サイドB-38 マルティスキル『構造解析』
次の日の朝、前日と同じような時刻にマルティたちはサーフライト家を訪れた。
前日新しいメイドたちとウッドゴーレムたちの働きを確認したマルティたちは、明日も必ずおうかがいするからと用意してあった客室を固辞して帰っていった。
マルティたちが提供した新しいメイドたちは実に優秀であった。
建物や施設の説明を一通り受けた後、まずは手始めと掃除をマロンとアカーシャの立ち合いのもと行った。
手際も内容も及第点を越えてきた。
とくにメイド三体とウッド・メタル・ゴーレムが装備として持っている物の中に、部分的に空気を出したりすったりする魔道具があり、これを使うことで床やカーテンなどのほこりやチリをあっという間にすいとってしまったり、庭の落ち葉などを吹き飛ばして一か所にまとめたりができた。
北斗がマルティの錬金術師としての付与能力で作った、いわゆる掃除機兼送風機であった。
ちなみにメイドとウッド・メタル・ゴーレムには1000キロの質量ストレージ能力(松)を付与しており、それぞれの武器と専用の家事用の道具&魔道具を持たせている。
メイドたちのストレージには、自己保持用のステックタイプの専用固形食料が10年以上分入っている。
普通にメイドの仕事程度で活動している分にはひと月1本程度しか消費されないため、年間12本の10年分で120本、その他予備として80本の計200本持っていることで、実質25年程度は補給がいらない。
もちろん戦闘もこなせるメイドなので、そういう状況が続けば、消費ははげしくなる。
メイドたちの能力の中で一番受けたのは、魔道具ではなくパイの料理だった。
主材料はマルティがブラッディーホーンブルのロースと自家製の消毒済卵を提供し、それをもって目玉焼き付きハンバーグを作ったのだった。
姉妹はもちろん家人にもふるまわれたのだが、それが使用人たちには未知の料理だったため最初は警戒されたが、姉妹はもうすでに知っていたため、警戒なく食べているのを見ておそるおそる食べてみたら、おいしかったというわけだ。
さらには米なるものもパンと一緒に選択できるように出されて、それをまた姉妹が喜んで食していたので、こちらも挑戦したところ悪くないといったところだ。
ただ使用人たちが戸惑っていたのは、おかずという概念がこの世界にはないので、お米を最初は単品で食べるものだと思ったらしく、味が薄いなどといってたのが、毎回のことながら北斗には新鮮だった。
マルティは約束通り、建築系スキルを持ったサブキャラをつれて訪問した。
種族はエルダードワーフとドワーフの中でも貴種で、掘っ立て小屋から要塞までも単独で作れるスキルを保持している。
もうひとつ酒造りのスキルも保持しているのだが、北斗があまり酒にこだわらないので、いまのことろそのスキルは活躍していない。
北斗のもつサブ・キャラとしては、建築系以外は中盤ぐらいのSSRキャラで、『多重自我憑依』キャラでもないので必要な時にだけ専用ストレージから取り出しているという感じだ。
そのため他のサブ・キャラと等しく無口で聞かれたことしか反応できない。
たった一日とはいえ、姉妹含む家人との接触だけは、単独時にされないよう気を付けなければならなかった。
マルティは玄関先での来訪を告げた後、早速仕事を開始させる。
「どうだ、見積もりは?」
昨日案内された通りに一通り家屋と氷室を連れて回って説明した後、マルティは確認した。
「修復強度はどう設定する?」
ここだけはため口でふつうなのに、これで自分の意思がないなんて、アンバランスだなとマルティはいつも思う。
「外壁はレベルA、それ以外はレベルBといったところか。あと氷室については構造的にもう少し注文がある」
「了解した。材料も手持ちのもので足りそうだから、1日あれば完了する」
「それはよかった。では氷室から始めてくれ。追加の注文というのは...」
マルティは、うしろについて回っている姉妹には聞こえないようにエルダー・ドワーフに話しかけている。
細かい内容なので、小声になっただけなのだが、カエデにはそれが気に入らない。
「なに、また悪だくみ?」
「人聞き悪いな~、そんなんじゃないよ」
「あんまり変なことされると、この家自体の評判が危うくなるのはわかってる?」
「もちろん。ただ普通よりはちょっとよくさせてもらいたいから、それは勘弁して。悪いようにはしないよ」
マルティの普通が、はたして一般人の普通かははなはだ疑問だと思いながらも、少しは何をするつもりだろうと期待している自分にカスミは少し驚いて、それ以上は突っ込めなくなった。
エルダー・ドワーフは、ひとり氷室にはいっていくこと30分で出てきた。
「おわった。次は館にかかる」
「はぁ、終わった?」
びっくりした声をあげる姉妹に、マルティは説明する。
「建物の修復だけね。冷却用の魔道具は今から僕が修復するから、それが終われば氷室は完成。ミヤビ」
「何にゃ」
「ぼくは今からこの氷室で作業するから、彼について回ってフォローしてくれ」
並行して作業するには、エルダードワーフと別れなければならないが、サブ・キャラの宿命で受け答えが必要な内容以外できないので、ミヤビにコミュニケーションの補助を頼む。
