サイドB-37 メイド群団
「そう彼女たち」
そういうとマルティはさらに二本の試験管を取り出す。
そのふたを開け床に展開すると、イオタと同じように人の形をとった。
同様にミヤビのストレージから取り出したメイド服を着用し、イオタの横に並んだ。
身長も身体的特徴も髪の長さや色まで異なる三体が、一同の前に並んだ。
「イオタの隣にいる赤い髪のがパイ、そのとなりの青い髪のがミュー」
能力はイオタと同程度らしいが、パイに関しては料理が他に比べて作れる種類が多いとも紹介された。
「この三人のメイドたちを、マロンさんアカーシャさんの下につけて働いてもらう。そしてさらには」
「まだなんかあるの?」
カエデが現時点ですでにおなか一杯という、一同がもつ感想をすなおに言葉にした。
「うん、この三人は優秀だけど使用人の規模としては分母がまだ小さいよ。ミヤビ、人型万能タイプを10体出して」
「了解にゃ」
ミヤビがストレージから出したのは、濃いブラウンに所々金属のストライプが入った、人間型のゴーレムであった。
身長は180と高めで、目鼻をかたどった輪郭はあるものの、木彫りそのままで眼球にあたるものや口鼻には外気を取り込むような穴はなかった。
いやよく観察すると、眼球に似せた金属のようなものがはめ込まれていた。
サーフライト姉妹と使用人達の前に、10体全く見分けがつかないものが、三体のホムンクルスの背後に整然と並んだ。
マルティは自慢げに語りだす。
「木の魔物、ブラックフォレストウッズにミスリルを融合させて作り出されたヒューマノイド型ゴーレム。こいつらはホムンクルス同様人間の言葉を理解し、しゃべり、行動できる自立型で命令により掃除・洗濯・裁縫が可能で、やり方さえインプットすれば屋敷の修復何かもできちゃう。おまけに剣術と盾術をレベル7程度にはマスターしているうえにフィジカルもつよく、並みの剣士では歯が立たない。いわゆる護衛にも使える。こいつらはイオタ、パイ、ミューの下について三人の管理のもとはたらいてもらう」
さらに言葉をう失った一同に、マルティはつづけた。
「一応これだけいれば、人材不足はクリアできると思う。護衛という意味ではちょっとオーバースキルかもしれないけど、回っていない掃除とか洗濯は問題なくこなしていけると思う」
ボー然とする一同のなかで比較的遠慮感が低くなっているカエデが、最初に口を開いた。
「これってさ、やっぱりあんたが作ったの?」
「いや、さすがに専門外。こういうのを得意としている仲間に作ってもらった。それで命令権を僕と化ミヤビに渡してもらって、そのうえでミヤビのストレージに入れて持って歩いてるわけ」
「ちなみに入れてるのは、ユニットタイプストレージ?」
「そうだけど」
ということは、マルティたちのことだ。
同じ種類のものであればいくらでもひとつのユニットに入るストレージに、この10体だけということはないだろう。
といってもそれをいま皆の前で聞く気にならないカエデだった。
とんでもない数をいわれたら、使用人たちの心臓に悪いのは、分かり切っている。
「セキュリティ的な問題から、命令権の委譲に関してはキャンセルするようにするけど、それ以外は使用人たちとイオタ三人の命令を聞けるようにしておく。ここにいらっしゃらない執事長、アカーシャさんのお父様に命令権をわたせないのは申し訳ないけど、イオタたちはアカーシャさんが普通に紹介すれば、この家の使用人とわかる能力はあるんで。さっ、軽く自己紹介して」
マルティの名で、三人はそれぞれにかしづく。
「イオタともうします。家事全般と他の二人にゴーレムたちの統括をいたします。片手剣術に盾術術に精通しており、多少の白魔法が使えます」
「パイといいます。家事全般はもちろんのこと、料理を得意としております。剣術も使えますが得意なのは無手の体術です。水魔法が使えます」
「ミューです。家事全般に畑いじりを得意としています。とくいな武術はパイと同じく無手の体術で、両手短剣も得意です。使える魔法は土魔法に限定的なドルイド魔法です」
これをきいて、姉妹があわててマルティにかけよって耳打ちする。
「ちょっと、オーバースキルなんてもんじゃないじゃない、この三人。控えめに言っているけど、たぶんあんたのことだから全般的に相当なレベルのホムンクルス何でしょ?」
「そうです。メイドというか、冒険者としても十分通用する人たちなんですよね。マルティさんたちの旅に必要ないんですか?」
