22話 A1
ケンラン協会定休日、会長は協会員の後輩と2人で個室で昼食をとっていた。後輩は元選手で選手時代から会長と親交があり、その日は一緒に映画を見に行った後の昼食だった。
「我々にとって映画は娯楽産業の先輩にしてライバルです。いいところも悪いところも参考になる。特に物足りないと感じた部分はジャンルの違う我々ならできる可能性がある。そのことを忘れずにてください」
「はい」
「それでさっきの映画はどうでしたか?」
「はい。まず全体的には…」
後輩は映画の感想を言い、会長は真剣に耳を傾けて話を聞き、質問と回答を繰り返して理解を深めた。
「会長はどう思いましたか?」
「私が思うに流行の反エリート主義に上手く乗れていると思いました。貴族にでもなったかのような傲慢な敵のエリートたちが破滅する様に視聴者は大きなカタルシスを得られたのではないでしょうか」
「味方にもエリートはいたと思いますがいいんでしょうか?」
「彼は便利な舞台装置ですよ。目的地まで車を出してくれる運転手、もしくは都合のいい機械を用意してくれる発明者みたいなもの。エリートという属性は薄れるような配慮も多々ありました」
「成程…」
会長はグラスの水を一口飲み、話を続けた。
「あの映画において、かつて人々は彼らの言うことは欺瞞だと思いながらも自らが生きるためについていきました。彼らの嘘に目を背けることで余計な衝突を避け、稼ぎを得られ、生きることができたからです。しかし、もはや彼らにそんな力は無くなっていました。しょうもない商品しか作れず、人を大して雇わず、税も僅かしか払わず富を独占。その商品が売れるためには人々をそれに価値を見出す思想に変えなければなりませんでした。言うまでもなく、しょうもない商品を買いたいと思える思想なんて、現実や伝統から大きく逸脱したものとなります。彼らは先進的と誤魔化していましたね。これでは嘘に付き合う意味が無い」
会長はデザートのメロンをフォークでブスリと差し、果汁が穴から押し出された。
「先進的な考えと言うのは非常識なものですが、非常識な考えだから先進的な考えとは限りません。もし彼らが優れた商品を産み出せて、多くの人を雇えて、多くの人に富を与える力があったのなら、人々はあれが先進的な考えというのは欺瞞と思いながらも付き従ったことでしょう。しかしそうはならずもはや言葉を濁す必要もなく非常識で気持ち悪いと堂々と言って終わりでした。我々も他人事ではありません」
「そんな…私たちはあんな酷いことしてませんよ」
「あれは映画ですから分かりやすく皮肉って表現したもので、現実ではそんな直球なものではありません」
会長は真剣な眼差しで後輩を見て、後輩は冗談で言っていないのだと理解し、気が引き締まった。
「我々も稼ぐ力を失えば人々が我々の業界は必要などという欺瞞に付き合うことがなくなり敗北者となります。人々のニーズを正確に読み取り、優れた商品を作り出して提供し、多くの人に富をもたらして栄えなければなりません。でなければ我々は破滅するのですから」
2人はその後も個室で人に聞かれず話していた。その店は大通りに面した立派な店。大通りにはいつもと変わらず人々が歩き、その街は港の近くにあり、その日も多くの船が出入りしていた。
週明け、トレーニングの授業が終わった後、リベンはフランクを見つけ出して決闘を申し込んだ。
「フランク先輩。あなたに順位を賭けた決闘を申し込みます」
「今からか?…まあいいか、受けて立つぜ」
リベンは学生証のボタンを押し、決闘申請をしてフランクはそれを受けた。
2人は近くの広場に移動し、仮面と雪剣を出して決闘を始めた。見学の生徒たちがARで表示された枠外に出て、3カウントが始まった。
リベンは体の正面に両手で持った剣を構え、フランクは右手で剣を持って体の前に斜めに構え、左手は軽く握って脇を締めていた。
「3」
「2」
「1」
「0」
すぐに2人とも距離を詰め、リベンが立ち止まった後もフランクは前に出た。リベンの間合いに入って来たことで即座に突いた。フランクは体を捻って突きをかわして次の横斬りを両手持ちにした剣で正面から受け、斜め後ろに向かって移動した。フランクは斜め後ろだがそれはリベンから見て接近する方向。
リベンは反発力で剣を手元に戻しつつ引き戻し、正面に構え次の突きに備えた。
