サイドC-8 『カメヤマシャチャウ』で騎獣をかう
「あのアダムってやろう、食えないな」
ドムント港-ミュートラム港間の定期便上で、テツガがぼそりとつぶやいた。
「そうでっしゃろか?あたしにはそれほどの御仁とも見受けられませんでしたが」
無感情平常運転でプラティアが応じた。
「まあな、含む言い方はしていたが、そこまで深くは考えていないと思う。冒険者経験もないのにギルマスに据えられるくらいだから、情報通ではあろうし、腹芸のひとつもこなすさ。とはいえさすがにあからさますぎた、あれは」
ガガもアダムがどこからアカリ姫訪問までの情報を取得したのかは気になった。
が、ガガ自身を諸侯の長であることを知っているとあえて表明したことで、探りどころかガガが関係ないわけがないと思っていることを暴露したようなもんで、あまり賢いやり方ではないなと感じていた。
逆に言うとあれは見張っているぞという警告なのかもしれなかったが、ガガは今回の任務はおおむね楽しみの一つと思っているので、見張られてもなにも怖くなかった。
本当に正式にあとからくるフィオナ使節団が目的はともかく、どんな方策をもって来国するのかのかは知らされていないので、警戒のしようもないのだが。
ドムント-ミュートラムの間の海は紅海とよばれる半島で周りをかこまれた内海だ。
内海とはいえ、対岸の陸がわずかに見えるか見えないかぐらいの大きさなので、海の荒さや魔物の出現頻度はフィオナ王国-ドムント間とほぼかわらない。
航路は直線に北上するだけだが、最短でも丸一昼夜はかかってしまう。
それでも紅海を回り込むように、強力な魔物が跋扈する深い森を行くよりは、はるかに安全で速い。
陸路であれば最低でも1.5週間~2週間はかかってしまう。
ノースランド連邦はもともと商船をあまり持たない国だった。
なので、陸路よりはるかに早いとわかっていても、数少ない商船の優先事項は荷物を運ぶことであって、人間専用の渡し船は存在しない。
船が荷物の少ない場合にのみ、わずかに余裕のできた空間を金を詰める人間を優先的に選んで運ぶというのが、この国では一般的らしかった。
ガガたちは幸い裕福だったのとあとから国に請求できることがわかっていたので、そのような空きのありそうなミュートラム行きの船を探したが、4人を乗せてということになるとなかなか見つからず、あきらめて陸路をいこうと思い立ったころ、ちょうど自国の商船がドムントに停泊しているのをみつけ、若干の貴族の特権を振りかざしてミュートラムまで運んでくれることになった。
フィオナ王国の商船は基本、ドムント港またはミュートラム港に直行便しかなく、この国の二つの港に同時によることはすくない。
持ってくることはあっても持ち帰るものの少ない港二つによろうという、奇特な商人はいなかったということだ。
ノースランド連邦の船事情等も考慮していれば、はじめからニュートラム港行に乗ればよかったわけで、ドムントで簡単に私船が捕まると読んだガガの完全な落ち度であった。
急ぐ旅ではなかったが、無駄に陸路を行く途中に仲間が魔獣などの相手でケガなどして、ダンジョンを制覇できなかったらそれこそ本末転倒、何の渡航か分からなくなるため、危険度が高い陸路を回避できたことは心底ほっとしたガガであった。
先ほど商船をあまり持たなかったと過去形にしたのは、いまは黒船の存在があり、その勢いはフィオナ王国を抜こうとしている。
その黒船はミュートラムを拠点にしているらしく、ドムント港ではみかけなかった。
ミュートラム港から再上陸したガガ一行は、その足で騎獣を購入するために紹介された商会へとむかった。
「ここか...」
ガガには若干のひっかかりはあった。
ギルドから紹介されたのは例の「カメヤマシャチュウ」だったのである。
どうもこの商会は近年冒険者ギルドとも深いつながりがあるらしく、加えてこの商会ほど高品質で多種の取り扱いをしている商会はこの大陸にはないらしい。
(黒船のことを考えれば、それも当たり前か...)
