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壁転生 壁になって悩める若者たちを高みの見物  作者: Ridge


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17/23

17話 B9

 昼休み、リベンが指定の場所に向かうと先の方にロバーツが歩いているのが見え、僅かな差で遅れて着いた。辺りは草と土の匂いがして、歩く音は芝生に吸い込まれていった。


「来たか。では早速始めるぞ」

「はい」


 2人は仮面を付けて雪剣を起動し、学生証で決闘開始の操作をした。見物の生徒たちがARで表示された枠の外に出ていき、カウントダウンが始まった。


「3」

「2」

「1」


「0」


 2人とも剣を体の前で構え、じりじりと歩いて距離を詰めた。剣先の間に拳一つ分ほどの隙間ができるとリベンは珍しく先制攻撃を仕掛けた。

 リベンは前に踏み込み、勢いよく突くも横に押しのけて払われ、相手に剣を振り降ろされた。剣を引きつつ横にして受け、続けてロバーツの荒々しい連続の斬撃を剣の角度を変えながら受け流し続けて機会を待った。

 衝突と反発を繰り返す雪剣の刃の光の軌跡が斬撃の激しさを物語っていた。トモイの言った見ごたえがあるというのはこのことだった。


 ロバーツの戦闘スタイルは軽い攻撃で相手を牽制し、相手が重い一撃に対処しようと力を入れて動きが硬直するか、あるいは逆に軽い攻撃だと油断して受けきれなくなるかを誘い、隙を突くこと。リベンの基本スタイルである守って隙を伺い、隙を突いて攻撃に転じるものとは攻めが主体と守りが主体という違いはあるが、隙を誘い出すという点では同じ。


 ロバーツの攻撃は確かに授業や道場で学ぶ剣と比べると大ぶりで荒々しく野性的と評されるのも理解できる。しかし、振り幅が不規則で、何も考えずに野生の勘でそんなことができるとは思えない。むしろ計算高く見える。無意識のうちに癖で似たような間隔にならないように練習していることだろう。


 これによって相手はリズムを狂わされる。定石通りの動きではない場合、動きが読めなくなるがその代わりに無駄が多くなる。普通なら瞬時に剣を戻せる動きを警戒して構えたところに、無駄な動きでワンテンポずれるといった具合に隙を突ける。読みにくい動きで相手が警戒して守りを固めることで無駄な動きを入れる余裕ができる。それが相手をより守勢にさせる。


 リベンは相手の剣を受けながら自分の剣で押しのけ、後退しながら相手の腕めがけて斬りつけたり、逆に前に出て押しのけつつ振り下ろした。いずれもロバーツにはかわされた。


 しかし異変が生じていた。ロバーツの攻撃は徐々に荒々しさを失い、洗練された動きになっている。

 そして決定的な瞬間は訪れた。ロバーツの突きに対し、リベンは強く前に踏み込み、横斬りで相手の胴を斬りつけながら横を抜けた。


「がっ…」


 ロバーツは体が麻痺して膝から落ちて両腕を地面についた。立っていたリベンが片手で剣を振り下ろして背中を斬りつけ、決闘が終了した。

 ウィンドウの名前の前の数字8と9が入れ替わり、順位が入れ替わった。


 最後のは危なかった。読み外したら掠る程度では済まなかっただろう。徐々にランク上げがきつくなっていく。今の俺の実力では限界が近いか?


 リベンはかわしきれなかったロバーツの雪剣が肩に掠り、左腕に痺れがあるが決闘に勝利した。雪剣の刃を消し、仮面を取ってホルダーにしまった。


 ロバーツに有効な戦い方は単純なことだが攻勢に回り、相手の攻撃回数を減らすこと。言うのは簡単だが実際にやるのは容易ではない。

 有効な手はもう一つある。積極的に反撃をして無駄のある動きでは隙を突かれると印象付けることで、定石を外した動きを減らし、読みやすい動きに誘導する。そうなれば相手の強みを打ち消し、型に嵌まった動きで戦える。


 リベンはしゃがんでロバーツの雪剣に触れて刀身をオフにした。


「おめでとう。君が新たな8位だ。どこまで昇るか見てみたいものだ」

「どうも」


 やはりトモイの言うような苦手意識を植え付けようとしている人には思えない。単に戦いたいだけだろう。

 8位も9位も強かった。まだ上に行けるだろうか。自分の実力がどこまで通用するのか気になるところではあるが、今はそれよりも大事なことがある。


「聞きたいことがあります」

「何か?」

「先輩はツーホ・ルベンシュの後継者を名乗っていると」

「然り」

「彼女から何か託されたのですか?何か頼まれたのですか?」

「否」

「では後継者とはどういうことですか?」

「かの魔女の意志を受け継ぐもの」

「意志…何をするつもりです?」


 復讐のことは知らないと思う。おそらく、魔女という噂に関する方だろう。


「彼女の噂は多々あるが、重要なのはケンラン業界の発展のための考えが受け入れられなかったということ。すなわちもっと過激にもっと刺激的にという理念」

「怪我をさせるということですか?」

「我が望むのは雪剣ではなく殺傷能力のある真剣での試合。血を流しながら斬りつけ合い、試合後の床に血溜まりができ臓器が散らばる、命がけの試合なんて最高に盛り上がるではないか。フフフ…」


