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忘却の白百合

作者: 夜渡
掲載日:2025/12/21

 扉がある。暗闇の中に白い扉だけが見える。私はドアノブに手をかけ扉を開く。


 学校だ。古ぼけた教室には並んではいるが所々ずれた机が並んでいる。歩きながら机を撫でていく。それに何の意味もなかった。だけど、冷ややかで滑らかな机の手触りが心地いい。机には代々刻まれてきたであろう名前や落書きがある。誰もが初めて手にした彫刻刀や定規で削ってきたのだろう。


 ふと、窓の外を見る。外は日が沈みかけているが校庭で遊ぶ子供たちが居る。顔は見えないし声も聞こえないが一つのボールを追って走り回っているのを見ると懐かしさを覚える。


 私は教室の扉に手を掛けようとしたとき視線を感じ振り返る。そこには視線の主は居なかったが一番端の窓際の席に先ほどまでなかった花瓶があった。近づき俺はその机を見るが何も分からない。花瓶には白百合の花が添えられており美しく咲き誇っていた。


 私は教室を出る。最後に花瓶を見るとそこには白く美しい白百合は無く、赤い彼岸花があった。


 教室を出た先は日の光が温かい公園だった。ブランコがあり、シーソーがあり、滑り台がある。よく分からない揺れる動物の遊具もだ。決して広くはないが遊ぶには十分な大きさの公園には誰もいない。


 私は無意識にブランコに腰を掛けブランコを漕ぐ。大人であるため足は地面に着き漕ぎづらく、子供より重いためブランコはあの日より空高くへは上がらない。それでもなぜか私は漕いで空高くを目指そうとする。少し童心に返り、何かを思い出せそうな気がする。


 その時、誰も座っていないはずの横のブランコがひとりでに揺れ始める。そのブランコは私を越え空高くまで上がる。そしてそのままの勢いで飛んだのかブランコが大きく揺れ、段々と勢いがなくなっていく。私もそれにつられブランコから大きく飛ぶ。柵を越え、どこまでも飛んでいけそうな気がした。地面に着地し、ブランコの方を見ると先ほどまで揺れていたブランコには白いハンカチが掛かっていた。


 「しらさき ゆりこ」とハンカチにはそう刺繍で縫い付けられていたが私には何も思い出せない。だがその名前には驚くほど馴染みがある。しかし、思い出せない。私はそのハンカチを持ち公園を後にする。


 公園を出た先には荘厳な気配を感じる博物館があった。その圧倒的な存在感に立ち尽くしていると一人の少女が博物館に入っていくのが見えた。私は反射的に追って博物館に入っていった。


 博物館の中は部屋などは無くただ白い空間が一直線に広がっていた。横にはガラスのショーケースに展示された何かが一列にきれいに並べられていた。


 けれど、決定的に普通の博物館と違う点があった。それは展示されている一つ一つが私の思い出だったからだ。思い出の人形、サッカーボール、初めて作った拙い泥団子、入学式の写真、学生服、様々な私の思い出の物が展示されていた。


 私は郷愁に浸りながら博物館を進んでいく。進み続けるとガラリと雰囲気が変わった。私の物じゃない。女児服だったりおままごとのセットだったりと女の子の物が展示されている。私の写真もあったが顔だけが黒く塗りつぶされた女の子と写っているものばっかりだった。


 分からない。なぜ私はこの女の子と一緒に写っているんだ?それに私にはこの女の子の記憶が...いや、違うあったんだ。私はこの女の子のことを知っている。知っているはずだったんだ。だけど記憶がない、なぜだ。何があった?


 私がそのことに気づくと白く美しい博物館はどこからか溢れ出した血によって赤に染まってゆく。私は進もうとするが足が動かない。まるでこの先に進むことが死にに行くことだと言うように。


 動かない足を私は叩いて進む。亀のように遅いが一歩づつ進んでいく。周りの展示品は血にまみれ壊れぐちゃぐちゃになっていた。だが私の足は止まらない。


 そして一つの展示品に私はたどり着く。そこに飾ってあったのは白百合と彼岸花が飾られた花瓶と一つの写真だった。写真には幼き日の私と太陽にまぶしい笑顔の女の子がいた。


 私は思い出した。彼女のことを。なぜ忘れていたのかも。すべてを思い出したとき、博物館が崩れていく。天井が壁が床が崩れ、私は落ちていく。


 次に目を覚ますとそこは遥か彼方の地平線まで続く白百合の花畑だった。その花畑に一人の女の子が佇んでいる。


 次に瞬間、私は涙を流していた。もう一度会えたことの感動かそれとも言えに言えぬ安心感か。もしくはそのどちらもか。私は花畑を駆けだし女の子に抱き着く。顔からは涙が止めどなく溢れ出し、鳴き声しか出なかった。そんな私に女の子は優しく抱き返し、私から離れた。


 彼女は少し寂しそうな顔をしていると、周りの白百合は彼岸花へと変わり風が吹き荒れる。彼岸花が風に乗り赤く視界を埋め尽くしていく。私は彼女に近づこうとするが、彼女はこれ以上来るなという風に手を前に出す。赤が視界を埋め尽くし彼女の姿が見えなくなっていく。私は懸命に手を伸ばし、彼女に迫るが届かない。完璧に視界が赤に埋め尽くされる前に最後に見えた彼女は優しく微笑み私に何かを伝えていた。


 そこで私は目が覚める。彼女が私に何を伝えようとしたのかは分からなかったが私の心は彼女の気持ちが伝わったような気がした。私は体を起こし、縄をほどき、カーテンを開ける。朝日がまぶしいが今はそれが心地よかった。


 私は扉を開け、外に出る。扉の先は澄み渡るような青い空が広がっていた。そしてその手には白いハンカチと白百合がしっかりと握られてあった。

なんかエモいものが書きたかったんで衝動的に書きました。

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