10話 B6
昼休み、広場の一つでリベンはトレアルを待っていた。
「待たせたな」
「俺もついさっき来たところだ」
「フン」
2人は向き合って立つと体格差が一目瞭然だった。身長は頭一つほどトレアルの方が高かった。
「内容の確認。俺が勝ったら朝の件をパーリラに謝ってもらう」
「ついでにお前は自動的に9位の座を得る。俺が勝ったらくだらない騒ぎにしたことを謝り、鎮めるべく行動してもらう。いいな?」
「異論なし」
「よし、さっさと始めるぞ」
2人は後退しながら仮面をつけて目元を覆い、雪剣を起動して光る刀身を出して構え、距離を取って立ち止まった。
そしてウィンドウに数字が出て3カウントを始めた。
「3」
「2」
「1」
「0」
トレアルはリベンから見て左側から弧を描くように歩み寄り、リベンは姿勢を低くして剣先を左に向けて横に構えて前に歩いた。
距離を詰めるにつれて互いに進める歩が遅くなり、空気が張り詰めた。トレアルは右利きのリベンの左側から攻めようと回り込もうとするも、リベンが剣を横に構えながら常に正面に来るように回るため剣先が向いたままでトレアルは攻撃のタイミングを計りかねていた。しかし、回り込むペースを一定にして規則性を印象付け、攪乱して崩すための仕込みは行っていた。
トレアルは足を強く踏みしめて斬りこむ雰囲気を演出したが、リベンはそれがフェイントだと見抜いて動かなかった。
そして次の手をとトレアルが足に入れた力を抜いた瞬間、リベンは突き手元に戻しつつ姿勢を更に低くしつつ横斬りで斬りつけた。
トレアルは瞬時に後ろに後退し、足に掠った程度で済んだ。そして大振りとなって隙のできたリベンが立て直す前に急いで真上から剣を振り下ろした。
リベンは剣を起こして斜めに受けて相手の剣を滑らせ、右腕目指して上から斬りつけた。しかし、トレアルは右手を剣から弾くように離して避けた。
「!」
リベンは左後ろに下がって距離を取り、トレアルの再び両手で剣を握って横に斬りつける攻撃は空振りに終わった。
まさか手を離して避けるとは…。筋力があればテクニカルな動きもできる。やはり力押しだけではなかった。ただ、それを使うまでもない相手が多かっただけのこと。
最初だって体格差で攻め込むことを想定して反撃できるように構えていたが、それを察知して簡単には攻め込んでこなかった。中々隙を見せない。
しかし、次で終わりだ。
リベンは頭上に剣を持って構えた。それは自分より体格のいい相手に力勝負でもするかのような構え。
「?」
このリベンとかいう奴、一体何のつもりだ?今までの打ち合いからして油断していい相手ではない。面倒になって雑になったという訳ではないだろう。何らかのフェイントか?それとも俺を混乱させて攻めにくくする作戦か?こうして迷わせるのが目的なら、既に奴の術中にはまってしまっている。これ以上考えるのはよそう。ここは攻めて奴のペースを崩すべき。
トレアルは正面に剣を構えて前に踏み込んだ。
リベンは体を前に倒して剣を勢いよく振り下ろした。その剣はトレアルの構える剣よりも前で落ち、地面に当たり、反動で少し上に浮いた。そして更に低く構えて前に出てトレアルの右足を突き、横斬りで左足を斬りつけた。
上から斬るように見せかけ、地面に叩きつけて反動で浮かせて足元を攻撃するのは真剣では刃こぼれするため中々できないが、刀身が再構築される雪剣ではできる技。一見して焦って早く振り下ろしたようにしか見えないのが奇襲性を高めていた。二度は通用しないだろう。
トレアルは両足が麻痺してうつ伏せに倒れ込み、最後に背中から雪剣を刺され、決闘が終了した。
「俺の勝ちだ」
2人とも刀身を消して仮面を取った。ウィンドウに映ったリベンの名前の前に数字の9が加わった。
「くっ…」
やはり高身長は足元の防御が手薄。しかし分かっていても当てるのは難しい。大きな体格から繰り出される攻撃は重く、筋力もあって素早く器用な動きもできるため、隙を突くのが難しいからだ。
「さて、麻痺が解けたら約束通りに謝ってもらう」
「…分かってる」
「それまで少し時間がある。パーリラがあんなに怯えていたのは変だ。もう二度と酷いことを出来ないように…」
「だから本当に何もされてないんだってば!」
パーリラが駆け寄って来てリベンの腕を引いて、薄い胸に抱いて体全体を使って引き離し、誤解しているのだと強く伝えた。
