7話 B3
決闘システム。それはユリブラン学園にある生徒同士の問題解決のシステム。何か争いが起きた場合、決闘で決着をつけることができる。
また、ランキング戦も決闘で行われ、30人からなるランカーとランク外が決闘を行えば勝った方がランキング入り、負けた方がランキングから外れる。ランカー同士の場合、勝った方が上の数字になる。
ランキング入りしていない者同士の決闘は申し込まれても拒否することができるが、悪名が付くので滅多に起きない。ランキング入りしている人は申し込まれたら基本的に断れないが、一日に何件も決闘を受けてたら大変なので断ることができる条件が用意されている。
この学園の決闘システムは端的に言って、力が強い者が全てを得られるシステムだ。これはセレネベセアでの一般的な考え方と異なる。セレネベセアでは多くの人が同意できるルールで多くの人を集めて強い組織にしようという考えが強く、争いは法律に基づいて解決が普通で決闘で解決ということは無い。
ユリブラン学園が私立の学校であり、特殊ルールがあってもおかしくないとはいえこのような決闘システムが存在しているのは不思議だ。どのような理由があるのだろうか。
休み明けのユリブラン学園では、トレーニングの授業が始まった。男女で同じ時間だが内容や場所はそれぞれ異なった。腕立てや懸垂、ランニングやダッシュなど、様々な種類のトレーニングが行われた。雪剣での素振りもあり、同じように振っているのに鋭さや重心の揺れなどが人によって全然違っていた。トレーナーたちはその場で指導していった。
最後に夕方に行われた学園裏山の坂道でのランニングは結構な負荷で、体力試験を合格して入学した人たちにも関わらず授業初日からゼエゼエと息を切らしている人が半数近くいた。
「今日はここまで!各自解散!」
トレーナー代表の先生は、ゴール地点で休む生徒たちにそう宣言してウィンドウを出して何か記録を付け始めた。生徒たちはゴール地点に用意されたドリンクを飲んで休むものや、それどころじゃなく荒い呼吸をして座り込んでいるものなど様々だった。
「ふー…しかし何で内部進学組のトモイがそんなに息切らしているんだ?」
「高等部では…ここでの…練習は…なかったん…だ…」
トモイは座り込んで両手を後ろについて息を荒げていた。
「そうなのか」
「附属高校は学園の敷地の一部を使えるけど基本別々なのよ」
パーリラがやってきて答える元気のないトモイに代わって説明した。男女でコースは異なったがゴール地点は男女共通のため授業終わりに会うことができる。
「あんたは全然平気そうね」
「ここに来る前も坂道走ったりしてたからな。お前こそまだまだ余裕そうじゃん」
「まだ初日だもの。でも4日目にはきっとクタクタよ」
「かもな。まだ分からないし、序盤から飛ばし過ぎない方がいいか」
「初週は様子見ってことで、私は今日の運動はもう終わりにするわ。お風呂入って夕飯食べて一休み。その後は勉強、それを終えたら就寝よ」
まだ17時過ぎ。もう帰るのもなんだか勿体ない気もする。
「寮だから風呂も食事も準備されてて楽でいいな」
「そこは寮のいいところね。じゃ、私はお先に」
パーリラは横を見て女友達たちが呼吸を整え終わった様子を確認し、彼女たちと引き上げていった。
リベンはトモイを見て、彼が落ちついて下を向いて座っているのを確認して声をかけた。
「もう大丈夫か?」
「もう動けるよ。待たせてごめん」
「謝ることないよ」
トモイは立ち上がって土埃を払った。
「パーリラはもう寮に帰るようだが、俺の経験上一度帰って休むともう外に出る気が無くなる。強い精神力や大事な約束があればそうとは限らないけど」
「ありうる話だね。どこか行くのかい?」
「何となく勿体ないなと思っただけで、どこか目的地があるってわけじゃないけど…」
「まだ日が出てるからね。適当に歩こうか。ランク入り生徒の決闘が見られるかもしれないし」
「それだ!参考に見ておきたい」
そうしてリベンとトモイは学園内を歩き始めた。
「そういえばこの前、寮の猫を初めて生で見たよ。あいついつもどこにいるんだ?」
「ミケのことかい?彼女は普段狭いところに潜んでいるからね。簡単には見つからないよ」
「成程ね」
「食事中で姿を現していた?」
「いや、アペソン先輩の膝の上で寝ているのを見た」
「あーあの人か。猫に好かれる感じの人だものね」
「先輩のこと詳しいのか?」
