義弟が可愛いので虐めたくありません!〜ゲームで俺は死にキャラ、義弟は攻略対象〜
――今の状況は?
……母親が死んで、葬儀をした一ヶ月後に継母と再婚した父親。その一週間後に父親と継母が馬車で事故って死んだ。父親の不倫と両親の死でショックを起こし前世を思い出した俺。ふむ、なるほど……。
この俺にはもう1人家族がいるらしい。父親にそっくりな異母兄弟の義弟……。
俺8歳、義弟5歳。…………これは父親やってるわ、幼い俺でもわかったからな。でも義弟に罪はない。とりあえず会ってみるか、会ったことないんだよなぁ。
◇
俺は本館の方に歩みを進め、執事長のセバスを呼び、義弟の部屋を目指す。
「パクス様のお部屋はこちらでございます。ルシオス様、あの、驚かないでくださいませ。継母様の趣味だったのです……」
俺は不思議に思いながら扉をノックし、部屋に入る。
目の前には金色の長い髪の毛にピンク色のドレスヘッドを着ける、青色の瞳をした美少女がいた。手にはウサギのぬいぐるみを持っておりとても可愛かったが……。義弟……だよな? なんでピンクのフリフリドレス着てんだ? しかも部屋が一面ピンク、それにレースがついたベッドって……。どこをどうみても女の子……。
俺に説明プリーズ‼︎
「あ、あの、はじめ、まして、パクス・アークライトと申します……。あの、兄さま? でしょうか??」
「あぁ、ごめん。自己紹介がまだだったね。私の名前はルシオス・アークライト、君の兄さんだ」
「はわわ⁉︎ やはり、そうなのですか? おあいできて、うれしいです! 母様と父様には会ってはいけないと言われていたのでうれしいです!」
義弟は頬を桃色に染め上げとても嬉しそうにはにかんだ。……そんなに俺に会えて嬉しいのか?
「そうなんだ、なんでそんなに嬉しいの?」
「…………ぼく、あっ、わたし、はいつも一人だったから……。父様も母様もいるけどいつも、お部屋でひとりぼっちだったんです。たまに二人とも来てくれるけど兄さまの悪口を言うか自分のお話ばかりするから、誰もわたしのお話を聞いてくれないんです。でも、兄さまがいるって聞いた時はとてもうれしかったんです! だからお会いしたかったんですけど、会わせてくれませんでした……」
「では、君はご両親のことが好きかな?」
「…………」
「そうか、なら、わたしと一緒に来る?」
義弟は、コクンと頷いた。そんな義弟の手を取り部屋から出る。
「まずは何をしたい?」
そう問いかけると首を傾げて不思議そうにする。
「したいことはないのかい?」
「何をしたらいいのかわからないです……」
「……それじゃあその格好のままでいたいかな? それとも私みたいな服装がいい?」
「兄様みたいな服を着たいです‼︎」
「じゃあ似合うように髪型も変えようか?」
「はい! お願いします‼︎」
何この子、めっちゃ可愛いじゃん‼︎ 前世にも弟っていたけどこんなに可愛くなかったぞ‼︎ この子素直だし、俺に初めて会ったはずなのにもう懐いてくるなんて……。
「セバス! パクスを私と同じような服に着替えさせてくれ!」
「かしこまりました。ですが、パクス様のお洋服は全て……」
「あぁ、私の服をいくつか使ってくれて構わないよ」
「かしこまりました、直ちに準備いたします」
「では、服を着替えに行こうか? まずは髪型からだね」
「はい! よろしくおねがいします!」
「今の髪の毛の長さは流石に長すぎると思うから切った方がいいと思うんだけど……。髪の毛は短く切りたいか? それとも結べる程度の長さがいいか?」
「では、短いのはあまり見なれないので結べる程度の長さがいいです‼︎」
「わかった。では、そうしてもらおう。……そこの君、あとはよろしくな。私は違う部屋にいる」
「えっ……兄さま、ちがうお部屋に行ってしまうんですか? お側にはいてくれないのですか?」
「私がいたら気が散らないかい?」
「いいえ! そんなことありません‼︎ おそばにいてほしいです‼︎」
「そうか……。では私も一緒に行くよ」
