プロローグ
「エリゼ、お前とは婚約破棄させてもらう」
「はい、承知しました」
「い、いいのか……？」
「ええ、私の『呪い』のせいでしょう？」
そう言ってエリゼはふかふかの赤色の座り心地の良いソファを立ち上がり、碧眼の瞳は目の前にいる元婚約者を見つめる。
慣れていることというように、エリゼはふっと笑った。
「今までありがとうございました」
深々とお辞儀をすると、エリゼはその青碧色の長い髪を靡かせて扉を自分の手で開ける。
そうして、いつものように玄関のほうへと向かった。
◇◆◇
馬車で2時間ほどで着く家では、侍女のアリシアがエリゼを迎えた。。
「お嬢様、おかえりなさいませ」
「もう、そろそろ名前で呼んでって言っているのに……」
「でも私にとってエリゼ様はお嬢様でございます。ええ、エリゼ様の可愛さと美しさの究極のバランスは女神さえも恐れおののいて……」
「はいはい。ありがとう、アリシア」
くすくすと笑ってしまうエリゼの様子を見て、アリシアも嬉しそうな顔をした。
そして、アリシアと共にエリゼは玄関をくぐり、自室へと向かう。
そこにはエリゼの母親がいた。
「お母様っ！？」
「あら、帰ったの？」
「何をしてるんですか？」
「別に何もしてないわ、娘の部屋に入って何が悪いの？」
母親は立ち尽くすエリゼの横を通り過ぎる瞬間に、わざと肩に当たるように通る。
「いたっ……！」
「あら、やだごめんなさい。ちょっと当たっちゃった」
「いえ、大丈夫です」
エリゼは顔を歪めながらも冷静に母親に対して告げる。
アリシアはその様子を不快そうに見つめるが、彼女の母親には気づかれないようにしていた。
やがて、ドアが閉まるとエリゼはその場にうずくまった。
「お嬢様っ！」
「大丈夫よ、少し痛むだけ」
「あの継母……いくらなんでもひどすぎます」
「仕方ないわよ、私はこの家でいらない役立たずだもの」
エリゼの肩は黒く一部が染まって禍々しく熱を帯びている。
アリシアはそっとその肩を擦ると、エリゼはわずかに微笑んでアリシアの茶色い髪をした頭を撫でる。
「ありがとう、アリシア」
「私が変わって差し上げられたらいいのに」
「そんな……この『呪い』は不幸になる。アリシアにそんな思いはさせられないわ」
二人が寄り添って話し合っているところ、またしても扉がバタンと大きな音を立てて開く。
そこには金髪碧眼の見目麗しい若い男が立っていた。
「エリゼ、父上が呼んでる」
「お父様が？」
「ああ、エリゼに話があるらしい」
「わかりました、今行きます」
エリゼは兄のあとについて廊下を進み、その一番奥にある父親の執務室に入る。
「失礼いたします」
エリゼは少し緊張しながら執務室に入ると、白髪交じりの男性が年季の入ったブラウンの机に向かって座っていた。
「遅い」
「申し訳ございません、お父様」
冷たい声でエルゼの父親は言い放つ。
彼女のことに目をやることもなく、せっせと書類仕事をしていた。
「婚約破棄のことは聞いている。相変わらず役立たずだなお前は」
「申し訳ございません」
「まあ、どうでもいい。お前に新たな婚約話が来てる」
「え……？」
エリゼの父親は顔をわずかにあげると、薄い目をエリゼに向けて言った。
「ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」
「え……」
侯爵令嬢であるエリゼにとって、これは大きなチャンスでありこれからの物語のはじまりだった──。
読んでいただきましてありがとうございます。
以前原案の作品を投稿しておりましたが、設定の矛盾や名前を変更・修正しまして再投稿します。
気に入っていただけましたら幸いです。