「別に詳しいって程じゃないけど、入ったばかりのリベン君よりは詳しいかな」
トモイは説明を始めた。
「アペソン・チェリィウェル。演技性選手コースの3年生。美人で人柄もよく多くの人に好印象を持たれている。おおらかな性格で、人には分け隔てなく優しく接するいい人らしい。実力の方は…演技で主役の座は中々取れないみたいだ。2年生の頃の話で今年は始まったばかりだからまだ分からないけどね」
「好印象でも主役取れないのか」
「そりゃあまり関係ないもの。一緒に仕事したくなるような性格が良い人が欲しいのは運営側の都合。観客には関係ないのさ。観客が求めるのは魅力的な演技であること。僕たちが入ろうとしている業界は普通の業界と違ってケンラン業界なのだから」
「そうだったな」
復讐後も居続けるかは分からないが話を合わせておこう。
剣を通じて精神修行という選手も中にはいるが、それは珍しい。おしゃれな衣装着て光る剣振って、ファンにモテモテのチャラチャラとしたものだ。まあある意味では、その誘惑に耐えるという精神修行になるかもしれない。
「ファンも選手に高潔さや完璧さを求めていないからね。流石にドーピングや麻薬はアウトだけど。あれだけ魅力的な色気出せるのはそりゃ沢山の人と経験あるよねって分かってるし。自分にはできないようなことをする選手相手の多少の欠点には目を瞑るよ」
大変なクラス委員やってくれるのだから、多少口やかましかったりクラス委員権限を私用でちょっと使ったりするくらいは目を瞑るみたいなもんかな。ちょっと違うか?まあとにかくそんな厳しく見るものじゃない。
「だからと言ってそれに甘えちゃ駄目だけどね。でも真面目過ぎて深刻になるのもいけない」
「そうだな、程々が…あっ」
少し前に学園の芝生広場の一つで決闘が行われていたようだったが、終わった後で体が麻痺した男が膝から崩れて項垂れていた。その前には背の高い筋肉質の男が立っていて、雪剣の光る刀身を消してホルダーに入れ、仮面を外して懐にしまい立ち去っていった。その後ろを友人か子分といった感じの男が小走りで彼について行った。
「もう終わっちまったか。あの強そうな奴は誰か分かるか?」
「隣のクラスのトレアル君だね、トレアル・イーストテンプル。まああの体格からの力押しばかりで、僕個人としては彼の試合はあまり面白くないな」
「ふうん…」
力押しか…果たしてそうなのだろうか。見て無いから何とも言えないが…。
「何が理由で決闘したんだろう?」
「ランク戦だよ。新入生が入るこの時期は盛んだね」
近くにいた帰る途中の生徒が教えてくれた。
「ありがとう」
「ん」
その生徒は手を挙げて返事として、そのまま去っていった。
「終わった後しか見てないけどトレアルは強そうな雰囲気があった」
「彼は9位で末席とはいえ一桁台だからね」
「つまり13位のパーリラより上か」
パーリラが敗北感を感じていた一桁台か。
「どう?戦いたい?競技性選手目指すなら戦いたいだろう?」
トモイは煽るように尋ねつつ、ウィンドウを出して何かを調べ始めた。
「いずれは。いきなり一桁台じゃなくてまずは下の数字から」
「ははは、そうだね。まあどの道、今日はもう戦えないと思うよ」
「どういうことだ?」
「彼は今日既に3戦している。4戦目以降は断れるから」
トモイは画面共有をしてリベンに表示を見せた。
トレアルの決闘記録では今日3戦していたようだ。それぞれ名前と番号の枠の前に白星と黒星がついていて、トレアルは3戦3勝していた。対戦相手達の番号の枠は全て空白、つまりランク外からの挑戦だった。更に枠自体が黄色くマーカーが引かれていた。
「この黄色のは何だ?」
「1か月以内に戦ったことが無い相手ということ。この場合は原則決闘を断れない。でも一か月以内に戦ったことがない相手なら4人目以降なら断れる」
「なぜそんな条件が?」
「身内だけで回すのを防ぐためだよ。誰でもいいなら協力者が3人いれば八百長でランキングを維持できてしまう。この条件なら平日の約20日に1日3人で約60人の協力者がいないと実行できない。それは現実的じゃない」
「あー…成程。そういう仕掛けか」
「今日は彼に限らず決闘はもう見られないかもね」
「かもな。帰るか」
その後、リベンたちは大人しく寮へ帰った。
9位のトレアルか…。強そうだから戦ってみたくもあるが、まあそんな用事はないだろう。ランキング戦で時間とられてたら復讐計画の邪魔になるし。うーん…でも戦ってみたい。