 この人は何を言っているんだ?注目したのは黒魔術や生け贄という方ではなく殺傷力の方だったか。魔女なんて呼ぶからややこしい。


「殺人ショーなんてウケないですよ。それに死ぬと分かってたら選手が集まりません。商売になりませんよ」

「売れなくてもいい」

「…それでその夢をどうやって実現するつもりです?真剣を振り回してたら退学どころか逮捕ですよ」

「左様。故にまずは上位ランキングを目指して目立ち、同じ考えのパトロンの目に留まるようにする。それまでは真剣は封印だ」


 どこまで本気か分からないが、すぐに何かするわけではなさそうだ。そんなパトロンなんてそうそう現れやしないだろうし、時間が経てば気づくかもしれない。人殺しなんて良くないと。

 俺が言える義理じゃない。俺がやったことは?やろうとしてることは?母さんのは介錯だ、あれは自殺だ。エジンへの復讐だってそもそも母さんを追放して苦しめなければこんなことには…。そうだ、遊びで殺すのとは違う。

 そうとも。俺は命の重みを感じている。もし感じていないなら母さんの命を奪ってその命を背負ったと考えるものか。どうでもよければ復讐を継いだりしない。


 ロバーツは麻痺が少し解けて体を起こして座り込んだ。


「お前も我の考えとは相容れぬようだな」

「ええ」


 リベンは立ち上がり、観戦していたトモイ達の方へ向くと、ロバーツはボソリと呟き始めた。


「お前との試合は楽しかった。…殺し合いじゃなくて良かった」

「えっ?何か言いましたか?」

「何でもない」

「そうですか」


 リベンは麻痺の解けかけた左手を閉じたり開いたりしながらトモイ達のもとへ歩いた。



 そして教室に戻って昼食をとりながら話をした。


「…確かに変わった人だった。確かに勝負事が好きなようだけど、それが雪剣での安全なものではなく、真剣での殺し合いがいいなんて危ない人じゃないか?」

「僕は本気だと思えないな」

「そうかな?」

「あの人は悪役とかアウトロー、それからオカルト、スプラッターが好きなだけ。演技性ケンランでも人気の悪役は珍しいことじゃない。現実では引くけどフィクションなら好き、あるいは辛いけど気になって見てしまうということ多々あるじゃないか」

「…それもそうだな。俺の考えすぎか」


 結局、ロバーツ先輩は悪役という属性に惹かれただけで母さんとの繋がりは無さそうだ。ちょうど隠れ蓑になる。母さんが悪役というのは気に入らないが、反論して目立つのも危険だからそういうことにしておこう。


 リベンは服の裾をくいくいと引っ張られて横を見るとパーリラが立っていた。


「8位に上昇おめでとう。一応祝ってあげるわ」

「一応、か。ありがとう」

「差がますます開くから素直に喜べなくて悪いわね」

「それを聞いてむしろ安心した。微妙な気持ちだよな」


 その後、パーリラは恥ずかしそうに目を逸らし、左手で右手首を握って黙った。


「それから…朝は悪かったわね。大人げなくって。あんたはあの人と私が親子だって知ってるから、聞けばいいじゃんと思うのは自然なことよね。それなのに私ムキになっちゃって…ごめん」

「ああ。これでまた元通り話せて嬉しいよ」


 パーリラは左手を右腕から離し、顔も明るくなった。


「君の予想通りだったね。放っておいても戻って来るって」

「何それ?」


 笑顔が消え、じとーっとした目でリベンを見た。


「リベン君は放っておいても君が私も大人げなかったわと言って戻って来ると予想していたんだよ」

「何だか思い通りって感じで嫌ね」

「安心しろ。お前のことは全然読めなくて、たまたま一つ当たっただけ。もっと分かりやすいといいのに」

「お生憎様。そういう性分なのよ」


 パーリラはフフンと笑って上機嫌に去っていった。

 やっぱりあいつの行動は読めない。剣筋は分かりやすいのに。しかし分からないと諦めたくはない。理解したい。利用するためか?それとも個人的な興味か?…まあどちらにせよ解いてみせる。

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