サイドC-13 コボルト・キング戦
ガガたちは、第6層をチラ見したあと、すぐさま階層横断階段にもどって、ひたすら下を目指して階段を降りて行った。
道すがら声をかけてきた冒険者たちに話を聞いていたのだが、やはりというか第6層~第10層ぐらいまでが、冒険者たちに人気があるようであった。
理由は簡潔で、それ以上だと短期間で戻るのがきつくなるからということだった。
魔物やフィールドの難易度、とれる素材などは第11層以降でもそれほど上がるわけではないらしいが、階層横断階段のおかけでほとんどの冒険者が1日~3日で帰還することができ、そこそこの報酬も得られるのであえて危険を侵す必要を感じていないらしかった。
そこら辺は北斗の策略でもあるのだが、ゲームに類似したシステムを持つこの世界においても、冒険者たちの征服欲というのはないわけではないが、命の危険がそのままリプレイの効かないゲームオーバーのこの世界では、人は無理をしないということを学んでいた。
であるから、命ともうけを天秤にかけた場合、前者をとる冒険者が圧倒的に多く、ゆえに十分暮らしていける浅い層で満足している人が多いわけだった。
一方お金に天秤をかける冒険者もいる。
ある程度の実力を持つパーティである。
そのグループは、逆に浅い層どころか、階段でいける層で冒険をしない。
いっきに第17層まで降下し、第19層をめざす。
目的はいわずと知れた『ミドル・ポーション』の泉だ。
そのためには12階分の階段を上り下りする労力を問わないし、そもそも上位のパーティが多いので体力もある。
その結果、第11層~第16層はほとんど冒険者たちが立ち寄らないフィールドとなっており、そこでしかその素材をとれないという限定素材をねらうパーティしか向かわないという傾向になっていた。
「おめえらも『ミドル・ポーション』ねらいか?だとしたらそこまでは共闘しねえか?」
ガガたちも第19層を目指していると知った高齢者で固められた複数のパーティが、なんどか共闘の接触を試みたが、ガガは丁重にお断りしていた。
利用されないようにするのはもちろんだが、スピード的にほかのパーティーがガガたちに合わせられるとは思っていなかったからだ。
ガガたちの戦闘時の連携は非常に素早く効率的だ、
しかも長年の経験から、ほとんど感覚で合わせている。
他のパーティが一緒になるとそのリズムを崩される、もしくはガガ達だけが戦っているという状況になるのが、よくわかっていた。
第17層は、他の層と同じ草原に丘、森で形成されたフィールド型ダンジョンだった。
さすがに第17層になると上層の魔物とはことなり、若干レベルやサイズが上がりC~Dランクパーティ対応の魔物となる。。
それでも単騎での魔物が多いため、ガガたちには何の障害にもならない。
むしろこんなものかとやや肩透かしを食らっている。
通常のパーティなら1日程度の旅程のところ、ガガたちは半日で走破して第18層にそのまま突入した。
第18層は予告通り、広大な迷宮タイプのダンジョンだが、迷路はすでに冒険者ギルドで地図が出回っており、迷うことはない。
魔物といえば迷宮ではおなじみのラージスライムやスケルトンナイト、人間サイズのミノタウルスなどが出現しいてた。
これらもやはりランクD対応の魔物のため、ガガたちの相手ではないのだが、ダンジョンでは空間が限られているため連携がとりにくく、どうしても譲り合いというか一人での対応が多くなる。
ガガ、テツガ、プラティアは単騎でも重戦車なみで先頭にいても良いのだが、ラン・ムーは斥候のためどうしても前に進むことが多く、しかも単騎で倒せない事もないので、そこだけは自分ばかりといつも不満を上げていた。
ほとんどの工程をすすみエリアボスのいるブロックの手前のセーフティエリアで、例の商会から買った食事と、魔道コンロにてスープをつくっていると、同じエリア内にいた別のパーティから羨望のまなざしが注がれた。
なかには軽量の魔道コンロの使い方をみて、その手があったかと感心しているものもおり、今後カメヤマシャチュウ製の魔道コンロが冒険者の間で流行るかもしれなかった。
「あすはいよいよ第19層だ。うわさの特殊なエリアが拝めるぞ」
「そのまえにエリアボス討伐があるがな」
「ここのエリアボスはなんぞえ?」
「たしか冒険者ギルドの試料によると、コボルト・キングだそうです。昔はコボルト・リーダーだったらしいんですけど、昇格したみたいで。あと取り巻きのDランクコボルトが平均で30体程度でるらしいです」
