第19話 呪われ令嬢、王妃になる
魔女の家での一件後、数ヵ月が経った。
王族の一部のみで今回正しく継承されなかったのは、継承役であった先代の王弟が意図的にジェラルドに真実を教えなかったためであった。
王弟は先代王が呪いで亡くなった後、自分で権力を握って政治をしようと企んだが、自身も病に倒れて病死した。
そして、『ドロテアの伝承』は正しく継承されなかった。
「なんと情けない。いくら王族のみで口承すると決めていたとしても、こんな大事なことを王族の数人だけで秘密にするなど」
ジェラルドは怒りをあらわにしながら、ぶつぶつと呟いている。
その独り言を聞きながら、セドリックは呆れたように言う。
「ですが、思い切ったものですね。贄のことを含めて、王族の恥ともいえる『ドロテアの伝承』を自ら国民に話されるとは」
「ああ、私は暗殺されるかもしれないな」
「私が限りいる限り、そうはさせませんよ。それに、贄の伝承は各地方で伝承として語られていた部分もあり、むしろ嘘偽りなく話した陛下に驚いた国民が多かったようですよ」
「そうか……」
実際、セドリックの言うように予想していたような反乱など大事にはならずに済んだ。
それは、これまで若くして全うに政治に取り組み、国民に愛される国王陛下ジェラルド・ヴィンセントだったからこそかもしれない。
そんな話をしていると、ノックをする音と共に、アリシアの声が部屋に届く。
「ジェラルド様、エリゼ様のお支度が整いました」
「そっか、ではそろそろ……」
そう言って振り返ったジェラルドの目には、美しい戴冠式のドレスに身を包んだエリゼがいた。
「…………」
「ジェラルドさま……あ、本日は陛下とお呼びするのでした。申し訳ございません。あの、支度が整いまして、もうお時間かとおもう……陛下?」
「……ん? あ、ああ!!! ああ、そうだな。バルコニーへ出る準備をしようか」
そんな二人の様子をセドリックとアリシアはヒソヒソと話している。
「あれは完全に見惚れましたね」
「ええ、間違いなく。陛下はエリゼ様にベタ惚れですから」
「わたくしたちは一度退室したほうが良さそうですね」
「そうかもしれません。うちの陛下がご迷惑をおかけします」
「いえ、でもエリゼ様を傷つけた時には私が許しませんから」
そう言って二人はそっと部屋を後にした。
「エリゼ、似合っている」
「よかったです。さっきアリシアとクラリス先生にお支度を手伝ってもらい、自分でも驚くほど……素敵な姿にしていただきました」
「今日は、君の戴冠式、王妃になる日だからな」
「私はなれるでしょうか。立派な王妃に」
不安そうに俯いたエリゼの顎をくいっと持ち上げると、ジェラルドの瞳が彼女の瞳を捕らえる。
「必ず君のことは僕が守るよ」
「その言葉……」
エリゼがジェラルドのもとに初めてやってきた日に、彼から贈られた言葉だった。
「私は不幸を呼ぶと言われていますよ?」
「君が不幸を呼ぶなんて、むしろ私を不幸にできるものならしてみなさい」
そう言って二人は笑い合った。
「ジェラルド様が王族の罪を背負ったように、私もドロテアの罪と、そして悲しみを忘れません。そして、もしこの先不幸が起こったとしても、私が必ずあなたを守って見せます」
「では、私には君を守らせてくれますか?」
「はい、守ってくれますか? そして、国王と王妃、そして夫と妻として、あなたと一緒に分かち合っていく人生にしたいです」
「ああ、隣でずっといてほしい。私の愛しい人、エリゼ」
手を繋いだ二人は、国民の声援に応えるように、その歩みを進めた──。
ここまで読んでくださってありがとうございました!
リメイク版ではありますが、たくさんの方に読んでいただいているようで嬉しいです。
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