3話
入学式の朝、女子生徒が大慌てで走って学園に向かっていた。
「やばいやばい、初日から遅刻とか」
彼女は学園の敷地内に入ると、舗装された道ではなく、木や草の生えたエリアを横切って走っていった。
リベンは寮を出て欠伸をしながら歩いていると、突如植栽から飛び出してきた女子生徒とぶつかり、2人はその場に尻餅をついた。
リベンが起き上がって前を見るとめくれた制服のスカートから黒色の下着が見えた。女子生徒は頬を赤らめて両手でスカートを抑えて隠し、立ち上がって肩にかけた鞄を背負い直した。
「ごめん、マジ急いでたんだ!」
女子生徒は顔の横で手を合わせてまた急いで走っていった。
「あ、ああ…」
リベンはARで時計ウィンドウを出してスケジュールも横のウィンドウに表示したが、教室への集合時間までまだ時間があり、不思議に思いながらウィンドウを閉じて歩き出した。
あの人は何かの係で集まりがあるのかな。
教室に着き、黒板にある座席表を確認して席についた。教室はともかく流石に座席はARで案内表示はない。
「ふぅ…」
リベンは背中を指でトントンと突かれ、後ろを振り向いた。後ろの席の男は手を広げて爽やかにほほ笑んだ。
「初めましてリベン君。僕はトモイ。トモイ・ストンライスフィルド。よろしく」
「え?ああ、よろしくトモイ君」
リベンは急に話しかけられて戸惑ったが、すぐに慣れて受け答えした。
「同じクラス、それも前後の席になるとはラッキーだね。僕は君とお話したいと思っていたんだ」
「俺を知っていたのか?」
「映像でだけど君とパーリラ嬢の決闘を見てね。君に興味が湧いたんだ」
トモイは遠くの席のパーリラを親指で指した。名簿順では彼らと結構離れていた。
「ああ、撮影されていたのか…」
学生証を使いこなせていないが、確かカメラ機能もあったはず。誰かが撮っててもおかしくないか。
「ランク入りしている人の決闘だからね。注目も集まるってものさ。僕は演技性選手志望でランキング戦はあまり関係ないけど見るのは好きだから見る専さ」
「ふーん」
チャイムが鳴り、リベンたちは話を止めて前を向いた。
先輩が教室にやって来て、入学式の説明と会場へ案内をした。
そして入学式がつつがなく行われ、その後の部活紹介を見て教室に戻って来た。先生が教室に入り、自己紹介や学園の説明などが行われ、ケンランについても説明が行われた。
説明は先生が黒板にグラフや写真など画像を映しながら行われた。うち、重要そうな部分は以下の通り。
「ケンランは大きく2つの種類に分類される。競技性と演技性だ。競技性は試合をして頂点を目指すという普通の競技性スポーツと同じものだ。一方で演技性は劇やショーだ。その種類は多岐に渡り、ヒーローショーや殺陣のある演劇のように戦うものもあれば、剣舞のように動きを鑑賞し戦わないものもある。台本があるとはいえ、ほとんど競技性のような戦いを行うものもある」
「そして現在ケンランの利益の7割が演技性、3割が競技性となっている。しかし、競技性を切り捨てて演技性にリソースを全て回した方が効率的な経営かと言うと、そうとも言い切れない。それには3つの理由がある。第一に仮に演技性の舞台を倍にしたら観客が倍になるかというと、そうではないと推定されているから。これ以上増やしても伸びしろは限られるのだ。第二に、競技性と演技性が相互に補完しているからだ。競技性を見て、背景やストーリーのある戦いが見たい、戦いではなく剣の動きだけが見たい、といった人たちが演技性を求め、逆に演技性を見てもっと高度な戦いが見たいと言う人が競技性を求める。両方あることでケンランという娯楽がより魅力的になっているわけだ。そして第三に、競技性あっての演技性だからだ。競技性で技術が研鑽されることで演技性に活かされる。だから君たちがどちらかの道に進むにしても、学園では両方を学んでもらう」
「ケンランの収益源は主に、試合のチケット、広告料、グッズ販売、不動産収入、寄付だ。グッズに関しては写真やポスターなどは言うまでもないが、特筆すべきは仮面だろう。好きな選手と同じ物を身に付けたいというファン向けだ。シューズはそのブランドを買うことになるが、仮面は選手が一人一人違うものを付けており、同じデザインのものを買うことになる。仮面はその選手の代名詞と言えるもので大事なものだ。選手を目指す人には試行錯誤しながら自分のデザインを作っていって欲しい」
