サイドB-40 この氷室すんごい
ミヤビの予測は大方あたっていた。
マルティは家屋や氷室の修復に、いままで生成方法を検討して作ったはいいが、採用したことない技術を全部ぶち込んでいた。
例えば壁として入れ替えた材質は、ウッドゴーレムで使用した野と同じ木の魔物ブラックフォレストウッズを主材料として、それだけでも堅牢なのにもかかわらずあえて分解して特殊な粘液にて合板したものであった。
その特殊な粘液は、粘度が強いだけでなく気泡をたくさん含ませて固めても、強度がもとのブラックフォレストウッズに同等になるだけでなく、断熱効果と吸湿効果が持たせられるため、冬の季節になって暖房を利用した際に熱が逃げにくいだけでなく、夏の外部からの熱もシャットダウンしやすい。
屋敷を取り囲む外壁は、素材として大量に確保していた高硬度をもつ亜竜の骨を骨粉化して相性の良い花崗岩と粘度を混ぜて作り出した、現代世界でいえば高硬度コンクリートになる。
この世界の外壁といえばレンガを積み上げて粘度や漆喰で固めたりしたものが多い。
もしくは柵自体が鉄筋で作られて、前者と異なり屋敷内内部がある程度見通せるものもある。
サーフライト家の外壁は前者にあたり、ゆえにこの世界製のコンクリートを作り出してあてたのだ。
コンクリートの無機質で外観が損なわれないよう、サロモンは蔦をあしらった造形と、派手にはならないよう艶消し塗料をつかった塗装も同時に施していた。
塗装にはマルティのもう一つの実検で劣化付与が施してあり、そうそう色落ちすることもないようにされていた。
「でも変態か~。否定はできないけど身内に言われると若干さがるな...」
まえまえからミヤビの言語能力が上がるたびに、うすうすは気が付いていたが、面と向かってはっきり言われるとちょっと落ち込むマルティ=北斗であった。
「そういわれたあとに説明しずらいけど、まあいいや。氷室作り直したんで、皆に説明しておこうと思って、集まってもらったんだ」
皆を誘導して氷室の中に入る。
「ライト・オン」
天井一面が輝きだし照らし出された氷室は、以前と広さは同じだが中心にあるはずの魔道器は存在せず、新しい棚で埋まっていた。
だが室内はひんやりとしており、氷室としての機能をはたしていることを物語っていた。
「魔道器はどこに行ったのですか?」
「あそこです」
アカーシャが質問すると、マルティではなく製造工程を見ていたツバキが天井をさした。
「天井ですか?それにみたところとても以前のものと比べて小さいようですが...」
「冷気はもともと下方にたまる性質を持っています。なので冷気を発する機器は上方に設置するのが常套なんです。あと小さいようですが、冷やす性能は以前のものに比べて2倍、使用魔力は5分の1になってます。以前あった魔道器は、分解して材料に使わせてもらいました」
マルティが先ほどのミヤビの酷評にもかかわらず、得意げに説明した。
「機器は実質10倍の性能ですか、それにしてもあのミスリルも使われていた魔道器を材料にしたとは、こんな短時間でよく作り変えられたものと...」
「マルティさんは錬金術師なんです。だから素材の加工や変換なんかは得意なんです」
ツバキが自分のことのように喜んで説明した。
「はて、棚が増えて貯蔵量はふえとるはずなのにすでにいっぱいだな」
ゲオルクが棚を検分しながら答える。
たしかにすでに棚はいろいろなもので埋まっていた。
ジャガイモ、玉ねぎ、にんじん、麻袋にはいった小麦に大麦。
加えて見覚えのない色に染められた麻袋も大量につまれていた。
「ああ、それは棚が増えたのにスカスカだとさびしいなとおもって、ぼくの手持ちのものをミヤビのストレージから出してもらってうめときました。見覚えのない食材、たとえばあの色付きの麻袋の中には米という穀物が入っていたり、芋や玉ねぎ系もいろいろ種類を足してあります。調理方法はパイが熟知してますんで、任せてあげてください」
「それでこの量か...」
「ちょっと多いですよね...」
米と小麦の入った麻袋は棚とは別の端スペースに大量に積まれている。
家人だけで消費するには2~3年はかかりそうだった。
「すごいとは思うんだけど、なんかこの部屋、以前より寒くないよ」
カエデが遠慮なく言う。
氷室に入ったことのある人間は、いわれてみて確かにとうなづいた。
「この部屋はそうだね、以前よりは若干高めに設定してある。穀物なんかは味を落とさないで保存するには、ものが凍らない少し高めの暗室で保存するのが一番なんだ。照明も日の光とは異なるので、野菜も劣化しにくしい、つまりこの部屋は穀物貯蔵用なんだ」
マルティの言葉に、ツバキ以外の一同は引っかかるものを感じた。
この部屋は?
