、存在が消えたのが。確かに本で調べる以外のことはしてないのだろう。つまり、今やってる事は見逃しがないか読み返す作業。


「だからさ、お前が協力してくれるて言ってくれた時は本当嬉しかったんだぜ。何かがもしかしたら動き出すんじゃないかって」


 それを伝える為に一緒に行こうぜとか言ったのか。ふむ、ならば期待に答えなくちゃな。


「でさ、何て検索すればいいんだ?」


……本で調べる方が得意な人に、当然ながらこいつも入っていたのか。


「取り敢えず、能力、存在、消すあたりでどうだ?」

「よしっ、わかった!」


 俺の一つ前に座る南里はディスプレイに視線を戻す。よく見ると文字を打つのも遅いようだ。

 さて、俺はどう調べようか……。

 俺が何を調べようか、適当にキーボードを叩いていると、再び南里が此方を向く。


「そういやさ、犯人て誰だと思う?」


 唐突だった。取り敢えずは方法。犯人が誰かなんて考えた事もない。


「俺はな、三つのタイプがあると思うんだよ」

「三つか……まあそれくらいしかないだろな」


 大きく分ければ……そんなもんだろ。


「まず一つ目、親しい友人が犯人説」

「親しいかどうか、というよりも顔見知りかどうか……だな」


 そういえばそうか、と南里は返す。


「じゃあ二つ目、赤の他人が犯人説」

「適当な人を使って試してみたかった、ていうかんじか」


 しかし、それでは犯人特定は不可能だな。


「三つ目、自分自身でやった……、のは無理だから誰かに頼んだ説」

「そう来たか」


 しかし、これは理由がなあ。何が悲しくて、自分自身の存在を抹消するのか。新手の自殺か。


「一つ目だろな、願望込みで」

「三つ目もあると思うけどな……」


 南里はそう言ってまたディスプレイの方を向く。

 さてと、兎に角方法を探さなくては。俺は再びディスプレイに目を移した。




ーー「どう? こっちは」


 女子の声にふっと我に返り、俺は声の主の方に視線をやる、葉桜だ。


「ああ、そこそこかな」


 少し意識が朦朧(もうろう)としていたようだ。暖かいと眠たくなるな……。


「俺はダメだー。パソコンなんて嫌いだー!!」


 南里の声がする。


「お前なあ……」


 低い声が聞こえる、浅原か。目をこすり、視線を上げる。図書室組が居た。何時の間に……。


「で、どうだ志比。何か分かったのか?」


 浅原が聞いてきた。始めて話し掛けられたのでは無いか?


「ああ、色々な……」


 そうだ、方法があっさりと分かって拍子抜けして……で、どうしたか。


「じゃあ、一旦図書室に戻ろうか」


 桜倉川が踵を返す。俺もパソコンの電源を落とし後について行った。




 廊下の寒さに目が覚め、図書室の暖かさに再び眠くなる。俺は一つあくびをし、椅子に座った。


「で、色々わかったて言ったけど、具体的には何が分かったんだ?」


 浅原が聞いてくる。こいつ意外とせっかちだな。

 えっと、と俺は記憶を辿りつつ話し始める。


「まず方法だな」


 四人が一斉に視線を俺にやった。……恥ずかしいじゃないか。


「取り敢えず……そうだな、『能力の派生』については知ってるよな」

「何それ?」


 南里が即座に反応する。授業で習ってるんだがなあ……。


「『能力の派生』ていうのはね、うーん……どう説明するべきかな」


 桜倉川は理解はしているようだ。確かに、説明は難しいな。


「『能力の派生』つまり、例えば火を自在に操る能力があったとする。その『火の能力(flame)』の派生が『爆激(blast)』や『衝撃波(burst)』だ」


 浅原は続ける。


「この『爆激(blast)』や『衝撃波(burst)』はどちらも『火』が関係した能力だろ? だから、これらは『火』から派生した能力だといえる」


 衝撃波は微妙な所だが、と浅原は付け加える。

 ちなみに『爆激(blast)』は指定した位置を爆発させる技、『衝撃波(burst)』は手で触れた相手を吹き飛ばす技。この衝撃波は頑張ればエネルギー弾を打てるようにもなるらしい……広野が言ってた。


「ほほう、さっぱり分からん」


 南里の頭では理解できなかったらしい。まあ、例えも悪い気もするが。しかし、これが理解できないと話が進まない。


「よし、志比続けていいぞ」

「おいこら諦めんな」

 

