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サイドB-34 使用人たち驚く

「年間金貨30枚ってもらいすぎです」


マロンメイド長は積まれた金貨の山に、悲鳴に近い声を上げた。

前触れもなくいきなり出された大金を前に、使用人一同は固まった。


「そうなのですか?」


素朴に聞くツバキに、アカーシャが答える。


「普通私たちのお給金は、差はありますがだいたい月に金貨1枚と銀貨20枚程度です。若干安いように感じるかもしれませんが、住み込みで食事もつき、作業着も支給されているので、実質は働き口としては高優遇です。それが今いただいた金額ですと、月あたり金貨2枚に銀貨50枚になります。単純に考えて倍です」


マルティはここでアカーシャを以外というまなざしで見た。

識字率はもとより、算数はこの世界はもっと壊滅的だ。

一般のメイドがあっさりと暗算で割り算をしたのは、少し以外だった。


「そうですよ、私にはよくわかりませんが、以前の旦那様からはそこまでいただいてませんでした。それに食費にしたってそこまでお金はかけておりません。今までの農家や騎士団のつてで、食材はほとんどかかっておりませんから」


マロンが食材については管理しているらしく、ぶっちゃけた。

どうも話を聞くと、孤児施設などに寄付金をたくさん納めていた関係から、そこを巣立った子供たちで農業に従事している者たちから感謝の気持ちなのか、定期的に野菜が送られてきているらしい。


さらにはアルテミス騎士団などからも、カエデたちの祖父や父の過去の部下たちが故人に恩があるとかで、定期的に軍団で狩った魔獣の肉などを届けてくれるのだそうだ。


「なのでいただいた金額ですと2年分どころか、4年分に相当します。なのでもらいすぎなのです」


アカーシャは簡潔にまとめた。

カエデは頭を?いて、


「うーん、父やおじいさまがあなたたちにいくら払っていたかは知らなかったけど、いま払えるのよ私たち。だから今後はともかく、今回はうけとってくれないかな?」


ツバキも姉の言葉をつなぐ。


「1年前、財産が家以外ほとんど無いとわかって、全員お暇を出そうとしたときに、あなたたちは無償でもよいといって残ってくれた。私たちにはそれがとてもうれしかったのです。だからそのお礼も込めて、今回はうけとっていただけませんか?」

「お金は、いくらあっても邪魔にはならないだろう?今後私たちもどうなるかわからないし、払える時に払っておきたいし。たくわえと思ってもらってくんない?」


それでもとためらう二人に対して、庭師は声をかけた。


「お嬢様方が、こう言ってくれてるんだ。ありがたくうけとっておこうじゃないか。それによ、これ以上お客様の前で大金出しておくのもどうかと思うぞ」


すっかり蚊帳の外だったマルティとミヤビをゲオルクが気を使った。

普通は防犯上よくないことだが、姉妹はその言葉だけは心の中で否定する。


(いやいや、このお金はもともとマルティたちのもんだし、そもそも彼らにしたらこんな金額ははした金だし.....)


マロンメイド長は最後まで拒否してたが、最後はしぶしぶうけとったのだった。


「でも、1年後からはちゃんと普通のお給金に戻してくださいね!」


上がった給金を下げる願いなど、現代社会では絶対にありえない要求は、マロンの最後の抵抗だった。


★★★


お給金のひと悶着のあと、マルティたちはぜひ夕食を、ぜひ宿泊をという強いお誘いを辞して、サーフライト家をでた。

ちょっと町の外でやることがあるとして、3日後にはまた訪問する旨を姉妹には伝えてからのひきあげだ。


「本当の仲間になったんでしょ、私たち。なにか隠している?絶対にこれで最後じゃない?」


カエデが心配そうに小声でマルティにとう。


「ほんとうだって、必ず来るよ。やりたいことがあるのは本当だし。それより久しぶりの実家だろ。少しは家人とだけでのんびりしろよ」


姉妹は本当にマルティたちがきてくれるのか、心配だった。

たがマルティには、すぐやりたいことがあるのは事実だった。


まずは馬車をストレージにいれて置きたいのだった。

それでなくてもクラウドとミヤビはめだつ。

なのに加えて馬車も他では見ない大型車となれば、目立ちすぎることこの上ない。

今回はたまたま外部のものがいたので、やむなくイオシス中心部まで乗ってきてしまったが、ここでストレージしかに格納すると、ストレージの存在を知らない人間たちに、いきなり消える馬車はとごにおいてきたかとの騒ぎになるかもしれない。

なので馬車で一回町を出たという事実を作って、魔の森あたりでストレージに格納する必要がある。

それにいつか姉妹には話すが、今の時点では知られていないミヤビの移動能力を使って、ファーラーンの北にあるホクトの家にも一回帰宅したかった。


「辻褄を合わせるために、しようがないんだよ」

「じゃあ、3日後に来た時にはうちに滞在しなさいよ、部屋を用意させておくから」

「なんでそこまで」

「いまうちにはコックがいないのよ。わかる?料理を作ってくれるのはマロンかアカーシャなのよ」


コックに暇をだしたのはよかったが、残った二人の料理の腕はそこまでではないらしい。

食えないというレベルではないが、姉妹の口ぶりだとあんましおいしいものではないらしい。


「えーと、仲間をコック扱いするんですか」

「それが仲間になる利点といったのは、あなたのはずよ」


確かにそうだということで、納得したマルティはこっそり作り置きしてある新鮮野菜たっぷりのオークハンバーガーを10個と、わかめご飯で握ったおにぎりと鮭もどきおにぎりをそれぞれ10個ずつ、デザートとして紅茶のシフォンケーキを3本ストレージからだし、姉妹に渡した。

