サイドB-36 北斗=マルティの趣味
「まずは氷室をみせてくれる?」
マルティの要望に、アカーシャの案内で屋敷裏手の窓のない蔵のような建物に案内される。
ついてくる必要もないのだが、興味本位のマロンにゲオルク、マルティがやらかすのではと別の不安のカエデ・ツバキ姉妹がぞろぞろとついてきた。。
毎度のことで興味のないミヤビは、自前のストレージから出したフルーツケーキを食べて眠くなったからと、通された居間で昼寝をしている。
この世界では氷室は一般的に流行っている魔道具で、貴族や富豪などお金に余裕のある人であれば、大小はあれど所持している。
サーフライト家も武家の家とは聞いていたが、歴史が長く騎士団長も輩出したことのある家ということで、実入りはそこそこあっての氷室所持だろう。
冷却する魔道具が大型のため、どうしても設置規模は大きくなってしまうので、ある程度土地も持っていないと作れない欠点もある。
そういう意味でも、一定の資産もちという条件はしょうがない。
ホクトの拠点にもともとある現実世界の冷蔵庫に近いサイズのものは、この世界ではホクトたちは見たことがなかった。
あれは知識としてしか知らない、死んだホクトの祖父のオリジナルだったらしい。
やり方としては解読しているが、大人数のこの家では氷室の方が都合がよいので、それは設置するとしてもついでの範囲と北斗はおもっている。
氷室は、この世界の他のものと同様、二重構造の厚い外壁でできていた。
内側に熱を通しにくい花崗岩をしきつめ、外側は補強のための漆喰のような土壁に日の光を反射しやすい白い塗装でおおわれていた。
入り口は氷室内の温度が下がりにくくするための2重扉となっており、冷気が逃げにくいように非直線の下段への階段となっている。
氷室本体は半地下に作られているのだった。
氷室の中は真っ暗かと思ったが、魔法石を応用した昼白色のライトが2つ設置されており、物を確認できる程度には明るかった。
ただ室内は氷室とは呼べない温度であった。
半地下なので、地上よりは涼しいが若干ひんやりする程度である。
構造はマルティが想定した通り、壁伝いに棚が並び、部屋中央に冷却用の魔道具である装置が鎮座していた。
魔道具の設置面積は、部屋の50パーセントはあった。
「中サイズの魔法石二つでひと月は持ちます。幸い先人たちが残してくれた魔法石にまだ若干の余裕があるため、起動は可能なのですが冷却装置がこわれているのか冷気が少ししかでてこず、部屋全体を低温に維持できませんので、いまは止めてあります。なのでいまここにはジャガイモと玉ねぎなどの低温であれば維持できるものしか置いてません」
なるほどとマルティは、さっそく魔道具を調べにかかる。
「じゃあお肉とか保管に低温が必須な食材はどうしてるの?たしかヘルルートさんが時折魔獣を狩って肉を補充していたと聞いたけど」
「それはある程度取り置いて町の共同氷室倉庫に、使用料を払って納めております。使用量は残りのお肉や素材を売ったお金で賄っているらしいです」
「ふーん、でもいちいち取りに行くのも不便だよね」
一通り魔道具や壁を見分して、腰をあげたマルティは悪びれもなく宣言する。
「うん、この魔道具は僕では修理できないことがわかった。だからこれを使うのはあきらめて」
「なっ、」
アカーシャは堂々と言われて言葉が出ない。
「ちょっと、3日で対応の話はどうなったのよ!」
カエデが素早く突っ込みを入れる。
「いや、ちょっとまって。この魔道具はあきらめてといったけど、僕がもっと効率のよい冷却用魔道具を用意するから、撤去するねという意味でいったんだよ」
「撤去ですか?」
「もうちょっと言葉を足すと、この魔道具の素材自体は触媒用に一部ミスリルとかもつかわれているから再利用はさせてもらう。ただ完全に作り変えてしまうから、そこは許可をほしいということ」
マルティの趣旨を理解したアカーシャは、家主に意見をもとめる。
「そういうことならいいんじゃないですか?使えないものを置いておくよりも」
ツバキの言葉には、マルティがよりよく応用できるという確信があるらしく、皆それで納得した。
次に、屋敷のほうを見させてもらう。
最初に通された今からだいたい想像できたのだが、努力はしているのだろうが屋敷全体がすう汚れていた。
使われていない部屋も多く、人の出入りも少ないことから屋敷自体がくすんだ形となっていた。
さらに外壁のにひびが入っていたり、崩れていたりする個所もあって、こちらも手も予算も間に合っていないのがわかった。