カエデはエルダードワーフ側に、ツバキはマルティの作業が見たいと残った。
氷室室に入ったツバキは、まずその内部構造ががらりと変わったことにたいして、驚きの目をむける。
床・壁・天井は、以前のくすんだ状態から黒曜石の黒さを持ちながらもうっすらと姿が映し出されるほどにぴかぴかに磨きなおされており、気を付けないと転びそうになるほどつるつるになっている。
壁につけられていた照明もすべて外されており、いまは簡易的な魔力灯として地面に置かれていた。
もともとあった棚はすべて取っ払われており、作り直したと思われる棚が壁際だけでなく、中心の氷冷気魔道器の付近までギリギリ列をなして、整然と並べられていた。
「まずは照明からだな」
と、マルティは自身のストレージから、変わった形の白い半透明の板を数枚取り出した。
板のサイドにあるボックスに同じくストレージから取り出した小魔石をはめ込むと、声をだして命令する
「ライト・オン」
白い板は自身の色のまま、白昼色の光で輝きだす。
近くで見ていたツバキは、その眩しさに一瞬目を狭めた。
「これは...」
「自身が光る魔道具さ。僕のオリジナル。ダンジョン内で出した小屋もこれと同じ板を使っての照明をしてたんでツバキは初見じゃないとおもうよ」
たしかに、あのダンジョンでストレージからだされた小屋は天井が一面光っていたなと、いまさらながらにツバキは思い出した。
マルティはそれら発光している板を自身の魔力糸で器用にもちあげて天井にはめ込んだ。
よく見ると、天井にそれらをはめ込めるための枠が、複数あらかじめあけられている。
ただ、板の数とは合わず2ヶ所まだ穴が残っている。
「ライト・オフ」
発光していた板は、瞬時に暗くなる。
ふたたびライトオンと唱えて、明るくなったところでマルティは説明する。
「こんな風に使う時だけつけれるようになっている。つけっぱなしを防ぐために、3時間で自動的にも消えるけど。魔石で動いて小魔石でだいたい30000時間交換の必要はない。一日3時間程度つけて、だいたい30年くらいかな」
氷冷室はそこまで頻繁に使う倉庫ではない。
食材の為に毎日出入りするとしても一日せいぜい1時間程度だろう。
つまりぼぼ自分が生きている間には交換しないだろうとツバキは思った。
「つぎはこの古い氷冷気魔道器だな」
「どうするんですか?」
「解体して新しい物に作り変える」
と、マルティは自身の魔力を魔道器に浴びせた。
マルティのオリジナルスキルに、『構造解析』がある。
このスキルは、武器・防具・道具・魔道具とわずありとあらゆる非生命体の製造物の設計図を自動的に作りだして記憶する。
設計図は構造だけでなくその仕組み、例えば魔道具であれば発現原理を解析して完全にその動作手法を理解できる。
いまマルティはその能力をつかって、目の前の氷冷気魔道器の構造と動作原理を完全に理解した。
魔道具の動作原理というのは、北斗の感覚でいうとシーケンス処理にちかく、つまりプログラミング的な理解ができるものだった。
ここからは現実世界での知識をフル活用した北斗オリジナルなのだが、そのプログラミング的な内容を自分流にカスタマイズして、シンプルかつ高効率化を図れる。
いま解析した魔道具にしても、現実世界で冷蔵庫を日常的に使っている北斗からしたら、おそろしく非効率な方法を用いていた。
冷気を作り出す手法も魔力自身の能力に傾倒しすぎており、物理学的・科学的な原理を用いた冷気生成方法は全く関与していなかった。
(まあ、魔力で冷気を作り出せるこの世界では、そんな研究をしようなんて輩もいないか)
魔法が動作原理の大半を占めているこの世界ではやむを得ないことだと北斗は思った。
ただ自分がその手法にのっとる必要もないので、古い魔道具を錬金術で原料に分解しつつ、新しい構造と魔法式、それに現代の科学知識を組み込んで、平べったい天井設置型のエアコンの形に作り変えた。
できた魔道器は同じものが5つで、以前のものよりもはるかに小さかった。
「氷冷用の魔石があったよね」
ツバキはあわてて氷冷用魔石を持ってくる。
中サイズの魔石で、特定の魔物からしかとれない希少なものだ。
それが保管用箱に10個入っていた。
これだけでもおそらくひと財産する。
マルティはそれを今作った魔道器にセットして、1台だけを天井の埋まっていないくぼみに取り付ける。
魔道具はすぐに冷気を発しだした。
「うわ、すずしい」
天井から大量の冷気がさんさんと降り注ぎ、氷冷室はあっという間に寒いぐらいに冷え切った。
「冷気は下にたまる性質があるんだ。だから天井に据え付けた方が効率がいいんだよ」
「そうなんですね。でも感覚的ですけど以前の氷冷室よりも寒い気がします」
「それは断熱をより高くしているせいもあるとおもうよ。もちろん魔道器の性能も以前のものよりアップさせているけど」
マルティは自分の作品に満足げにいう。
「それで、あと4台余ってますけどどうするんですか?なんとなくですけど、1台で足りているようですけど」
マルティはツバキにニコリとほほ笑む。
「それはね、もうひとつの冷凍室のためのものさ」
「冷凍室?冷凍室てなんですか?」
マルティはさも面白そうに、ツバキを部屋の反対側へと案内した。




