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第一話 プロローグ

 校舎を出た瞬間に吹き抜けた風。もう十一月も中旬。ついこの間まで半袖だったはずなのに、時間が過ぎるのが今年に入って更に速度を増したのではないのかと思う。

 早過ぎる冬の到来に、白い息を吐きながら俺は自転車置き場へと向かう。


 学園都市、それが俺の通っている学校のある街、加えて住んでもいる街だ。この学園都市、別名は能力開発都市……だったか。詳しい説明は省くが、要はこの世界において数十年前から一般化しつつある人に与えられた? 力である『能力』の正しい使い方を育成する街、ということだ。で、俺も一応は「想像実現」という能力を持つ能力者である。


 と、そうこう説明している間に自転車置き場に着いたな。まあ、下駄箱から置き場まで大した距離じゃないんだけどさ。

 ……俺は結構早くここに着いたつもりだったのだが、既に自転車置き場には何人かの生徒がいた。まあ、男子から女子からソロばかりだ……どうでもいいか。

 俺は、自転車に跨り走り出した。冷たい冬の風が、チクチクと顔に突き刺さるように時折吹き付ける。

 俺は自転車を漕ぐスピードを少し速めた。早く家に帰って毛布を被り暖房の前で温まろう、そうだついでに暖かいココアも飲むか。全く、寒いのは嫌いだ。

 白い息をはきながら、俺は自転車を漕ぎ続ける。と不意に声が……聞こえた気がした。しかし、俺の周りに人はいない。せっせこ自転車を漕いでいるのは俺だけだ。

 俺は自転車を止めて辺りを見回す、すると後ろから誰かが――女子がこちらに向かって走ってきた。知らない子。呼び止められたのは辺りに俺以外の人がいないし、多分俺だろうが、恐らく誰かと間違えたんだろう。俺に異性の知人はいないし。

 そう呼び止められる理由を考えていると、彼女が追いついた。彼女は白い息を吐き、胸に手を当てている。う〜ん女子高生が息を切らしている姿はなかなか……。いや兎に角、何で呼び止められたのか聞こう。いや少し待つか、とにかく女子と、異性と話すのはいつ以来だろう。調理実習の時以来かな? いや、あれは事務的な話だったしな……。

 暫く思考を巡らせていた俺だったが、まだ息が整わない彼女の言葉に我に帰る。


「ごめん……、呼び止めたりして」


 彼女は大きく息を吐いて続けた。


「私は葉桜(はざくら)(かなで)。えっと、志比(しくら)未来(みらい)……くん?」


 女子にしては少し低い、かっこ良い声で彼女は――葉桜は言った。そうか葉桜奏ていうのか。

 ん? 何処かで会った事があったかな? 名前を知ってるってことは同じクラスか。いや、クラス全員の顔は覚えていないが、こんな可愛い子がいたら覚えているはずだよな。綺麗で真っ直ぐな黒い髪。走ってたからか少し荒れてるが、そんな黒髪が肩ぐらいまで伸びてていて、肌も血色がよくて、顔も整っていて可愛くて……。可愛くて、可愛くて、可愛くて……。

 と、黙りな俺に気を利かせてか、葉桜は再度話を切り出した。


「えっと……、呼び止めたりしたのは少し協力して欲しいことがあって」

「あっ、悪い」


 とっさに謝ってしまった。気まずい……。とにかく、何か言わなくては。


「えっと……協力して欲しいっていうのは……」

「えっと、ああ、でもその前に志比君だよね?」


 そういえば、そんな事聞かれてたか……。

 俺は頷いた。


「じゃあ、ここじゃなんだし一旦学校に戻りたいんだけど、いい?」


 俺は再び頷く。ん? あれっ? ……何に対して頷いたんだっけ?  ああそうだ学校に戻るんだ。

 不思議そうな顔をする葉桜をチラッと見て、俺は自転車の進行方向を変える。ここから学校まで歩くのか……。まあ、いいや。こんな可愛いい子と一緒に歩けるんなら……そうか、これが恋か。ドキドキする。くそ、マトモに顔が見れん。もっとちゃんと見とくべきだったな。

 俺は、葉桜の横顔を横目にそんな事を思っていた……。




 しかし、この出会いが、この安易な頷きが、後にお互いの大切なものをぶち壊す事を俺たちは、当然ながらこの時はまだ知る由も無かった。

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