「西の2階の部屋のいくつかは雨漏りも激しく、掃除しても雨が降ると汚れてしまいますので、いまは家具を運び出して立ち入りを停止しております」
案内してもらうと確かに天井に雨地味が派手にできており、床の絨毯も黒ずんでいた。
マルティは、こりゃひどいねと検分していたが、ここでは特に何をするという発言はなかった。
「差し支えなければこの屋敷の部屋の数を教えてくれます?」
「リビング2部屋と執務室をのぞくと、離れを入れて全部で18あります。客間はそのうち8です」
「ずいぶん立派な建物ですね」
「ええ、長くこの国の騎士団を中核で支えてきたお家柄ですので、それなりには」
あと、小さいが使用人用の部屋も個室で10用意されているらしい。
一通りの調査が完了したとして、一行はミヤビの待つリビングに戻ってきた。
「だいたいわかりました。まずは簡単なところから始めましょう。使用人不足ですがアカーシャさんのお父様が帰ってこないと、雇うにしても人選は相談が必要でしょう。そもそも伝手がない以上探すところから始めないといけない。だから今回は手っ取り早い方法で雇わないで済む方法をつかいます」
「どうするのよ」
「これを使う」
と、マルティはショルダーバッグから1本の試験管を取り出した。
なかには人の形をしたものが入っており、マルティがふたをあけ床に中身を開けると、それはみるみる大きくなり、ひとりの大柄な女性へと変貌した。
「イオタ、たて」
マルティの命令とともにそのイオタと呼ばれた何かは、立ち上がった。
薄い下着しかつけていないため、身体的特徴は女性だ。
しかし何かが異なる。
現れ方からして普通の人間ではない。
「これの名はイオタ。僕が作り出したホムンクルス、人工魔性生物だよ」
「ホムンクルス...うそでしょ」
「うそじゃないよ。僕の職業わすれた?」
ホムンクルス、それは錬金術師が実験室の試験管内に作り出されたとされる人工の小人をさしていた。
現実世界ではルネサンス時代の錬金術師の著書にあらわれる存在で、実際には医学的根拠もなにもない架空の存在だが、この魔法がある世界においてはそれは事情が異なる。
ゲーム的要素をふんだんに取り込んでいるこの世界の錬金術師には、それを作り出すスキルが存在するのだ。
マルティは、そのスキルをMAXで所持しており、実験的に何体も作り出している。
イオタの名前が示す通り、彼女?はマルティの作り出した9体目のホムンクルスで、その能力はマルチに展開している。
人間の言葉を理解し応対できる能力、教えられたことを学習し使える能力、わずかだが魔法を使える能力だ。
身体能力も人間とくらべて高く、さらにリミッターの概念がないため、普通の冒険者何かと比べて圧倒的に強い。
「ミヤビ、イオタ用の服タイプBをだして」
ホクトの要望に応え、イオタの洋服を取り出す。
それはアカーシャたちが来ている色に似た、メイド服であった。
「一応掃除の仕方、一般的な料理の仕方は教え込んでいる。短剣の使い方と体術もミヤビ仕込みである程度は使える。受け答えも可能なうえ、見聞きしたことは絶対に忘れない。そしてそれを口外するしないを命令しておけば、間違いなく履行する」
にわかには信じられない能力である。
人工生物でさえ不可思議な存在なのに、そのような能力まであるとは、あきらかに特別な存在である。
それにミヤビ仕込みの体術とは、ある程度で済むとはおもえない。
マルティは細かくは説明しなかったが、イオタ専用のメイド服は5種類程度存在する。
そのどれもが、ミスリルとドラゴンの鱗をふんだんに盛り込んだ上、付与魔術を多重にかけてある、特注品ばかりであった。
タイプBをえらんだのは、その色がこの家のメイド服の色に使いという、ただそれだけであった。
イオタを含むマルティのホムンクルス群には、製作したときから武術を含む補助要員として必要な要素を、すべて叩き込んでいる。
じつは北斗の好きな小説に、戦闘メイドグループがあって、自分でも同じようなことをしたいと思ったからだった。
ただ、作ったはいいが、ガチャで得られるサブ・キャラ群が、ホムンクルスの能力をはるかに凌駕しているため、いまのところ使う必要がないというのが現状だった。
「彼女たちを筆頭に、この家の人員不足をおぎなうといい」
「彼女、達?」
イオタだけでも家人含めて驚いているのに、マルティの言葉にはまだまだつづきがあるようだった。