「本当にただ決闘に負けて萎縮するようになったんだから。トレアルは体が大きくて力が強くて威圧感があって…怖くて…。情けなくて恥ずかしいんだから喋らせないでよ!」
「ご、ごめん…」
そういえばパーリラと戦った時、体重をかけた重い一撃を入れる攻撃から入っていた。それが彼女の戦闘スタイルで、自分の体重でこの威力なら、もっと重い相手ならどうなるかが想像しやすく、恐怖感が増したのかもしれない。
「早とちりしてごめん」
「まったく…。でも分かってくれて良かったわ。聞く耳持たなかったら戦うしかないのかと」
「それは良かった」
「うっ…」
トレアルは麻痺がまだ抜けきっていないが、少し動けるようになって立ち上がり、2人は彼の方を向いた。
「すまなかった。イライラして人に当たってしまって。上位ランカーであることから調子に乗っていた。もうしない」
トレアルは立ち上がって衣服を正し、パーリラに頭を下げて謝った。
「えっ、あ、うん…。怒ってないから顔を上げて」
パーリラは驚いてたじろいだ。
トレアルは頭を上げてパーリラの顔を伺った。
「許してもらえたということか?」
「そう、そういうこと」
それを聞き、トレアルは力を抜いて肩を下ろした。
「そもそもどうしてイライラしていたんだ?」
「決闘を申し込まれてばかりでイライラしていた。トレーニングで疲れているのに毎日毎日次から次へと挑まれて」
「ああ…成程」
お前もか、みたいなことを言っていたな。そういうことだったのか。
「9位ってのは一桁台の一番下だからな。足がかりとして狙われやすい。今度はお前が狙われる番だ。そして俺はランキング外」
トレアルは喪失感でぼんやりとしながらも、重荷が無くなって表情から険が無くなっていた。
「戦ってくれてありがとな。調子に乗っていたと気づかせてくれて」
「こっちこそ、挑戦を受けてくれてありがとう」
何だ、イライラしておかしくなっていただけで話が分かる人なのか。仲良くできそう。
「だが勘違いするなよ。感謝はするが俺の大事な順位をかっさらっていった憎たらしい奴に変わりはない。また下の順位からやり直す。そしてまた一位を目指す。お前が上に居続けることができたらまた戦うことがあるだろう。じゃあな」
トレアルはまだ現実感が無いふわふわとした足取りで去っていき、友人たちが駆け寄っていった。
「さてと、これで一件落着。昼食にしよう」
「…そうね。話したいことがあるし一緒にいい?」
「ああ」
その後、見物していたトモイたちがやって来てランキング入りを祝福され、青葉の茂るパーゴラの下で皆で弁当を食べた。パーゴラの下でパーリラたちと食事、ややこしい。
「…まあ、ありがとうと言っておくわ。私の代わりに決闘してくれて。でも目立っていい迷惑よ」
「自分の女を傷つけられて怒り戦う。相手は一桁台でも臆することなく挑み、そして撃破。目立つねこれは」
「そう、それ!そうなるから嫌だったのよ!なんか不良の喧嘩っぽくて野蛮で素直に喜べないわ!それにただの友達だから!」
「とか言ってるけどどうなんだい?」
「パーリラの言う通り。それにパーリラは守られる存在として見られるのは嫌がるだろう」
「その通りよ。それを分かっててトレアルと決闘したの?」
「だって向こうが悪いのにランキング上位だから許されるなんて横暴には腹が立つじゃないか。俺自身がすっきりするためだよ」
「そんなこと言ってえ。素直じゃないねえ」
「本当は戦いたくて挑んだんじゃないかい?競技性選手志望としてランキング入りした生徒と戦いたくなったんだろ?」
「…想像に任せるよ」
リベンは目を閉じてコップに入れたお茶を飲んで黙った。
やってしまった。ランキング入りなんて目立つことをしてしまったら復讐計画の障害になるだろう。競技性選手を目指すと言っているのだから、ランキング入りを目指すものだが、何かと理由を付けて断ろうとしていたのに。
復讐は乗り気ではないが母さんの命を背負っているからやらなきゃ駄目だという考えがあった。やりたくなくて、こうなっては復讐は無理だと思うためのミスを無意識で行ったのか?しかしこの程度では全然だ、やりづらくなったが続行できる。より大変な状況に持って行っただけだ。どうしたもんかな…。
「浮かない顔ね。折角ランキング入りしたんだから今日くらいは喜びなさいよ」
「あ、ああ…」
パーリラはリベンの頬を左右の人差し指で押して口角を上げさせ、真似をするようにと笑って見せた。リベンは彼女の笑顔につられて笑みを浮かべた。