 南里はほっといて浅原の言うとおり進めることにする。『火』云々よりこっちの方が分かるかもしれない。


「じゃあ、進めるぞ。存在を消す能力てのに『存在否定(limpidity)』ていうのがある」

「でも、存在否定は飽くまで自分自身を消す能力じゃなかったっけ」


 桜倉川の言ってる事は間違ってない。一般的には、俺だってついさっきまでそう認識していた。


「じゃあ『存在否定』の派生能力『透化(stealth)』なら?」

「ステルスなら自分以外にも発動できるよね」


 葉桜が答える。と同時に『何か』に気づいたようだ。


「それが、どうしたんだよ?」


 南里は、飽き始めているように投げやりに言う。


「存在否定の派生能力がステルスならステルスと同じ事が出来る……か」


 浅原が説明する。南里はわかったのだろうか、"何か"考えているようだが。


「みんな『存在否定』なら本で確認はしているはず、でもこの能力は本来は自分にしか能力を発動出来ない、だから除外した」


 俺を除いた四人は頷く。


「でもさっきネットで調べたら、『アビリティマスター』になることで、発動できるようになるらしい」

「あびりてぃーますたー??」


 やはり南里が質問してきた。


「アビリティマスターはね、能力者が持っている能力の力を限界まで引き出した状態のことを云うんだよ」

「ほほお、さすが璃奈。誰かさんと違ってわかりやすい」


 浅原は特に反応しなかった。話に戻るか。


「つまり、アビリティマスターで『存在否定』を使える能力者が犯人だな」

「ステルスは??」

「『透化』は無理だって書いてあったよ」


 葉桜の問いに答え、南里の方に視線をやる。最後の部分だけは理解できたようだ。しかし自分で言っといてなんだが、存在抹消の方法もわかり、犯人もある程度は絞り込めるようになった。だがアビリティマスターというのは年に数人。まあ今年は豊作? で八人いるらしいが、今年が異常なだけで普通なら二、三人程度だ。


「だとしたら名簿を使って、探し出せるな」


 南里の言うとおりだ、だがしかし卒業生だったら? どうやって見つけ出す?


「うーん、色々障害はある感じだけど、取り敢えず前進したよね」


 ほんと志比君様様だよ、と桜倉川は付け加えた。


「よしっ、じゃあ今日はもう暗いし帰ろっか」


 ふと、真っ暗の外を見て桜倉川が言う。

 もうそんな時間か。

 俺たちは鞄を取り、図書室を出た。




 時刻は午後六時過ぎ。

 俺は自転車を取りに自転車置き場へと向かう。住んでる所は桜倉川、南里、浅原とは違う方向だが、葉桜とは一緒だ。昨日は何も喋らなかったが、今日は、今日こそは……。

 そういえば、誰かと帰るなんて久しぶりだな。異性に限定すれば初めてか。






 とあるアパートのとある一室。割りとしっかりとしており、外装も綺麗だ。そのアパートのとある一室に住んでいるのが。俺、志比であり、ヘタレ志比である。

 またまともに話せなかった。この場面を利用せずして、何を利用すると……。ホットココアを一口飲み、俺はまた溜息をつく。とくに何が聞こえるわけでもないが壁ドンしたい気分だ……迷惑極まりないな。


 さてと、ここで一つ今日得た情報でも整理しつつ推理でもするか。俺の日課、ではないが思考タイムだ。

 まず存在抹消の方法は分かった。次は動機だが、犯人がアビリティマスターである以上学生では無いのかもしれない。今、三年のアビリティマスターには存在否定の能力者はいないはず。二年の可能性もあるにはあるし、そもそもアビリティマスターはそういう試験に合格しなきゃならないから、そういうのをしてなかったら……まあ、進路に有利に働くし受けない理由は無いけどさ。

 でも、外部の人間なら哲を消す理由がなあ。たまたま偶然見かけたから……なわけないし。じゃあ誰かが頼んで……とすれば哲と交友関係のある人か、で哲を嫌っている人。

 うーん、分からん。というかまだまだ情報が少なすぎるな。でも、交友関係のある人、てなると最初に怪しむべきは読書部なのでは……。でもだったら夕方の話で『存在否定』『透化』に何かしら反応する気もするが。でも、それはつまり後ろめたい事が無いてことだよな、きっと……。

 少なくともそうであって欲しいと、俺はそう思う。もう最悪、葉桜じゃなきゃいい。葉桜以外が犯人なら……。犯人なら?

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