私の義弟可愛すぎない⁉︎ 潤んだ瞳でお願いされたら断れないよな‼︎ 可愛いは正義‼︎ まぁ、それは置いといて、この世界たぶん乙女ゲームだわ。前に姉貴が進めとけって言われていたやつにパクス・アークライトっていうキャラがいた気がする。確か、儚げ美少年枠で……。なんでも両親が事故にあって死んでから義兄と住むことになったけど空気のように扱われてたまに暴力を振るわれてたとかなんとか……。
えっ? 俺、暴力振るうの? あの可愛いパクスに? 嘘、だろ? しかも最後には聖女の伴侶となる義弟をいじめていたことにより、国外追放にされてその途中で盗賊に襲われて死ぬ……。やば……いや、いじめる気はないけどさ。
「兄さま、できました! どうですか? 似合っていますか?」
パクスに呼ばれて意識をそちらに向ける。そうするとパクスは先程よりは短くなった髪を一つに緩く結び、右肩にかけている。服は俺の小さい時の服なのだろうか……。
黒を基調とした外套に深紅の飾りを添えた服だった。軽やかなマント風の上着に短いパンツを合わせた姿は、歩くたびに裾が揺れてどこか無邪気さを感じさせる。膝下まで伸びた黒い靴下と艶やかな革靴は、きちんと感を残しつつ落ち着いた印象を与え、頭にはちょこんと乗せた小さな帽子が全体を可愛らしく引き締めていた。
――まるでパクスのために作られた服みたいだ。
「うん、とても似合ってるよ。では街に出ようか?」
「はい!」
パクスは頰を桃色に染めながら返事をした。
◇
俺たちは街に到着し、パクスの洋服を買い漁る。公爵家だから金はいくらでもあるしな。
「パクス、これもどうかな? 似合うと思うんだけど……」
「兄さま、さすがに多いんじゃないですか? 買っていただけるのは嬉しいですけど……」
「何を言っているんだい……。今まで正式なものを買っていなかったんだからたくさん買わなければいけないでしょ?」
「……? そうなのですか?」
「あぁ、そうだよ」
……ほんとは嘘だけどね。ただ俺が着て欲しいから買っているんだよね! パクスは綺麗な顔立ちをしているからなんでも似合って買いたくなる‼︎
「あ、ありがとうございます! 兄さま! 私、兄さまとお出かけできて嬉しいです‼︎」
あぁぁぁ! 俺の弟まじ天使! 可愛い‼︎ 俺ほんとは可愛い子とか物ってめっちゃ好きなんだよね‼︎ 俺、パクスのためならなんでもできるかも‼︎
「パクス、そろそろお腹が空かないかい? ご飯を食べに行こう」
「はい! 兄さま!」
◇
俺たちはレストランで食事を済ませ、外に出る。
その時にパクスが女の子とぶつかってしまった。
「きゃっ!」「うわっ!」
「パクス、大丈夫か!?」
「はい、兄さま。私は大丈夫です……」
目に涙を溜めたパクスが答える。
「うぅ、いたいよぉ」
「そちらのお嬢さんも大丈夫かな?」
俺はにこやかに女の子に話しかける。
「あっ、申し訳ありません。よそ見していたみたいでぶつかってしまいました。私は大丈夫です!」
「そう、それならよかった……。でも……君はその装いを見る限り貴族じゃないよね? なんで貴族街にいるの?」
「ひ、ひどいです! なんでそんな酷いこと言うんですか⁉︎ いくら私の身なりが酷いからって……。平民がいちゃいけないんですか⁉︎」
俺は絶句してしまった……。一応この街は貴族街、平民街、貧民街と分かれていてそれぞれに合った場所で過ごすようにしている。
「兄さま……」
俺の天使が目を潤ませながら俺のことを見ている……。なんとかせねば……。どうする、俺。
「いや、君は君に相応しい場所にいるべきだよ。争いは起こすものじゃない、今回は目を瞑るけど、次はないと思うよ。そこの君、お嬢さんを送ってあげて」
「はい、かしこまりました」
俺は護衛の1人に声を掛け、お嬢さんを送るよう指示を出す。
「あ、いやよ! 離して! シナリオと違うじゃない‼︎ どう言うことよ⁉︎」
シナリオ? 彼女はヒロインなのか? あのゲームヒロインの描写が全くないからわからなかったや。確かに平民にしては綺麗な顔をしているけど……俺の弟に比べたら普通だね。俺の弟が世界一可愛い。