敵情視察の一環と思うことにして、ひときわ大きい商会の間口を抜けた。
店先にいた若い店員に来店した目的をつげ紹介状を渡すと、あっというまにミュートラム支店長が直々に対応してくれることになった。
さすがはギルドマスターからの紹介状の効果だなと、あの代理とのたまっていたアダムの顔を思い出して、ガガは少し感心した。
「こちらにあるのが、現在在庫のある馬と騎獣でございます。馬も通常馬の他に戦馬もおりますので問題ないとは思いますが、お連れの方ぐらいですと騎獣のほうが長距離には向かれると存じます」
支店長はガガの背後にたつテツガを指して言っているらしかった。
ドラゴニュートである彼は鱗に覆われている部分が多く、自重も大きい。
ガガたちは商店裏にある大型倉庫横の厩舎に案内されたのだが、在庫頭数だけでもメンバーは舌を巻いた。
倉庫にはいろいろなサイズの馬や騎獣が所狭しと、30頭程度並べて囲いに納められていた。
馬は戦馬というだけあって、ガタイが大きく胸肉も隆々とし毛艶もよく、丁寧に育成されていることがわかる。
騎獣は一般的に使われている小型のグリーンフォレストドラコンがほとんどであるが、数頭だけ赤い体躯の一回り大きい騎獣もいた。
「数頭ですが、ルビーレッサードラゴンも用意がございます。値はとなりのグリーンフォレストドラゴンの倍ですが、体力や走破力においては数倍になります」
プラティアをのぞくメンバーが珍しそうに注視していたのを見とがめて、支店長はそつなく営業をこなしていく。
「よくまあ、あれほど凶暴で集団を好む亜竜を捕まえて手名付けられたな」
「騎獣の育成はわが商会の得意分野の一つでして、詳細はお話しできかねますが、主人に従うことは90パーセントは補償いたします」
「90パーセント?100パーセントではないのか?」
「それは騎獣も生物でございますので、生存にかかわる危機の際はどうしても本能が出てしまいます」
「正直なことだな...と、あれは何だ?」
厩舎の馬や騎獣が各々のブースで動いている中、奥にまったく動かない馬を見つけてガガは聞いた。
「ああ、あれでございますか。ご覧になりますか? 冒険者様はどちらかというと毛嫌いされる方が多いのですが。あちらもわが商会の得意な分野の製品になります」
案内されて厩舎の奥につく。
(やはり、これか)
ガガはそれに見覚えがあった。
それは外見上は戦馬と同様のスタイルをとっていたが、色も毛艶も形成されている材質すべてにおいてく異なった。
「わが商会が誇る商品の一つ、ゴーレム馬でございます」
「ゴーレムだと」
ガガは王室での会議にて黒船関連で知識が与えられていたが、メンバーは初見だったので少し驚いていた。
「さようです。このゴーレム馬、馬力や走破力は先ほどのルビーレッサードラゴンと同等です。にもかかわらずゴーレムですので、休息もいらず、生物的な本能もありませんので主人の言うことに100パーセント従います。しかも活動の源である魔石は極小魔石ひとつですみ、それがカートリッジ形態で格納されておりますので、このカートリッジの最大総点数10個をセットしておくことで、使い方にもよりますがだいたい5年は可能です。自重も1トンあるうえに自己セキュリティ機能も付与されておりますので、盗難もほぼ不可能です」
極小魔石のみで動くことは知っていたガガだったが、カートリッジで10個連装でき稼働日数が5年ときいて、あらためてこのゴーレム馬の不気味さを感じた。
「いろいろあるようだが、金額はどの程度をみればよいのだ?」
「そうですね、通常馬が金貨4枚、戦馬が金貨6枚と銀貨50枚、グリーンフォレストドラゴンが金貨7枚にルビーレッサードラゴンが金貨14枚となります」
「このゴーレム馬は?これは1頭だが数頭欲しい場合、在庫はあるのか?」
「こちらも候補に上げられますか,,,在庫は十分ございますし価格は金貨7枚となります。極小魔石10個装備済み品です」
支店長は以外そうに説明した。
冒険者は基本得体のしれないものを嫌うからである。
仲間で話し合いの結果、ガガ、テツガ、ラン・ムーはゴーレム馬を、プラティアだけがグリーンフォレストドラゴンを購入した。
騎獣の休息が必要ないのは、本当に利点で先を急ぐ゛ガガにしてみればほんとうは全員ゴーレム馬にしたかったのだが、
「お尻が痛くなりそうなので、いやですわ」
の一言で、彼女の意見が通されたのだった。