「そして、こちらの扉の奥が物を凍らして貯蔵する氷室。新たに作った第二の氷冷室だよ」
★★★
「さっむ」
「うぉ、なんじゃ、この寒さは」
第二の氷冷室に入り、マルティがまた照明の合言葉を唱えて照らし出された部屋は、上の氷室から階段で降りた真下にあった。
真下に部屋を作ったのは、地下の方が保冷がしやすいのと、人の出入りで冷気が逃げにくいこと、さらには土地の有効活用のためだ。
ひろさはだいたい同じで、部屋見もおなじように棚で埋まっていた。
ただし温度は桁違いだった。
温度の指針がないこの世界なのでマルティは言葉には出さないが、上の氷室は5度、この下のはマイナス20度に設定してある。
「ここは凍らして保存が必要な食材を保管するスペース。肉類はここに保管しておくといい」
たしかに肉類には適切な空間だと思うが、それにしても寒すぎた
「前の氷室よりも、はるかに寒いですね」
「うむ、ここらの肉もすでに凍っているぞ」
庭師ゲオルクの言葉に、みんな、えっとなる。
「肉ってどういうこと。もしかしてこれもマルティが...」
「うん、おいた。普通の肉から珍しいにくまで、いろいろあるよ。全部ちょうどよいサイズに切り分けてあるから、必要分取り出して使ってくれるといい」
改めてみると切り分けた肉や小ぶりの塊が、木箱にわけられて大量に入っていた。
「そしてこの下の部屋にはさらに超低温の氷室があるから。ここよりは狭いけどそんなにこの温度の部屋に入れるものはないと思うんで」
とさらに下の回への扉をさしていう。
「ちなみにこの階もそうだけど、なかに1時間もいたら凍死しちゃうから気を付けてね。下の階はもって15分かな」
余りの寒さでもう確認する気力もなくなってきた一同に、とどめのセリフをはいたマルティだった。
ツバキは、作っている時にいたので知っているが、地下2階は他の部屋の半分くらいの広さで、温度はさらに低い。
作り分けた魔道器をそれぞれの階に2台ずつ設置したのだ。
一同は寒さに耐えきれず、外へと出る。
外は平均の気温なのに温かさが躰に浸透してきて、真から冷えていたのを実感する一同だった。
「いったとおりにゃろ、やりたい放題だって」
ミヤビが自慢げに、まわりを諭す。
「これは普通の氷室とは呼べんな。都市にある雪山とでもいえる。どんな王族でもここまでのものは個人持ちしておるまい」
ゲオルクが誰にともなく吐いた。
「ていうか、やりすぎ。ここまで求めていない。それにあの食材の量なによ。いったい何人分想定よ。スピードも早すぎ。あの部屋、30分で作ったんでしょ、あのドワーフ」
「まあ、優秀なのはみとめるよ」
一人しか部下がいない、いやいまは一人と13体を配下に持つメイド長は、顔が真っ青だ。
この氷室ひとつとっても国宝級で、置かれていた食材、特に肉については量もさながることながら、内容も高級肉が多く置かれていたことも、ショックを受けていた。
お礼を払うといってもいったいいくら払えばよいか想像もつかず、払えと言われても払えず、払わなくていいといわれても禍根を残しそうで、もうどうしたらよいかわからない。
いっそのこと全部なかったことにできないかとさえ思い出していた。
「もう一度聞くけど、ほんとうにタダでいいの?」
「もちろん、ミヤビの言うところのモノづくり変態の余興につきあってくれたことの報酬としてもらっていいよ。結構楽しめたんで」
ひらきなおって、しゃあしゃあとほざくマルティであった。




