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サイドC-15 長い長い第19層

ガガたち一行が第19層にはいって9日目のことであった。

ダンジョン制覇の進捗は相変わらずわからずじまいで、次から次へと遭遇する魔物を機械的にさばきつつ、行ったり来たりを繰り返していた。

3つあるというオアシス・ゾーンの二つ目にもまだ遭遇できず、魔物の種類も変わらない状況が続いているため、それほど進捗はしていないと感覚がいっていた。

と、何度目かわからない海岸線を歩いているとき、ガガは既視感を感じた。


(まさか、同じ道をぐるぐるしているわけじゃないよな...)


ガガがそう感じた瞬間に、ランが話しかけてきた。


「リーダー、あんましよくない報告なのですが...あそこの崖見覚えないですか?」


と、海をはさんで数十メートル先にある、高くそびえる先細りの崖を指さしてしめした。

メンバーもランの言葉に同じ方向をみる。そして唖然となった。


「あの崖は...」

「たしかになんとなく見覚えがおますような....」


首が音を立てるようにゆっくりとランを振り返り、聞きたくない結論をまつ。


「はい、ご想像の通りです。4日前に行き詰った、あの崖です」

「まじかよ」

「嘘でっしゃろ?」


テツガとプラティアは天をあおぐ。

ガガは自分の感覚がある意味間違ってなかったことに得心はいったものの、さりとてあまりいい気はしなかった。


「それは間違いないのか?」

「はい、マッピング過程で戻っているのはわかっていました。それが海と山と森を挟む形で蛇行していたので、感覚的にはなかったのですが、マッピングではあきらかに戻ってきているのがわかります。いままではその行きかえりが深い森や山で区切られていたので分かりにくかったですが、海を挟みますと反対側がよく確認できますので、あのように....」


と、対岸に見える崖をみた。


「つまりあれだ。あの時何とかしてあの崖をくだって、こちら側に海を越えてわたっていれば、4日間は短縮できたわけだ」

「...おっしゃる通りです」


悪いのはランではないのだが、マッピングを任されている彼にしてみれば、申し訳なさを思うのは仕方のないことだった。


「でも仮に崖を降りたとしても、うちはともかくガガはんらは海は渡れへんかったんのとちがいますか?」

「それもそうだな」


ランの索敵で海の中にも魔物が大量にいることがわかっている。

しかもプラティアの素潜りの調査、といっても形態を本来の下半身魚型のエラ呼吸にての調査だが、で分かったのだが近距離にもかかわらず海は想像以上に深い部分があり、それが見事に両サイドの陸地を分断しているらしい。


「ひきこまれたら、うち以外では対応できませんわ」


プラティアがちょっと潜っただけで、大型のサメ種や大王イカの類が、とっかかるように矢継ぎ早に襲ってきた。

といっても、どれもプラティアの相手にならずすべて返り討ちにしたのだが、それは海を本拠とする彼女であるからの対応であった。

もともと海の種族であるプラティアはともかく、海中での対応は肺呼吸しかできない三人、厳密には竜種であるテツガはある程度の時間は海中でも活動できるが、それでもおぼれ死ぬ可能性が高いと判断された。


「せめて渡舟くらいおましたら、わてが防御しつつ移動することもできますけんど」

「とはいっても、リスクを背負って渡った陸地が、ルートから外れていたりや孤立していないとも限らん。結果論として今回は海を渡った最短ルートが分かっただけで、本当の全体像を把握していないと、それもできんしな」


