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サイドB-33 サーフライト家の使用人たち

アカーシャは、メイド長のマロンのいいつけで、メインエントランスの掃除をしていた。

言いつけといっても、二人しかいないメイドのの間ではほとんど仕事区分の話し合いの結果なので、命令には程遠かった。


この屋敷の前主人、ウィステリア・サーフライトが亡くなってなくなってはや1年がたとうとしている。

その際に15人ほどいた使用人も、お給金が払えないという単純明快な理由で暇を出されていた。


その中でアカーシャとその父である執事のベルルート、メイド長のマロンに庭師のゲオルクだけは残った。

メイド長のマロンは前の前の主人から使えている古参で、恩義に報いるのとすでに子供たちが自立しているので、自身の余生を使いたいという理由で。

そのほかの三人は、もっと現実的な理由、この屋敷を離れられないという理由で残っていた。


今現在の主人は、亡くなったウィステリアの娘たちで、いまは不在だ。

無給で働く使用人たちの給金だけでもと、けなげに冒険者に身をやつし出稼ぎに行っている。


命の危険をともなう仕事を選ばなくてもと、父であるベルルートが伝手で武官の仕事を探してきたにもかかわらず、それらをけって飛び出していったのだ。


そこは血というか、代々武家の家に生まれた性というか、体を張ることに特化しているというか。

妹はともかく姉のカエデは無骨な性格を宿しており、まさにサーフライト家を具現していた。

少なくともカエデが男子であったら、アルテミス騎士団への士官も可能だったのに、とまわりは嘆いたが、こればかりはどうしようもなかった。


ひととおり午前の仕事を終えたアカーシャは、ふいに鳴った鈴の音に、怪訝に思いながらも正面玄関前のロータリー前に向かった。

この邸宅の正門は普段閉じていて、許可を得た人間だけが持つ魔法石に反応して魔道具の仕掛けにより自動的に開くようになっている。

その仕掛けが動いた際に館内の使用人にも知らせる仕掛けが先ほどの鈴の音であり、アカーシャはそれで何者かが正門通ったことを知って迎えに出たというわけだ。


正門を動かす魔法石をもつものは、昔に比べ今は少ない。

持っているものといえば執事である父か、もしくは冒険者となって出稼ぎに出ているこの屋敷の主人、カエデ嬢とツバキ嬢だけであった。


父が正門を使うことはめったにないため、その合図は二人が帰宅したことを示唆していたが、2年は帰らないと言って出た二人だったので、早い帰宅は悪い想定しか浮かばなかった。


二人が徒歩で帰宅することを想定していたアカーシャは、正面扉を開けて出た瞬間に目の前に止まった大型の馬車に驚いた。

大型の馬車を引いているのが馬ではなく大型の獣型ゴーレムであるのを目撃してさらに困惑したが、御者席に座る者たちを認識したとたん、文字通り固まった。


「アカーシャ、ただいま」


馬車側面の扉をあけて二人が飛び出してきて、正面扉前の階段を上ってきたあとも、アカーシャの目は御者台から今まさに下り立とうとしている人物たちに、釘告げだった。


「アカーシャ?私だよ、カエデ。わかる?」


様子のおかしいメイドに、カエデが問いかける。

アカーシャはやっと意識が戻ったように、声をしぼりだした。


「あっ、お、おかえりなさいませお嬢様。予定よりもお早いご帰宅で、ご無事で何よりです」


アカーシャは怪訝そうに自分を見る二人に、やっと意識をまわせた。


「うん、心配かけたね。皆は元気?」

「はい。おかげさまで、みな元気です。...とそちらの方々は?」


と、姉妹の背後で静かにまつ二人に視線を向ける。


「ああ、そうだね。紹介するね。金髪の青年がマルティ、もう一人の猫人さんがミヤビ。二人ともおなじく冒険者よ。わたしたち、いま彼らとパーティをくんでるの」


その言葉に、またしても凍り付くアカーシャだった。


「ぱ、パーティですか...」

「まあっ、カエデお嬢さま、ツバキお嬢さま、おかえりなさいませ。なんとご立派になられて」


アカーシャの背後から、甲高い声が響いた。

メイド長のマロンである。

遅ればせながらお迎えに出て、二人を確認して興奮している。


「ほんとにまあ、ご無事でよかったです。おっしゃっていたのよりだいぶん早いご帰宅でしたので、びっくりです」

「マロンも相変わらず元気そうね。ああ、そうね。ちょっといろいろあってね。お給金の目途が立ったので、予定よりは早く帰ってこれたの」


カエデはややマロンが苦手なのか、少し引いて話した。


「まあ、そうでしたの。お給金のことなど気になさらずともよかったのに。ご無事で帰られたことがマロン一番の報酬ですよ」

「ああ、それはよかった....」


そこで話を根掘り葉掘り聞き出したマロンに、アカーシャが制止をいれた。


「マロンさん、お話は後ほどで。まずはお客様もいらっしゃるようなので、ここでは何ですから中に入っていただいた方がよろしいかと」

「ああ、確かにそうですわね。失礼いたしました」


と、なにも警戒心なく姉妹とマルティたちを導きいれた。

アカーシャとしては内心家の中に二人を入れてよいかどうかの葛藤があったのだが、引き留めておくには応接間程度には通さなければいけないとの判断が勝った。


(こんな時に限って、父が留守とは...)


