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サイドC-12 階層横断階段

「話をきいて共闘は断られそうだということはわかった。だが交渉はしてみたい。居場所を教えてもらえぬか?」


これにもハンナとケビンは困った顔をした。


「彼の家は特殊な場所にあってな。ここから一日程度のところなんだが、さすがにそこを教えるには、おまえらとの信頼関係がなさすぎる。結果ホクトの迷惑になるかもしれんからな。ハンナ、最近ホクト達をみたか?」


ハンナは両手をあげてノーを示す。


「どうでしょう、最近ホクトは冒険者ギルドにも来てませんし。3日前にパーティの方が依頼完了の報告と素材の買い取り依頼、魔石の購入をしていかれましたが、その後町にとどまっているかはわかりませんね」

「わるいが町の中にある彼らの家に、使いを出してもらえんか?ケビンが火急の用件があるといって」


その言葉を受け、ハンナは早々にギルド・マスター執務室から出ていった。


「まあ町にいたら、引き合わせぐらいはしよう。町にいたらな。でも共闘や、たぶんだがミヤビやマツリ獣人のスカウトはあまり期待するなよ」


ケビンは、ホクトたちのこの町での拠点用の家があり、そこはここからそれほど遠くないことをガガたちに伝え、結果がわかるのはそれほど時間がかかるものではないので、追加のお茶でも飲んでいてくれといった。

ハンナとは別の職員に、お替りのお茶を出すよう指示する。


「お茶菓子はいかがいたしましょう?」

「そうだな、たしか饅頭がまだあったよな。あれを温めて出してくれ」


指示のあとガガたちに振り返り


「また別の茶菓子を出す。こちらもうまいぞ。売ってないがな。全部ホクトにもらったもんなんでな。仲間の影響なのか、俺らの知らない料理や菓子を毎回持ってきてくれるんだ」

「なんですって」


プラティアが叫ぶ。


「絶対その方たちを紹介してくださいな。ええ、絶対面識が必要やわ」


新種のお菓子を手に入れるため、鼻息が荒くなったプラティアであった。


★★★


ガガたちは、冒険者ギルドに紹介された宿で次の日の打ち合わせをしていた。

あのあと伝言者の帰りを待ったが、けっきょく『アンバーチャイルド』たちは不在ということで、あえなかった。

では自宅の場所を教えてほしいとプラティアも含め懇願したが、さすがに恩人の息子の不利益になる可能性もあると、請け合ってくれなかった。


共闘はともかく新しく気に入ったお菓子が手に入る伝手ができないとわかると、プラティアはひどくがっかりしていたが、ファーラーン・ダンジョンの説明を請け負ったハンナがそれを見かねて、ダンジョンの説明の後に同じものではないが珍しいデザートが食べれるお店を紹介してくれた。

その店はこの都市に本店のある『カメヤマシャチュウ』の経営する飲食店で、名を『テラダヤ』といった。

ミュートラムでガガたちにおなじみになった料理だけでなく、さらに手の込んだ料理を標準的に出している店だった。


お米の存在は知っているガガたちであったが、おにぎりのような簡易的な料理からチャーハン、オムライス、カレーなどバラエティにとんだ米料理があるだけでなく、味付けも単純なものから秘伝のたれとかデミグラスソースとかいうもので調理された各種肉料理、さらにはエールだけでなく日本酒、ブランデー、ワイン、ウィスキーといった酒類まで各種取り揃えられていた。


極めつけは、プラティアがもっとも喜んだデザート群であろう。

桃やリンゴなどの果実を使ったソルベにシャーベット、卵と牛乳で作ったプリン、小麦・砂糖・卵で作ったシフォンケーキなど、フィオナ王国では味わったことのないデザートが、ずらりとメニューに並んでいた。


プラティアはそれらすべてを注文すると、オムライス大盛で満腹だったにもかかわらずぺろりと平らげ、メンバーが止めないとデザートもう一周と頼もうとする始末だった。


「それにしても、すべてに砂糖が入ってるな。どうなってんだ、この国は」


ガガがつぶやいたのもしょうがない。

砂糖はフィオナ王国では貴重品だ。

砂糖はてん菜とよばれる植物からとれるのだが、比較的すずしい地方出しかとることができず、しかも抽出方法に手間がかかるため、絶対量として供給が追いついていない。

なので庶民はもちろんのこと、経済的に豊かなものにとっても、手に入れにくい調味材なのだ。

なので甘味というと砂糖を使った菓子ではなく、甘い果物の加工品を指すことが多い。


だがこの国は違う。

もっと正確に言うと、商会『カメヤマシャチュウ』は異なる。

ミュートラムの町で商会に赴いたときに、塩も砂糖も驚くほど大量に格安で売っていることに驚いたものだ。

それを確認したプラティアは、ここぞとばかりにこれらも大量買いしていた。

国に持って帰って、なじみの料理人に頼んで、菓子をつくってもらうんだと嬉々として宣言していた。


流通が多く価格も安価なため、砂糖と卵をふんだんに使ったデザートが大量にあるのはしごく当たり前の事なのだが、それでもいままでの常識が覆されている感は否めず、その思考の先には、ではその砂糖はどこから手に入れているのか?につながっていく。