正確な全体マップがない以上、地道に陸地をいきつ戻りつしなければならないと、4人は理解した。

ショートカットをした結果、フロアボスを素通しして出口も見失ってしまったとかなると、目も当てられない。


「ほんとうにこれは自然にできたダンジョンなのか?どうもコア以外の誰かの作為的な意思がガンガン感じられるぜ」

「確かにな。これはどう考えても自然にできたにしては、不可解な点が多いな。伝説のダンジョンマスターとやらがいて、それが働きかけている可能性もあるかもな」

「まさか?あれおとぎ話でっしゃろ?」


ガガは何気なく言ったその言葉が、じつは的を得ているとは、メンバー含めだれも想像だにしていなかった。


★★★


ガガたちが第19層にはいって、すでに4週間が経過した。

ここまで進むともと来た道をかえることもできず、いつ終わるとも知れないこの層の探索を折れそうになる気持ちを鼓舞しつつ4人は進んだ。

幸いなことに、そこまで進むと第二のオアシス・ゾーンが見つかったり、魔物の種類も亜竜が現れたりと少しずつ進んでいる事だけは実感できた。

4人が一番もめたのは、その第2のオアシス・ゾーンであった。

ガガはあるだろうなと思っていたが、案の定というかミドル・ポーションの泉とそこに付随するように転移魔法陣があった。

これを使えば、おそらく第一のオアシス・ゾーンと同じ階層横断階段前まで戻れると予想された。


最初は半分楽しみで始めたダンジョン探索ではあったが、ここまでひっぱられるとさすがに任務としてのダンジョン探索の意味合いが心理的に多くを占めてき始めているタイミングだったので、その転移魔法陣は非常に魅力的だった。

フィオナ王国の貴族として、王命をこなすのは義務という感覚とことなり、ただの冒険者である三人にしてみればその気持ちはガガよりも大きかった。


「これぐらいの情報でええんちゃいます?もう十分だとおもいます」

「たしかダンジョンの雰囲気を肌で味わっての報告だったよな?十分その肌で感じるはクリアしていると思うぜ」

「そろそろベッドが恋しくなってきましたね、リーダー」


三人の言いたいことは十分わかった。

ガガもそういう気分だったので、賛同したいのはやまやまだったが、どうしても引っかかることがある。


「お前らの気持ちはよくわかる。だがな、おかしいとはおもわないか?わざと複雑怪奇にされた道行、山のように出てくるBランク以上の魔物たち。そしてセーフティゾーンにいかにも引き返せと言わんばかりの転移魔法陣。ここの宿主が誰なのか、もし仮にいたとしてだがどうやってもこの層の先には行かせようとしない仕組みの山がおれは不思議でしょうがない。この先に一体何があるんだ?」

「それはそうかもしれまへんが...」


ガガの言葉に、プラティアが反論しようとするも、ガガはかぶせるように続ける。


「それにな、実際まだ知りたいことはなんにもわかっていない。例の『カメヤマシャチュウ』で販売しているものの多くが、ここファーラーン・ダンジョンからのものだというが、勘定があっていないため誰か別の仕組みがあるのではという調査もおわっていない。例の『アンバーチャイルド』たちだけが、このダンジョンと親和性が高い、高すぎる理由も不明だ。当初は彼らが『カメヤマシャチュウ』にダンジョンから運び込んでいるのではとの予想だったがその裏もとれていない。俺たちの成果といえば予想以上に積み重ねられた経験とプラティアのストレージも圧迫しそうなくらいの肉と素材と果物の山だ」


ガガの言い分は確かに的を得ていて、だれも反論の余地がない。

ここでやめたいというのは理屈ではなく、単に心理的な願いなので理屈もないのだか。

ガガはさらに続ける。


「それにここまで大変だったが、この第二のオアシス・ゾーンまでたどり着いたということは、すくなくとも正しい道を前進しているということだ。もちろんここからまた何日という確約はできないが、半分以上は制覇していることだけは確かなんだ。クリアも目前かもしれないのに、ここで断念するのは悔しくないか?」


ガガのセリフに、最初に答えたのは、プラティアであった。


「たしかにもう一回おんなじ道をと言われたら苦労ですな」

「次に来た時に、実はゴール直前だったら、それはそれで嫌な感じだな」

「指針はリーダーに従うのがパーティですよね」


テツガとランもあきらめというよりも、ガガの言葉でゴールが近いと感じて、先ほどよりは少し朗らかな言葉である。


「ただ今夜だけは第二オアシス・ゾーンについたお祝いをさせてもらいます」


と、プラティアは『カメヤマシャチュウ』でしこたま買い込んだ日本酒とブランデーを並べた。


「そういうことか、おう今日は飲むぜ」

「私は先日とった亜竜の肉と香草でスープ作ります。あと少し手が込んだ料理もですかね」

「なんならいっそ、あふれ出ているミドル・ポーションで水割りでも作るか」

「あほなんどすか?解毒まではいきませんが、酒で壊される内臓が復活されて酔いも半減しまっせ」


わいのわいの陽気にその夜は4人でささやかな祝宴をひらいた。

そして苦節4週間かかって、ついに第3のオアシス・ゾーンに4人は到達した。

『アンバーチャイルド』たちの報告によれば、フロアボスのいる場所はここから一日もないということだった。

プラティアはここでも当たり前とばかり、ここでも前祝いの場を開いた。

『カメヤマシャチュウ』で大量に購入した酒類は、すでに半分をきった。


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