アカーシャの父、ベルルートは表向きは金策と称して、少し旅に出ていた。

実際は、裏の仕事である集団の調査をするためであった。


(調査対象の一部である彼らが、お嬢様方とパーティ?何の冗談なの?)


★★★


玄関先のやり取りのあと、4人は応接室へ移動して、供された紅茶を飲んでいた。

アカーシャの思惑とは反対に、マルティたちは招待を断って帰ろとしていたのを、マロンが強引に誘いこんだ形となった。

こういうとき押しが強いのは年の功というか、今回は感謝しかないとアカーシャは内で考えた。


「それにしても1年しかたたないのに、お二人ともご立派になられて、幼少からお世話させていただいてるマロンとしては誇りです」


アカーシャからみて、二人は若干たくましくはなったように感じるが、マロンが言うほどの変化は感じていなかった。

むしろ先ほどは見逃していたのだが、二人の持つ装備はこの家を出るときに持って出たものとは比べ物にならないほど、高級なものだった。

マロンは見てくれだけでそういっているのかと、アカーシャは想像した。


「ベルルートさんは?お姿が見えませんが、お出かけ中ですか?」


妹のツバキが尋ねる。


「父ですが、そのちょっと遠出しておりまして。10日ぐらいで戻る予定です。お嬢様方がお戻りになられると知っていたら延期もしたのでしょうが」

「それはしょうがないよ。何の先ぶれもしてなかったんだから。で、なんで遠出してるの?ベルルートさんが家を離れるなんて珍しくない?」


カエデは屈託なく聞く。

それにはマロンもアカーシャも言葉が続かない。

金策に出たという建前なので、それを雇い主にいうわけにもいかない。


「じつは父の身内が父に助けを求めて来まして...その私のおばなのですが、それでお二人の許可なく家を空けております。申し訳ございません」


アカーシャは苦し紛れの嘘をつく。

短期の休みをとるのに親戚ネタが有効なのは、どこの世界でも共通だ。


「そんなの、主人不在なんだからしょうがないよ。おばさまは病気か何か?」


ツバキが気を使って言ってくれるが、深堀されても困るアカーシャであった。

と、熱い熱いとちょびちょび出された紅茶を飲んでいた猫人のミヤビが、すっと立ち上がる。

アカーシャとマロンの後ろを少し身構えながら見据える。

何事かと思うと同時に、アカーシャの背後から低い声がした。


「カエデ様、ツバキ様、お久しぶりです」


そこには齢60ぐらいの小柄で華奢な白髪老人が立っていた。


「あ、ゲオルクさん。ただいま。変わりない?」


カエデが気さくに声をかける。


「おかげさまで息災です。お嬢様方もお変わりなく、ご元気そうで何よりです」

「ありがとう、ふたりとも五体満足で元気よ。マルティ、こちらはゲオルクさん。おじいさまの代から務めてもらっている方で、庭のお手入れとか建物の維持とか全般をしてもらっている方よ。ゲオルクさん、この二人は私たちの今のパーティメンバーで、マルティとミヤビ。二人ともDランク冒険者よ」


紹介をうけてマルティもたち、軽く会釈をする。

ミヤビも身構えは解いたが、それでも警戒の目は隠さず、同じく会釈した。

そんなミヤビをやれやれと


「ゲオルクさん、すみませんね。うちのミヤビは臆病なもんで。知らない高齢の方にあうと、いつもこうなんです。気にしないでください。こら、ミヤビもそんな顔しない」


と、何か反論しかけたミヤビの口をふさぐマルティであった。


「そうよミヤビ、ゲオルクさん、見かけはちょっと怖いけど、いい人だから大丈夫だよ」


カエデのフォローになっていないフォローに、一同苦笑し言われた本人も、そんなカエデを温かく見守った。


「そうだ、三人集まってるんででちょうどいいわ、ねっ、ツバキ」

「あっそうだね。どのくらい?」


ふたりでひそひそ話して、カバンから出すふりをしてストレージから金貨3袋300枚を取り出した。

そこから、60枚を5山にわけた。


「60枚はそれぞれあなたたちへの2年分お給金。昨年の分とこれから一年分の前払いね。あとの60枚はこの一年にかかったあなたたちの食費や修理費なんかの建て替え分と余りは今後の予備金。ベルルートさんの分と管理費の分は、アカーシャがとりあえず持っていて、帰宅されたら渡しておいてね」


いきなりの大金に、唖然とする三人であった。


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