第14話 初恋
ジェラルドの手を振り切って部屋を退室したエリゼは重たい足取りで自室へと向かう。
その途中にセドリックが話しかけるが、彼女の耳には届いていなかった。
自室にたどり着いたエリゼはドアを勢いよく閉めると、そのまま顔をくしゃくしゃにして泣きながらベッドに飛び込む。
「あぁ……ひくっ……ぐすっ……」
声にもならない鳴き声だけが部屋に響き渡り、そして枕はどんどん濡れて湿っていく。
エリゼの心は感じたことない苦しさと、そして痛みに襲われていた。
(なにこの気持ち……悲しい? 切ない? ううん、どうしようもなく苦しい)
エリゼはシーツをぐっと強く握り締めて身体を丸めてうずくまる。
アリシアは廊下から彼女の慟哭を聞いてドアノブに手を掛けるも、やはりためらわれてそっとその場を後にした。
(私は甘かったのよ。ジェラルド様があまりに優しく接してくださって、それで感違いしてた。ジェラルド様は私のことを愛してなんかいない。心の中にはすでにあの写真の女性がいたんだ……)
エリゼの脳内でジェラルドの言葉と声がこだまする。
『君が不幸を呼ぶなんて、むしろ私を不幸にできるものならしてみなさい』
『たくさんぬくもりを感じてほしい』
『私の婚約者になってくれてありがとう』
エリゼの中で温かい感情が体を巡って、そしてその後にチクチクした感覚が押し寄せてくる。
彼女の頬にはもう何筋もの涙の跡がある。
(お願い、もう……苦しいの。これ以上思い出させないで)
『思いっきり今日は楽しもう!』
『二人は夫婦かい?』
『え!?』
『ええ、そうなんですよ。お似合いでしょう?』
(やめてっ!)
『彼女は私の恋人だった人だ』
『彼女は死んだんだ』
『私は彼女を愛していた』
エリゼはめまいに襲われ、そして涙でぐちゃぐちゃになった顔を天井に向けて少し笑って呟いた。
「はは…………なんだ、私……こんなにジェラルド様のこと。好きになってしまってたんだ……」
もう夕方に差し掛かり暗くなった部屋にエリゼの呟きだけが響く。
そしてもう一度エリゼは呟いた。
「でも、あの人にはこの気持ちは届かない……」
苦しいですね。この場面は……