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サイドC-14 第19層の冒険

「プラティア、ランの保護と治癒を頼む」

「わかりましたえ」


ガガの指示に対し、プラティアは負傷して今にもイビルボアにつぶされそうになるところに割り込み、大ぶりの風刃を大量に発生させる。

それをうけたイビルボアが四散し、素材として落ちるのを待たずランを抱えて、魔物の突進の線から外れる。

ついでとばかり風刃を数十発生させ、何匹もの巨体が四散するも、その程度でとまる突進ではなかった。


ガガとテツガは突如として発生した馬車大の巨体の集団に即座に反応するも、対応できず退避を失敗したラン・ムーがその一体の突進を食らってしまい、負傷したというわけだ。

通常であればその移動にともなう騒音に気が付く規模の集団であったが、ガガたちはその直前までジェットキラービーンとその女王との格闘を展開しており、やっと片付いたか否かの直後の突進であった。


その直前のジェットキラービーンはランクが高く、人の子供程度の虫の大群が羽音をビンビンならして、突っ込んできたのだ。

数にしておそらく50~60はいたと思う。

その羽音がはげしく、普通の冒険者であれば恐怖に駆られて逃げるしかできないような大群であった。


ガガたちにしてみれば対応できない相手ではないが、それでもこの規模のビーンにはあったことがなく、対応に追われるのと羽音に邪魔され、本来であれば最初に気づくであろうラン・ムーでさえ、イビルボアの移動を聞き逃してしまったのだった。

なんとかイビルボアの大群、数にして40匹程度をガガとテツガ、それに背後から参戦したプラティアが捌いて、今目の前には大量のドロップ品があった。


「ふう、やっと片付いたか」

「ほんに、半端じゃおまへんでしたな」


プラティアは付近のドロップ品を、他の三人もプラティアの近くまでドロップ品をもっていく。

ラン・ムーはプラティアの治癒魔法により、全快している。

突進を受けてうでと肋骨が折れていたが、あっという間に回復していた。

と、テツガが悲鳴をあげた。


「なんじゃこりゃ」


悲鳴のもとに三人が寄ると、そこにはガガの等身大ぐらいのでっかい水亀があった。

ガガとテツガが二人で手を回しても、届かない周囲長だ。

ラン・ムーが飛び乗ってふたを開け、中を確認する。


「これ、全部はちみつみたいです。たぶん先ほどのジェットキラービーン・クィーンのドロップ品かと」

「すげー量だな...」


ジェットキラービーンのドロップ品といえば、10センチ程度の毒針や小瓶に入った麻痺薬、ナイフ等に転用できる牙や真っ赤な複眼、さらには軽量で丈夫な羽など様々だが、その中ではちみつとローヤルゼリーはドロップ品としてはレア素材となっている。

なのでドロップ率がひくいはちみつは取得品としてはありがたいのだが、ここまで大量なのはガガも初めてだった。


「ドロップ品の中には、小瓶どすがローヤルゼリーも5~6個おちとります。逆にキラービーンでよくドロップする麻痺薬や針がすくのうおます」

「それをいうなら、イビルボアも毛皮と肝と肉ばかりで、牙がすくないぜ。魔石はきっちり倒した頭数あるけどな。ドロップ品がなんか偏ってるよな」


一同見つめ合って、沈黙する。

同じことを考えているのだが、ばかばかしくて口に出せないでいる。


「襲ってくる数もすごいが、なんかこう....食材が多いよな?」


ガガがやむなくというか、リーダーとしての責任というか、皆の思いを口にした。


「そう、そうなんです」

「ほんま、それやわ、うちも思うとった」

「やっぱり感じてたか。おれもうすうす思ってたが、そうなんだよ」


わが身を得たりとテツガとプラティアがはやしたてる。


「この層に入ったとたんにマッドクラブの大群だ。ドロップ品が甲羅や魔石なのはわかるが、実がたっぷり詰まったハサミや足まで落ちていたのには、びっくりだった。このイビルボアにしても途中で遭遇したレッドサーペントやブラッディーホーンブルにしても、倒してドロップするのは魔石、皮、牙、毒よりも肉や肝の方が多いときた。なんか違和感は感じていたんだが、そうかみんな感じていたか」

「そうどす。襲ってくる数が多いんでしゃあないどすが、うちのストレージも食材ばっかりになってます。しかも過去例に見ないぐらいに大量どす。このペースであと何日この層を行くのかわかりませんけど、下手すると入りきれんちゅう可能性もあります」


