放課後。図書室で、君に。
放課後の図書室には、決まってひとりの男の子がいた。
白川蒼くん。
同じクラスなのに、話したこともほとんどなかった無口な人。
でも、彼の隣の席が、私の“好きな場所”になったのは、たぶん偶然じゃなかった。
「……今日も来たんだね」
「うん、白川くんもでしょ」
二人で並んで本を読むだけ。
最初はそれだけだったのに、彼がページをめくる指とか、ちょっと本の内容に笑う顔とか、見れば見るほど気になってしまった。
「君って、静かだけど……よく笑うよね」
「えっ、私?」
「うん。そういうとこ、ちょっと、いいなって思ってた」
思わず本を閉じて、彼の顔を見てしまう。
彼は、まっすぐこっちを見ていた。
瞳の奥が少しだけ揺れていて、でも言葉はすごく真っ直ぐだった。
「……わたしも、白川くんのこと、気になってた」
「ほんとに?」
「うん。最初は、静かな人だなって。でも、図書室で一緒にいるうちに……好きになった」
静かな空気の中で、時計の針の音がやけに大きく響いた。
でも、それよりも。
彼が、少し頬を赤くして、私の手をそっと取った感触の方が、ずっと、ずっと強かった。
「じゃあさ……このまま、本のつづきじゃなくて、君ともっといろんな“話”をしたいな」
彼の声が、今まででいちばん近くて、あたたかかった。