同様に卵にしてもこれほどまでに流通するほど出回るのもおかしく、いったい何羽の鶏をかえばここまで数を毎日揃えられるのかと疑問が残るばかりで、やはりというかあの商会には何らかの秘密があると思わざるを得ないガガだった。


国では輸入の注意品として小麦と米と魔道具だけがターゲットになっていたが、いざ現地に赴くと生活に必要な食材や道具があふれんばかりに流通しており、それがすべて『カメヤマシャチュウ』につながっていくのは、どうにも解せないガガであった。


プラティアがちゃんと聞いていたかは怪しいが、とりあえず食事の場で次の日からの作戦を相談したガガたちは、翌日に向けて早めに宿に戻って湯殿をつかい、就寝する。

次いつ風呂に入ったり、国の自宅に比べると粗末ではあるがそれでもちゃんとベッドで寝れるかがわからないためだ。


飲食店で大量の飲み食いをしたプラティアが、次の日ちゃんと万全な体制で出発できるか不安ではあったが、それは杞憂に終わり宿での朝食もしっかりとって、4人は日が昇り始めると同時にダンジョンに潜った。


「まずは、制覇するのは第17層と第18層だ」


事前情報で第19層に赴くのには第18層を制覇しなくてはならない。

そのためにも直通移動な可能な階段で、第17層にたどり着き、そこから第17層と第18層を制覇する。


同じくギルドからの情報で、第17層は森と平原のフィールドダンジョンで、第18層は迷宮型の石通路で構成されたスタンダードなダンジョンとなっていることは確認済み。

第17層は端から端までがだいたい1日で走破でき、フロアボスもいないということだ。

ということはガガたちは、平原と森のダンジョンを、襲い掛かる魔物を対峙しつつ、ただひたすら走破すればよい。


ダンジョンにはいると、ガガたちはまわりと同じように、第5層を目指す。

そこまでは普通の遺跡通路型ダンジョンで、出てくる魔物もスライムや角うさぎ、コボルトといった低レベルの魔物ばかりで、ガガのパーティにはまるで相手にならず、ほとんど労力を使わず数時間で第5層までたどり着いた。


第5層では、そこに到達した冒険者たちが皆一様にある方向に歩いていく。

ガガたちもならってそれについていくと、間口が大きく広がった横広で断浅めの階段に出くわした。


「これがあとから発生した、階層横断階段か」


ガガが聞いた、まさしくそれが第6層~第17層を自由に行き来できるという階層横断階段だった。

階層横断階段は横一列で大人が5~6人は通れるようになっている。

20断程度の浅く広い階段を中とまりまで降りるとちょっとした踊り場になっており、そこで左右に分断され折り返すようにさらに下に続いている。

これほ作った北斗がこの階段を現実世界のデパートの階段をイメージして作成しため、全く同じ構造というだけではなく、材質がなんとなくだが、つるつるのリノリウムに似ていた。

そうやって折り返して1階分降りると、そこはまたホールになっていて、階段はまた折り返して同じような構造で下に向かっていた。

ホールの先はトンネル状のの通路になっていて、その先にはフィールド型ダンジョンのきれいな空が遠方に見えた。


興味をもったガガたちは、最初の第6層で他のこの階をめざす冒険者たちとトンネルをくぐって出てみた。

そこは聞いていた通りの草原と森と丘の続くダンジョンで、そらは青く高く、太陽のような光源まであった。


「おいおい、階段1階分の高さじゃないぞ、これは」


第5層から第6層に移動した階段の高低差は、宮殿などの高い一階分程度であったが、今見ている空は明らかにそれの10倍以上はあった。

テツガのいった通り、階段で降りた高さと第6層の高さが全く釣り合っていない。


「たぶん他の階層もあの階段で降りた高さとは全く異なることでっしゃろ。階段というわかりやすいもんで移動しますさかい、うちらの感覚ではどうしてもそのギャップは感じてしまいますけど、そもそもダンジョンが地中に埋まっている空間という考え方自体がまちごうてます。ダンジョンは異空間に存在すると考えた方が、すっきりするんやないですか」


プラティアがテツガの疑問を解消させるように言う。

なるほどとガガは思う。

たしかにダンジョンというのは、その組成や生成過程からして、いまだに謎が多い。

実体の解明からして、日夜議論されている分野もないではないが、少しでも進展しているとはおもえなかった。

いろいろ研究する人間もいないではないが、こういうのを見ると、プラティアのいった説は案外遠からずと認識するしかなさそうだった。


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