しかし次の瞬間、一瞬のうちにフランクは剣を両手持ちから右手持ちに切り替え、踏み込みながら殴るように拳を伸ばし、リベンの左腕を斬りつけた。リベンは剣の動きを予想して構えていたが、この動きは想定外だった。
そしてフランクは反発して戻った剣を両手持ちにして振り下ろし、片手持ちのリベンの剣を下へ押しのけ、返す刃でリベンの胴から胸へ斬り上げた。
「ぐっ…」
リベンは全身が麻痺して膝をついて項垂れた。ウィンドウには勝者フランク・ハイブリッジと表示され、それぞれの名前の前に出る数字の変更はなし。決闘が終了した。
負けた…。完全に読み外した…。体術のような動きだと分かっていたはずなのに…。
この前の街での不良との戦いのように防御せずにかわすだけだったら追撃で倒せると思ったが防御された。剣での戦い方と素手での戦い方を使い分け出来ているわけか。直近の印象に引っ張られすぎたか…。
フランクはしゃがんで地面に落ちたリベンの雪剣をオフにして刀身を消し、リベンの前に置いた。
「鋭い突きだったな。でもまだまだ負けられないぜ」
「……」
リベンは体が麻痺して喋れなかった。
「でもありがとよ。お前のおかげで俺も上位に挑戦する気持ちを思い出した。行ってくる」
フランクは立ち上がって手を振り、上位ランカーを探しに行った。
入れ替わるようにパーリラやトモイたちがリベンの近くにやって来て声をかけた。
「おつかれさま。まだ一学期、次があるさ」
「あんたでも7位には勝てないのね…」
パーリラはポケットからハンカチを出してリベンの雪剣についた土埃を取って拭いた。
「私は心のどこかで、私が負けたのはあんたがとんでもなく強かったから仕方のないことなのかもと思っていた。でもあんたは8位相当の実力と確定したことでその幻想を打ち砕かれた。いや、こんなこと言ってもしょうがないわね。ごめんなさい」
「……」
近くの校舎と校舎を繋ぐ連絡橋から決闘の様子を見ていた2人の男子生徒がいた。1人は立ち、もう1人は橋の手摺に腕を置いてもたれかかって見ていた。
「おや、リベン君はここで打ち止めですか。キー君や僕のところまで登って来るのを楽しみにしていたのですが」
「まだ1年生の始めでござる。打ち止めと言うには早いでござるよ」
「はーい。でも僕らは3年生でランキング戦ができるのあと1年も無いですからあんまり待てませんよ」
「おぬしの方から出向けばいいでござる」
「順位が僕と1つ…いやせめて3つ違いになってくれないと戦うのは嫌ですよ。あんまり離れていると弱い者いじめみたいじゃないですか」
「…難儀なことでござるな」
リベンは麻痺が解けかけて体を起こした。橋の上で見ていた2人は歩き出した。
「雪剣はいいですね。相手を怪我をさせることなく勝つことができるのですから。ところで君はいつまでその喋り方なんです?」
「これが自然になるよう馴染むまでは続けるでござる。内定しているチームからの希望でござるよ」
「大変ですねえ。僕の内定しているチームはそういうの無くて良かったです」
「そうは言ってもこれはこれで楽しいでござるよ」
2人は校舎に入ってどこかへと行った。
リベンの麻痺が解け、フランクが決闘していないか探していると一緒にいるパーリラが人だかりを指さした。
「あれじゃない?」
「行ってみよう」
近づいて見ると確かに決闘だった。しかしリベンたちが見に来た時には既に勝負はついていた。すなわち、フランクが麻痺して倒れ、対戦相手の女子生徒が立っていた。
宙に浮かぶウィンドウには勝者シュロン・アドウィステリアと表示されていた。名前の前にある数字は6と7の変動は無し。
フランク先輩が負けた…?上にまだ6人いるのだから当然ではあるけど、いざ目の当たりにするとショックだ。
シュロンはしゃがんでフランクの雪剣をオフにして刀身を消し、立ち上がってその場から離れていった。そして離れる途中にミクロナが駆け寄った。
「シロちゃんお疲れ。6位防衛おめでとう」
「…シロちゃん?」
リベンが立ち尽くしているとミクロナが気づいて声をかけた。
「あっ、ベンちゃん!ほらシロちゃん、ベンちゃんだよ。覚えてる?」
シュロンはミクロナの目線を追ってリベンをじっと見た。
「…彼がベンだったんだ。変わってるから分からなかったよ。クロは良く気づいたね」
「分かるよそれくらい」
「久しぶり、あたしのこと覚えてる?シュロンだよ。シュロン・アドウィステリア」
「ほ、本当に…?」
「本当に」
リベンが幼いころに少年だと思っていた人は女子のトレーニングウェアを着て目の前に立っていた。