その後、授業のレクリエーションが一通り終わり、その日の授業は終了した。ハードな運動トレーニングがあるのは来週から。
「リベン君、部活どうするか決めたかい?」
トモイは後ろから声をかけ、リベンは体を横に回して顔を彼に向けて答えた。
「運動トレーニングの授業が多いようだけど部活やる体力残ってるかな」
「この学園の部活はガチな奴じゃないよ。毎週金曜日に行うリフレッシュのためのもの。偶に土曜日も。夏の園芸部なんかは水やりだけは毎日だけどね。それ以外の本格的な活動は基本金曜日だけ」
「そうなのか…」
「筋肉を回復させるために金土日の3日は激しい運動禁止だからね。ガチガチな部活はできない。まだ決めてないなら合唱部はどうだい?」
「うーん…悪いけど歌に興味ないからな」
「そうかい?まあ気が向いたら来なよ」
「じゃあ料理部はどうかしら?」
パーリラが目の前にやってきて机にもたれて話しかけた。
「パーリラは料理部だったのか」
「ええそうよ。寮生活だと料理する機会少ないでしょう?料理のカンを失わずに済むわ。それに私たち選手を目指す人たちに適したおやつ作りの勉強もできるし、世界中の食が集まるセレネベセアらしく色んな料理を学べるわ」
「成程…」
料理か…今は家庭料理程度なら作れるが、寮生活で料理しないでいると作れなくなるかもしれないな。それに情報源であるパーリラとの交流時間を増やすのは好都合だろう。しかし…。
「悪いけど遠慮するよ。ガチじゃないのなら気になる部があって」
リフレッシュで気になる部がある。復讐を果たすには長丁場になりそうだから、俺自身のリフレッシュも必要だ。
「なーんだ。ま、そこが思ってたのと違ったら料理部に来るといいわ」
パーリラは見切りをつけて他の新入生へ勧誘に行った。
「それで君の気になる部というのは?」
「野鳥観察部」
リベンはARの道案内に従い、野鳥観察部の活動場所へやってきた。すぐ近くに半裸マッチョいっぱいの部室があったが、案内マーカーがその横道を示し、それが野鳥観察部じゃなかったことに安堵した。
屋外の倉庫前に生徒たちがいて、近くの水洗い場で何かを洗っていた。リベンは人に話しかけて部長と会った。
「部長のアルベルト・ストーンブリッジ、4年だ。よろしく」
「リベン・クースです。よろしくお願いします」
「ようこそ野鳥観察部へ。体験して気に入ったらぜひ入ってくれ」
「はい」
リベンは部長と握手した。
「部長ー、バードバスの修理終わりましたー」
女子生徒の呼びかけで部長は後ろの倉庫の方を向いた。
「ご苦労さん」
「新入部員ですか?」
「体験入部だけどな」
女子生徒は部長たちの方へ近づいていった。
「メランド、こちら体験入部のリベン君だ。よろしく頼むよ」
メランドという女子生徒はリベンの顔を見て目を見開いた。
「ああーっ!あんたは今朝のスカートめくり!」
「何?」
「ちがっ、お前が飛び出して来たからぶつかってめくれたんだろうが!」
「何だそういうことか…」
部長は全てを察してメランドへ冷めた目を向けた。
「メランドはそそっかしいからな。リベン君、うちの部員がすまない」
「ぐっ、部長からの負の信頼が…」
部長の前にARの時計が出て会議10分前の通知をした。
「もうこんな時間か。すまないリベン君。部の説明は他の者にしてもらおう。メランド、彼を案内してやれ」
「えー…私ぃー?」
「話すこともあるだろう。やれ」
「はいっ、仰せのままに」
部長は時計表示を消して「会議に行ってくる」と周囲の部員に言い、部活棟の方へと早歩きで向かった。
「俺は悪くないからな」
「ごめんなさい~」
メランドはすんなり謝り、小首を傾げて上目遣いで甘えるようにリベンを見た。
「…分かったよ。許すから」
「やった!」
メランドは拳をグッと握り、満面の笑みでリベンを見た。
「自己紹介がまだだね。私はメランド・エルダーバレー。1年生だけど附属高校の頃からこの部に所属してる」
「俺はリベン・クース。今年入学の1年生」
「じゃあ同い年か。よろしくリベン」
メランドは陽気に挨拶してリベンの二の腕をパンパンと叩いた。
かわいいお調子者って感じだ。甘えられると断りにくい。便利に使われないようにしないとな。
「じゃあ早速ごあんなーい!」
メランドはリベンの腕を掴んで引っ張っていった。
次は金曜日に。
毎週金土日に更新予定です。