どんなストーリーだったっけなぁ……。あんまり覚えてないんだが、ここでヒロインとエンカウントを果たすのかぁ。どういうストーリーだよ‼︎
「様 兄さま、大丈夫ですか? あの子変な子でしたね……」
「うん、そうだね。あの子のことは忘れて帰ろうか?」
「はい!」
それから俺たちは毎日一緒に過ごし、10年の時が過ぎた。
◇
「お兄様! どうですか? 私の制服姿、似合ってますか⁉︎ ようやくお兄様と一緒の学園に通えてとても嬉しいです‼︎」
「パクス、おめでとう。俺も最後の一年間だけでもお前と通えてとても嬉しく思うよ」
「……はい! これからは一緒に通学しましょうね!」
俺たちは10年間一緒に過ごし、共に15歳と18歳になった。今までは学園に入れ違いで入っていたが、最後の高等部だけは4年間なので1年間だけ被る。パクスと通えるのを俺は密かに楽しみにしていた……。
……そういえば、乙女ゲームが始まるのもパクスが高等部に上がってからだよなぁ。あの小さい時にあったお嬢さんがヒロインかぁ、パクスが幸せになるなら応援はするが……。
◇
桜に似たスノウブロッサムが舞い散る中、俺とパクスは校門を通り過ぎ歩いている。それにしてもパクスを見てる奴多くないか? 確かにパクスは超絶美形に育ったけど悪い虫がつかないと良いが……。
「きゃぁ!」
声が聞こえ、後ろを振り向くと女の子が転んでいた。昔と同じだ……。でも、誰も手を貸すような奴はいない、当たり前だけどここは貴族が通う学園、知らないやつなんか助けたりはしない。
「お兄様、早く行きましょう?」
「でも……」
「お兄様はお優しいですね? しょうがないから私が行きますよ」
「あぁ、わかった……」
別に助けようとしたわけじゃないけど、なんか可哀想ではないか……。いくら失礼なやつだとしても……。
パクスは女の子に近づき、手を差し出し、助け起こしている。そんなパクスを見て頰を染める彼女は惚れてしまったのだろうか……。……確かに俺の義弟は顔がいい‼︎
そう思っているとパクスだけが戻ってきた。
「お兄様、お待たせいたしました! では行きましょう‼︎」
「お前、いいのか? ずっと女の子が見ているぞ? 案内して欲しいんじゃないか?」
「別に、私はお兄様の願いを叶えただけであの女性の事はどうでもいいですもん! 一応ハンカチも渡してあげましたし! しかも、同じ新入生なので私もお兄様に案内される側ですよ!」
「そうか……じゃあ行くか」
「はい!」
俺たちはその場を後にした――それから教室につき、俺はパクスと昼食を一緒に取る約束をし別れた。
◇
昼食の時間になり、パクスを迎えに行く。
「パク……」「あ、あの! 一緒にご飯食べませんか⁉︎」
「ごめん、お兄様と食べるから。一緒に食べれない……あっ! お兄様‼︎ いま行きます!」
パクスは朝のあの女の子に話しかけられていた。
「お待たせいたしました! では、行きましょうか!」
「……いいのか?」
「? ……あぁ! いいんですよ、私はお兄様と食べたいです‼︎」
「でも、こっちを見てるぞ?」
「…………チッめんどくさいなぁ」
「すまん、いま何か言ったか? 聞き取れなかった」
「いえ、何も言ってないですよ! 少し待っててくださいね!? 話してきます!」
「無理なら、一緒に食べなくていいからな。俺も友達と食べるし」
「いえ! 一緒に食べたいです‼︎」
「じゃあ、待ってるよ。ゆっくり話してこいよ」
「はい、すみません!」
そういうとパクスは女の子に話をしに行った。俺は壁にもたれかかり、腕を組んで目を瞑る。
「あ、あの……お名前はなんていうんですか?」
俺は目を開き、話しかけてきた人物を見た。
……綺麗な子だなぁ、あのヒロインの子より美少女だ……。でも、貴族にこんな子いたか? 見た事ないなぁ……。
「あっ! 突然申し訳ありません! あまりにも綺麗だったので……私の名前はリタ・ルクレティアと申します! ルクレティア侯爵家の三女です。お名前をお聞きしてもよろしいですか⁉︎」
「ん? 私はルシオ……」「お兄様! お待たせいたしました‼︎」