ツバキのストレージなら、時間遅延の効果もついているので、3日間格納しててもわずか40分しか経過しない。


「ただ、出し入れでなるべくばれないように。ストレージは家人でもばれると面倒なことになるんで。どうしても言いたい場合は、口外禁止の秘密にしてもらって、容量も小さめに伝えてね」


先ほどもツバキが金貨の袋を出す際は、ひやっとしたとマルティは付け加えた。

なんせいまツバキのストレージは、「ユニット(竹)」が100に「重量(松)」が100kgとなっている。

単位時間当たりの魔力消費量は4MPで、最大魔力量1000、単位時間当たりの回復量が90を越えているツバキには余裕の値であった。


三つの城門を越えて、森に入ったマルティたちは、あたりに人がいないのを確認してミヤビのストレージに馬車を格納する。

そうしてミヤビの転移スキルを使って、ファーラーン城塞都市から一日程度にあるホクトの小屋、この世界のスタート地点まで帰ってきた。


最初は小山の中腹にたてられたちっぽけな小屋だけだったが、いまでは裏山の内部をくりぬいて通路や部屋を増やし、さらには小屋の目の前には深い堀で囲まれた、サッカーコート四つ分の農場が広がっている。

当初は麦畑等があったのだが、いまは梨やリンゴ、桃にカキなどの木に生える果物が中心となっている。

トマトや白菜、キャベツに人参、玉ねぎなども植えてはいるが、縮小して食べる分を食べるときに収穫できるようにしてある。

米や麦、ジャガイモやトウモロコシなどの穀物系は他で調達して、ミヤビの時間停止ストレージにしこたま入っていた。


自宅に帰るとマルティはホクトへと変わり、マスターにのみ可能なスキルでカスミもサブキャラストレージから出す。

ホクトは今回のダンジョン紀行で得たドロップ品で、肉系にかかわるものを自身の重畳しているキャラたちのストレージに均等にわけた。

『多重キャラ割り当て』に登録しているキャラたちのストレージ操作やスキル獲得は、ホクトキャラになっている場合に自由に移動や出し入れができたり、スキルポイントを使って新スキルを割り当てることができた。

ゲームでよくあるパーティのステータス画面が重畳している人数分あらわれているのだ。


なので、売るもの以外の食物系で得たものはなるべく均等に分配して、どのキャラに化けた場合でも食事を作るのに困らないようにしている。

ただ、どのキャラもそれなりに、というかかなり多めに食材をすでに持たせているので、いまさらという気もしないが、この分割作業は一応ホクトのルーチンとなっていた。


それと同時に、ミヤビのストレージに入っているドロップ品も整理する。

食材系はホクトの方にすべて移動させ、その他の武器を作れる素材系で貴重そうなものも同じくホクトに移す。

売ると決めた素材はすべてミヤビのストレージに残しておくのは、一応ギルドにはミヤビがストレージ持ちと公言しているからなのだが、それでも買い取りが追い付いていない素材が、まだ彼女の中にはたくさんあった。


そうこうするうちにお昼の時間になったので、ホクトは作り置きしていたチャーハンとトマト入りポテトサラダ、中華スープを取り出して、三人で昼食をとることにした


「ところでさ、カエデたちの家で庭師のえーと名前が..ゲオルクさんだ、が現れたときに警戒したのは何で?」


姉妹の前では聞けなかったが、ミヤビの態度があまりにあからさまだったので、ホクトは尋ねた。


「あの庭師、やばいにおいがしたにゃ。普通の庭師じゃないにゃ。予想だけど人も殺したことがあるにゃ。そういうにおいというか雰囲気を感じたにゃ」


ミヤビは気配察知のスキルがMAXなため、同じ能力でもLv10のホクトとは感覚が異なる。

あれだけ臨戦態勢に何かを感じて自然となったのだろうが、それにしてもミヤビがそこまで言い切るのは珍しい。


「それってレベルが高いってこと?」

「いんや、たぶんレベルはずっとうちらよりは下にゃ。けど見かけと違う、目の前の様子と本性が違いすぎて、一応警戒したにゃ」


ミヤビはゲオルクの様子を思い出しながら、いった。


「それってさ、ファンタジーテンプレじゃないけど、庭師とは狩の姿で実は伯爵の手持ちの忍び集団とかじゃないのかな?」


カスミが横からチャチャをいれた。

ただ、それが正鵠をいているとは本人も思っていない。

香澄の言葉をうけ、ホクトはうーんと手を組んでうなった。


「実は気になったことがあってね。メイドのアカーシャさん、あれたぶんしっかりした教育を受けてる人間だと思う。割り算が暗算でしかも非常に早かったんだ。ひょっとしたらそれも関係あるかも」


なにかありそうな気配があるので、今度はもっと慎重に観察してみようとホクトは思った。


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