プラティアの最後の言葉は、ちょっと意外であった。


「えっ、お前のストレージはたしか30トンぐらい入るよな?今どんくらいなんだ?」

「感覚でいうと半分を少し越えてます」


元から入っていたものはそこまで重量はないはずなので、おそらくそのほとんどがドロップ品で埋め尽くされているのだろう。

これはもともとドロップ品を集めるのが目的でないガガにとって、ちょっとしたアクシデントだった。

この層にはいってはや一週間、いまだにどの程度が制覇できているのか、皆目見当がつかない。


いっしょにこの層に降りてきた他の冒険者たちは、直接オアシスゾーンを目指しており、その道行しか知らなかったため、そこまでは同行したのだが、それ以降がまったくの未知領域だったため、ガガたちだけで探りながら進むしかなかった。

厳密にいえば地図が全くないわけでもなかった。


今回は遭遇できなかった『アンバーチャイルド』の面々が、10年くらい前にギルドマスターの依頼で走破をしていたらしい。

地図を作るのに調査依頼ではなく走破依頼なのか? 聞き間違いかとガガは冒険者ギルドで問い返したのだが、それはどうも間違いないらしい。

その時の報告で、だいたいの工程しかわかっておらず、『アンバーチャイルド』たちも口伝えで報告しているので、はたしてどの程度の精度で地図ができているのか、全くおしはかれない。

その報告からひとつわかるのは、とにかくゴールのフロアボス部屋まで距離が長くて蛇行しているうえに、散在する深い海に阻まれて迂回することも多く、上下移動必須の山や多く存在する森も深いので、移動しているうちに方向感が怪しくなってしまう。

指針となるべきような太陽も星もなく、下手をすると来た道を戻ることも難しく感じていた。


ガガたちは試行錯誤で道を探っているのだが、この一週間で3回も行き止まりに出くわし、元来た道を分岐点まで戻っている。

一番最悪なので半日も魔物と戦ったりしながらいった先で、絶壁の崖が海に面していて泣く泣く元来た道を戻る途中も、同じ魔物群を処理しなければならないという、心折れる作業を繰り返した。


「あとどれくらい続くんでっしゃろな」

「魔物がわんさか出てくるのはありがたいが、行き止まりだけはもう勘弁してほしいぜ」


テツガの言葉は一同の心理をはっきりと表現していた。


「以前ここを唯一走破した『アンバーチャイルド』は、2週間かかったらしいぞ」

「じゃあもう俺らもある程度は進んでるとかんがえていいのか?」

「でもその記録にあった魔物すべてにまだあってませんし、ひとつ目にあったオアシスゾーンもあと二つは途中にあると記録されてますし...」

「全然進んでない可能性もおますな....」


大量に遭遇する魔物を処理するスピードも、移動速度もおそらくガガたちは一般的な冒険者パーティをはるかに凌駕していると自負しているし、事実そうであった。

にもかかわらず『アンバーチャイルド』に対する敗北感がひしひしと感じられるのは、なぜなのだろうとガガは思わざるをえない。


「迷路に対する感が悪いのかしら?」

「でもマッピングはちゃんとできてますよ」


ラン・ムーがプラティアのつぶやきに少しむっとして答える。

彼の得意分野でもあるマッピングは、S級パーティの一員だけあって、他のレンジャー職の冒険者より抜きんでている。

現に今まで複雑な森やダンジョンで最適解を出してきた経歴もある。

それなのにこのフロアでは、華々しい経歴をあざ笑うがごとく、道選択の最適解選定としてはことごとく機能していない。


「広すぎるんですよ、この第19層が。地形もバラエティにとびすぎてて....こんなダンジョン初めてです」


ラン・ムーが悲鳴のように弱音をはいた。


「何なんだろうな、『アンバーチャイルド』というパーティは? たしかDランクとか言ってたよな? 初見でこの層を2週間で回れるか? 事実なら明らかにもっとランクの高いパーティだぜ」

「たしかにおかしな話だ」


言いながらガガは、ますます『アンバーチャイルド』への疑念が沸き起こるとともに、自分の失態に心の中で悪態をついていた。


(これはダンジョンに潜るのを遅らせても、まずは『アンバーチャイルド』に接触を試みるべきだったのではないか?彼らにあって、どんなに金を積んでも同行を依頼するべきではなかったか?俺のミスか?)


おそらくではあるが、会えていないそのパーティーの助力があれば、ここまで苦労することもないような気がした。

同時に彼らへの疑問も解消するような気がした。

なぜ彼らだけはこのファーラーン・ダンジョンと相性が良いのか?

そもそも彼らは『カメヤマシャチュウ』とどのような関係なのか?


悔やんでもここまで単独で進んできたからには、もう後戻りも難しく、前へ進むしかなかった。

幸いなことに、まだメンバーを脅かすような強力な魔物にも遭遇しておらず、といっても普通の冒険者パーティであれば最初のマッドクラブでも危ういのだが、食料もしこたまあり魔道コンロでの料理も可能だ。


道行に不安はあるがやるしかないと、自分を鼓舞するガガであった。


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