「さぁ、行きましょう‼︎」
「えっ、でも……」
「どうしたんです? あぁ、そちらのお嬢さんはどうしたんですか?」
「あぁ、話しかけられたんで、話していたんだ」
「突然、話しかけ申し訳ありません! あまりに綺麗だったのでお名前をお聞きしたく……」
「そう、私の名前はパクス・アークライト、アークライト公爵家だよ。それでこちらにいるのがお兄様だ。それでは、お兄様行きましょうか?」
「いや、私が聞きたいのは…………」
「……わかった。ご飯を食べに行こうか……」
パクスに引きずられるように歩きはじめる。
「……お嬢さん、私の名前はルシオスだよ」
俺は去り際にリタ嬢に名前を告げ、昼食に向かう――。
◇
「もう、お兄様はもう少し危機管理をしっかりしてください‼︎」
「……十分しているじゃないか」
「いや、わかってないです! ここはオオカミが巣食うところなんですよ⁉︎」
「オオカミ? 何を言っているんだ? 普通の学園だろ?」
「そうですけど、違うんです‼︎ とにかくお兄様はわかっていない‼︎ 昔からそうでしたけど、お兄様ほど顔立ちが整っている人は居ないんですから自覚してください‼︎」
「そんな事ないよ、パクスの方がかっこいいよ。俺なんてまだまだだよ」
「もう! 褒めてくれるのは嬉しいですけど、自覚して下さい‼︎」
「はいはい、わかったから。落ち着きなよ」
「そういえば王太子殿下はいないんですね? いつもくっついてくるのに……」
「あいつは今日婚約者が入学する日だから、婚約者と食べるんだと。俺も一緒にどうか誘われたけどパクスと一緒に食べるから断ったよ」
「そうなんですね! 今日は最高にいい日ですね‼︎」
「あぁ、いい天気だな。晴れてよかったよ、お前のハレの日は晴れていて欲しいからな」
「……もう、すぐそうやって……」
パクスは頰を染め上げブツブツ言っている。どうしたんだろうか?
そんな日常を過ごしているとあっという間に卒業する時がやってきた――――
◇
「お兄様……、ご卒業、おめでとうございます‼︎ ……あっ、王太子殿下もおめでとうございます」
「私はついでか……」
「はい、お兄様が一番なので!」
パクスは涙を流しながら俺の卒業を祝ってくれた。
「ありがとう、パクス。ほら、泣かないで? 君に涙は似合わないよ? 笑って?」
俺はパクスの涙を指で掬いながら話す。
「はい‼︎」
「ほんと、君たちの間には誰も入れないよ……」
「あ、あのルシオス様、ご卒業、おめでとうございます! これよろしければ受け取って下さい‼︎」
「ありがとう、リタ嬢。綺麗だね、……この花束。帰ったら飾らせてもらうよ」
「…………うぅ」
リタ嬢は雪のような白い肌を赤く染め上げ、低くうなる。
なんと、リタ嬢が聖女様だったようだ。……でも、乙女ゲームとは違う展開になっていて、誰も攻略されていない模様。むしろパクスが敵視しているみたい。
「なんで、君がいるのさ。関係ないじゃないか!」
「私だって、ルシオス様のご卒業をお祝いしたいもの!!」
「あれ、私……王太子なんだけど。私にはないのかい? 私も卒業だよ?」
「「ないです!!」」
「レオ様、そんなに落ち込まないでくださいませ。私がいるではないですか。ご卒業おめでとうございます、これ私からのお気持ちの花束です。受け取って下さい」
「うぅ……私にはエリーだけだよ! エリーという名の素晴らしい婚約者を持てて私は幸せ者だよ‼︎」
なんやかんやあっても無事に卒業したし、昔に出会ったあの子もヒロインじゃなかったし、というか卒業前に断罪されていたし……。まぁ、無事に卒業できてよかった! 国外追放がないから盗賊にも襲われないし、義弟のパクスもいい子に育ってくれたし、めでたし、めでたし‼︎
あとは俺たちの結婚か……。どうしよう? なんとかなるだろうか? でも、可愛い義弟のパクスを婿に出すのは寂しいなぁ……。
これでおしまいです! 読んでいただきありがとうございました!
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