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第11話 ドロテアの伝承

 魔女との邂逅を終えたエリゼとジェラルドは、護衛騎士らと共に無事に王宮に戻っていた。


「お嬢様っ!」

「アリシア……」

「セドリック様からお嬢様と陛下が魔女に会ったと聞きましたっ! お怪我はありませんか? 大丈夫ですか?!!!」

「落ち着いて。ジェラルド様とセドリック様が守ってくださったから怪我はないわ。大丈夫よ」

「よかった……」


 アリシアは安心したようにそっと息を吐くと、エリゼを抱きしめた。

 ぐすんぐすんと聞こえる声から心から心配をさせてしまったのだと、エリゼは申し訳思うと同時にそこまで思ってくれるアリシアのことを大事に思い抱きしめ返す。


 感傷に浸っている二人の耳に、ノックの音が届いた。

 急いで二人は涙を拭うと、アリシアは扉のほうへと急いだ。


「陛下……!」


 扉の奥で話す声がエリゼに届く。


(ジェラルド様……!?)


 先程まで寝ぐせがついていた髪を手櫛でほどき、ベッドから出て立ち上がった。


「陛下、今お嬢様……いえ、エリゼ様のお支度を整えますので……」

「アリシア、お嬢様でもエリゼでも私はどちらでもよいから、二人で呼んでいる呼び方で構わないよ」

「ですが……」

「それより、レディの寝室にいきなり、というのは不躾だったね。申し訳ない。ゆっくりで構わないから、支度をして第二図書館に来てくれるかい?」

「かしこまりました」


 「エリゼにもそう伝えて」と言い残し、彼は去っていった。




◇◆◇




 急いで支度を整えたエリゼは、ジェラルドの指示通り、第二図書館へと向かった。


「すごい……」


 そこは一面の本棚で埋め尽くされており、窓も一つしかなく少し薄暗い。


(ここが、王族のみ立ち入れる第二図書館……)


 初めての光景に辺りを見渡しながら歩くエリゼに、ジェラルドが声をかけた。


「エリゼ、前を見て歩いて」

「あ……」


 彼女の目の前には棚があった。

 天井や横を見ていたばかりに、目の前の本棚に気づかなかったのだ。


(危うく顔からぶつけてしまうところだった……)


 椅子に腰かけているジェラルドにお辞儀をして礼を言うと、彼のほうへと近づいていった。


 近づいていくと何か彼が分厚い本を一冊持っていることに気づいた。

 その題字はエリゼには読めなかった。


「これは……」

「これが魔女の言っていた『ドロテアの伝承』だよ」


 じっと彼の手にある本を眺めていると、ふとジェラルドは本を閉じた。


「ジェラルド様……?」

「エリゼ、これから話そうとしていることは君を傷つけるかもしれない。今なら踏みとどまることができる。それでも、君はこの『ドロテアの伝承』について聞きたいかい?」


 その問いはエリゼの心臓はドクンと一つ跳ねた。

 彼の真剣な顔つきが、これから話されることの重要さと悲しさを物語っていた。


(これを聞いたら……このお話を聞いたら、私が傷つくかもしれない。それはお母様に関係すること? 魔女の言っていた、お母様の……それなら……)


 エリゼは真っすぐにジェラルドの目を見ると、一つ頷いて言う。


「知りたいです。教えてください。『ドロテアの伝承』とは何なのか、を」


 彼女の覚悟を聞いたジェラルドは、頷いてゆっくりと語り始めた。


「『ドロテアの伝承』は、このヴィンセント王国の初代国王の時代の話だ」

「では、もう300年も前のお話……」

「ああ。国王の時代には贄という制度があり、ある村の娘を10年に一度国の繁栄のために国に差し出すように命じていた」

「そんな……」

「そして、三度目の贄の儀式として選ばれた娘が、ドロテアという少女だった。彼女は贄の儀式で死んだ……はずだった」

「はず、だった?」

「ああ、贄の儀式の翌日に生き返り、復讐のために王宮に火を放った」


 壮絶な話に思わずエリゼは眩暈がしそうになる。


「そして、国王の前で捕らえられた最後にいったそうだ。『ヴィンセント王国に生まれし王は、私の子孫によって呪いにかけられるであろう。この先ずっと、何百年も……』と」

「それでは、ジェラルド様の呪いは、私のお母様がその伝承のもとでおこなったもの?」

「ああ、実際にこの日記には次代の国王は呪いの治癒ができずに若くしてなくなったそうだ」

「もしや、前国王のご病気は……」

「いや、父上は心臓の病だった……はずなのだが、私も驚いた。私が幼少期に読んでいたこの本には隠されたページがあり、続きがあった。私の記憶の中では、伝承の呪いは三代目国王で克服したと記憶していたが、そうではなかったらしい」

「では、ジェラルド様の呪いは、伝承の呪いということなのでしょうか?」

「ああ、恐らくここにある記述を見る限り、君のお母様はドロテアの思念に動かされて、私に呪いをかけた」


(でも、それでは、どうしてお母様は私にも呪いを……?)


「君になぜ呪いをかけられたのか、それはまだわからない。ただ、まだ王国史の中、そして王族、伝承には私も知らされていない秘密がありそうだ」


(呪い、そして『ドロテアの伝承』……お母様、あなたはなぜ呪いをかけたのですか?)


 二人が伝承の記録を隅から隅まで読んでいるうちに、外はもう暗くなってしまっていた──。

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