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君のいない海に夏めく  作者: アルファベータ


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2/2

僕がいない海に夏めいて

◇◆◇


プロローグ


――僕は、冬が怖かった。


冷たい空気が肺に入るたび、

体の奥がきしむように痛んだ。


雪が降ると、世界は静かになる。

その静けさが、僕には少しだけ重かった。


「雪合戦しようぜ!」


君は目を輝かせて言う。

冬が来るたび、毎年同じ調子で。


「寒いの無理なんだって」


僕がそう言って笑うのは、もう癖みたいなものだった。

本当の理由を言うつもりはなかった。


だって言ったら、

君はきっと、冬を嫌いになってしまうから。


それは、嫌だった。


君が好きなものを、

僕のせいで奪いたくなかった。


だから僕は、冬が嫌いなふりをした。


◇◆◇


君は、夏が嫌いだと言っていた。


照りつける太陽も、

騒がしい浜辺も、

全部うるさいって、言っていたけど。


「海、行こうぜ」


僕は毎年そう言った。

正直に言えば、海が特別好きだったわけじゃない。


ただ、夏は体が少し楽だった。

冷えない。

息が苦しくならない。


それに――

君と一緒にいられる時間が、確実に残っている季節だった。


「またかよ」


君はいつも不満そうだったけど、

結局、断らなかった。


その横顔を見るたび、

少しだけ安心して、

少しだけ胸が痛んだ。


(ごめんな)


心の中で、何度もそう思っていた。


◇◆◇


病気のことは、最初から知っていた。


治らないことも、

長くはないことも。


医者の言葉は淡々としていて、

まるで他人事みたいだった。


「無理をしなければ、日常生活は送れるでしょう」


その“無理”が、冬だった。


寒さ。

冷え。

体力を奪う季節。


君はそれを知らない。

だから、冬を心から楽しんでいる。


それでいい。

それがいい。


「なんでそんなに冬を嫌がるんだよ」


そう聞かれたとき、

一瞬だけ、全部話してしまいたくなった。


でも、君は冬が好きだ。

雪が好きだ。

生きている実感がすると言っていた。


だから僕は笑った。


「人それぞれだろ」


それ以上、踏み込ませないための言葉だった。


◇◆◇


だんだん、体がついてこなくなった。


学校を休む日が増え、

外に出るのもしんどくなった。


君に会うと、

楽しいのに、苦しくなった。


君の時間を、

自分の終わりに近い時間で汚している気がした。


ある日、決めた。


――もう、会わない。


連絡もしない。

理由も言わない。


最低だと思った。

でも、これ以上一緒にいたら、

君はきっと、僕の変化に気づく。


そして、優しい君は、

自分の季節を削ってしまう。


それだけは、嫌だった。


◇◆◇


最後に見た君は、冬の中に立っていた。


雪が降る日。

一人で。


遠くから見ただけだった。

声はかけなかった。


君は空を見上げて、

白い息を吐いていた。


ああ、

やっぱり冬が好きなんだな。


その姿を見て、

少しだけ、救われた気がした。


◇◆◇


エピローグ


夏が来るだろう。


海へ行こうなんて、

もう言えない。


でも、もし君が海に立っていたら、

きっとわかる。


僕は、そこにいなくても、

君の夏の中にいる。


君が季節を巡るたび、

少しだけ思い出してくれればいい。


冬が好きな君。

夏が嫌いだった君。


それでも一緒に並んだ時間は、

確かにあった。


――君は、僕の友達だった。


それだけで、

僕の人生は、

十分すぎるほど、きらめいていた。


君のいる世界に、

これからも季節が巡りますように。


君のいない場所から、

静かに、そう願っている。



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