自分たちにいろいろ与えられているものは、どれも今のところすごいものばかり、食事の素晴らしさを含めてだが、これは少しやりすぎのような気がする姉妹だった。
これにさらに、たぶん普通ではないウッド・ゴーレム10体がつくのだ。
「ああ、そのこと。大丈夫、心配しなくていいよ。いまのところ旅に関しては彼女たちの助けは必要ないし、こういう目的で作っているホムンクルスは3体じゃないから。彼女たちのレベルはおっしゃる通り相当だけど、僕が作ったホムンクルスの中では中盤くらいだし、そもそも僕たちの方がはるかに強いし、作れる食事のレパートリーもおおいからね」
「でも、そのお給金はどうするの?」
「えっ、いらないけど。いるとしたらホムンクルス専用の食事代ぐらいかな。彼女たちは効率がいいんで、それさえあればあとは何にもいらないよ。着ている服も自浄作用が付与された、戦闘にも耐えうる服だし。ゴーレムについてはそれこそ何もいらない。土と日からのエネルギー吸収するための停止状態10分間を1週間で1回は自動的にとるけど」
なんか他人の家のことなのにいたせりつくせりで、マルティに申し訳ない二人だった。
「じゃあせめてその専用の食事代ぐらいは出させてよ」
「君たち仲間だし助け合うのは当然だと思うんだけど」
「いや、もらってばかりでしょ、今のところ」
マルティーはうーんと腕を組んでうなって
「まあ、それで君たちの気が済むならいいか。僕が作るものなんで普通には買えないものなんだけど、適当に値段付けるよ。しばらく帰ってこないことを想定して3年分、三人分ひと月金貨1枚の36枚というところでどう?」
「能力を考えると安すぎる気もするけど、わかったわ。それでお願い」
おそらくだが、マルティにとって金貨36枚程度ははした金だろうが、それでもパーティメンバーとして対等でいるためには、必要な処置とカエデとツバキは納得した。
「じゃあさっそく彼女たちとゴーレムに指示を与える為の事前準備として、建物や施設の案内と注意事項なんかを説明してもらえるかな。さすがにそれがないと彼女たちもゴーレムも動けないので。あとお昼近いからパイにはお昼を作ってもらおう。材料は僕が出すから」
カエデはわかったと、さっそくマロンたちにそのように指示する。
一行はマロンとアカーシャに連れられてぞろぞろと移動していく。
「で、あと氷室と建物の修復だけど、そっちはどうするの?」
一行を見送ったマルティとミヤビにカエデは問いかける。
「建物の修復は僕でもできなくはないんだけど、専門スキルを持ったものを呼んだ方が速いんで、ここに来てもらう。彼もこの町にいるんだけど、今日の今日ではさすがに準備も難しいんで、今日は事前の連絡だけして明日呼びに行ってくる」
「専門スキルですか?」
ツバキが興味深そうに聞く。
「そう、建物を建てるのに特化したスキルをもった仲間だよ。ドワーフなんだけどね」
「スキルというと、魔法をつかってですか?」
建物を作るスキルがあるなんて初めて聞いたツバキは、一体どんな魔法だろうと少し興奮している。
「そうだね。実際に見れるから、楽しみにしていて」
とマルティはツバキにうしろめたさを伴いながらいった。
この世界での本当の仲間といいながら、話せない内容もいろいろあり、その一つがガチャで得たサブ・キャラ達の存在だった。
『多重キャラ割り当て』でマルティがあと三人割付できることはすでに説明済みだが、『多重自我憑依』については説明していない。
姉妹の前でダンジョンマスターとして顕現させたミミコは、『多重自我憑依』キャラの一人なのだが、それを細かく説明するには現実世界の話をしなくてはいけない。
それだけはたぶん受け入れられないので、ダンジョンマスターに据えたミミコがホクト同一人格という説明だけはしていない。
明日手配しているというのは、ホクトが自我を憑依させていないサブ・キャラのひとりで、ゲーム的にいうとNPCにあたる。
ホクトのストレージから出せば今日にでも作業は開始できるのだが、その過程はさすがにサーフライト家の使用人たちには見せられないので、迎えに行く体で連れてこようと思っている。
「というわけで、修復は明日から。建物も氷室も今まで以上にするから期待してて」
最後の宣言は、限度を知らないマルティを知る姉妹には、ちょっと怖い宣言であった。