「コボルト・キングか。やっとダンジョンらしい魔物の出現だな。ちょっとは楽しませてもらおうか」
「つまりはうち単身では、討伐したらあかんということでっしゃろか?」
「その言葉、そっくりそのまま返してやろう、プラティアよ」
「こらこら、ここでケンカするなよ、二人とも」
久々の大物対手にやや興奮している二人をたしなめるガガであった。
ラン・ムーは、その横で卵サンドをバクつきつつ、魔道コンロで作ったオニオンスープを堪能していた。
このオニオンスープも、商会『カメヤマシャチュウ』で購入した乾燥スープ錠で、お湯に入れるだけで簡単にスープが作れてしまう。
「明日はあんまり無茶はするなよ。大技もだ。ほかの冒険者たちもいるだろうから。もっともフロアボスがいればの話だが」
「それはそうだな。手出しをせず、背後でみまもっているようにいわないとな」
「楽して第19層へいけますえ、文句はありませんでっしゃろ」
ダンジョンでは、一般の魔物がリポップするのに要する時間は数時間なのに対して、フロアボスは復活するのに二日程度の時間を要する。
おなじセーフティエリアで休むまわりの冒険者たちは、どうもフロアボスに対してレイドをくんで多人数で挑戦する予定だったらしい。
ガガたちのような実力者であればともかく、この町を拠点としているBランク程度のパーティでは、コボルト・キングは1パーティだけでは如何ともしがたいらしく、ゆえに徒党をくんで示し合わせて潜るのが通常らしい。
なのでしばらくここ最近は第19層に進んだものもおらず、おそらくフロアボスは存在するだろうということだった。
ただ、彼らのうれしい誤算はガガ達が同じタイミングでダンジョンの潜航をしており、彼らには脅威のフロアボスも、自分たちだけで対応してくれそうだということだった。
ガガたちに言われるまでもなく、戦いには参戦せずして、安全になったボス部屋を通過して第19層に赴くのだろう。
「そういやフロアボスがいる間は、反対からは通れないよな。そういう場合はどうするんだ?」
「それがどうも第19層のセーフティエリアの近くに、転移ポイントがあるらしく、それを使えば第17層の階層横断階段の近くにでられるらしい。行きは厳しく帰りはゆるやかにというわけだ」
そしてそれが、ほとんどの冒険者が第19層以降に行かないように誘導している罠でもあるがな、とガガは内心で独り言ちる。
ミドル・ポーションの泉といい、まさにいたせりつくせり、できすぎている「お帰りはこちら」システムだ。
ボス戦は、ガガたちの予想通り他の冒険者たちは背後に控えて、様子を見守るだけだった。
ガガはボス取り巻きのコボルトたちを、ラン・ムーと協力してさばく役割を担当し、ボスはテツガとプラティアの二人に任せる。
コボルトランクDといえども30体もいれば油断ならない相手だ。
スピードに特化した魔物ゆえ、普通の冒険者なら数を揃えないと対抗できないが、ガガとランは効率よくむしろ相手の素早さを逆手にとって、ばっさぱっさと片づけていく。
ボス戦の方はプラティアが背後からコボルトキングの四肢を狙った『風刀』を大量に間断なく発生させ、負傷させると同時に気を引き、そのスキをみてテツガが大ぶりのバスターソードにて致命傷をあたえるというコンボを形成していた。
「おわった」
「こっちも片付いたぞ」
ボス戦と取り巻きコボルトとの戦いは、ほぼ同時に完了した。
余りの短時間制覇に、背後に控えていた冒険者たちは、驚嘆の声やら拍手などが上がっていた。
「さすがSランク、すげー」
「フロアボス戦で、こんなに短時間に終わるの初めて見た」
「Dランクコボルトとはいえ、一振りで真っ二つになるとか考えられん」
「ボス戦のあの二人、3回のアタックで終わってたぞ」
だが、当のガガたちにしてみれば、だいぶ物足りなかったらしく
「たった3回で終わっちまった。もう少し粘ると踏んでいたんだが」
「うちなんか、何にもしてませんわ。あんなそよ風魔法数百打ち込んだだけで」
とくにボスを任されたふたりは予想に反した結果に不満たらたらで、消化不良の顔をかくさない。
「まあ、そういうな。目的はこいつらじゃないんだから。それにこの先にはもっと楽しい相手がいると思うぜ」
ガガは二人を慰めつつ、半分以上は確実な予感として告げた。
第19層は先に行かせない足止めの層としてある予想が正しければ、『ミドル・ポーション』というあまい汁を用意しているのと同時に、それ以上は進むのを断念させる何かがきっとあるはずだから。




