サイドA-40 SURハイ・エルフ「カスミ」
香澄は眠りに入ると、夢とは異なる現実感のなかに強制的に引きもどされた。
目の前には現実としか思えない、暗くうっそうとした森が広がっていた。
目線はいつもよりやや高く、背が高いと思われるのだが、体感としては身体はいつもより軽く感じられた。
自身は見えないのだが、体を確認すると寝巻用のスウェットとは明らかに違う貫頭衣と、麻ににた生地のズボンといういで立ちで、左腰には剣の柄が見えた。
流腕も細く長く、女性から見てもほれぼれするほどのシミひとつない透明感のあるそれで、爪も装飾はないがつやつやで形もきれいだ。
「カスミ姉?」
背後から若い男の声で、おそるおそる問いかける声がした。
振り返ると17~18のほっそりした高身長の若い男性が佇んでいた。
その横には、カスミより小柄な猫の顔をした獣人がいる。
その組み合わせで香澄はすぐピンと来る。
「それがあんたのアバターね、北斗。そして隣のが雅ちゃんかしら」
「よかった、憑依はうまくいったみたいだね」
おそらく北斗であるその青年は、ほっと胸をなでおろした。
「体はどう?どんな感じ?あと記憶はちゃんとつながっている?」
心配そうに聞く青年=ホクトであった。
初めての人間の憑依だから、心配になるのはしかたないといえばしかたない。
「うん、良好よ。というか現実よりも身長も高いし、その割に体も軽いし、ちょっと悔しいけど。おまけに視力も現実よりよくて世界がきれいに見えるわ。記憶はそうね、全然問題ないわ。けど不思議なのが感覚的なんだけど、こちらの記憶が正解で現実世界の記憶の方が夢みたい。こんな感じでよいのかしら?」
そのことばにニコリと頭で相槌をうつ北斗であった。
「うん、それは僕もそう感じてるからだ丈夫。こちらにいるとなんとなくこっちのほうがメインみたいに感じちゃうんだよね」
「そう、だったらいいか。それよりここはどこ?北斗達の拠点?」
わざと達とつけたのは、北斗から『多重自我』のことも聞いていたからである。
聞いた限りでは北斗はいま3体のアバターに並行して憑依しているはずである。
「いや、ここはホクトの家付近じゃないよ。というか地上でもない。ダンジョンの中なんだ」
「ダンジョン?」
「そう、ファーラーンダンジョンの第19層。あっ、まずは簡単な周囲説明からね」
地面に地図を書き出そうとするホクトを香澄は制止する。
「それはあとでいいから、まずはアバターの性能を見させて。ステータス・オープン」
Lv.12000 Age.152 名前:カスミ
種族:ハイエルフ
HP 2,340,000(420,000)
MP 52,479,000(11,996,000)
ATK 733,000
DEF 460,000
INT 1,570,000
AGL 922,055
MGR 999,800
LUCK 777,000
固有スキル 『魔力貯蔵庫』LvMAX、『万能環境適応』LvMAX、『魔力隗操作』LvMAX、『神聖魔道剣術』皆伝
スキル 『ヒール』Lv10、『ハイヒール』Lv10、『エクストリームヒール』Lv10、『エリアヒール』Lv10、『エリアハイヒール』Lv10、『キュア』Lv10、『ハイキュア』Lv10、『剣術』Lv10、『剣術』Lv10、『剣術(双剣)』Lv10、『槍術』Lv10、『弓術(重)』Lv10、『神眼(極)』LvMAX、『神速』Lv10、『隠形(極)』LvMAX、『気配察知(極)』LvMAX、『ストレージユニット(松)』x700、『ストレージ重量(松)』x12トン、『風魔法系』LvMAX、『水魔法系』LvMAX
「改めてだけどすごい数値だね。チートですまされない値とスキルだよ。魔王かな?」
当人はともかく、心眼でのぞき見をしたホクトも感嘆の声をあげる。
「なによ。あんたの持っていたキャラでしょ。ステータスチェックしてなかったの?」
カスミはホクトの言葉を意外に感じた。
所持しているSURはたしか4体と聞いていたので、自分なら真っ先にチェックしそうだ。
「一回はしたよ。でも持っているサブキャラは結構いるし、細かいとこまでは全部は覚えていないよ。そんなもんでしょ?ゲームでも」
まあたしかに現実世界でのゲームでも、自身のキャラ数値は細かく見ていても、サブキャラのステータスを完全に覚えているのは数人であろう。あとはなんとなく特性を覚えている感じだなと、カスミも思う。
「それにスキルも固有スキルくらいはみるけど、個々のキャラにも固有スキルがあって、それもいろいなんで、チェックはしているけどやっぱり覚えていられない。ただ言えるのはカスミ姉のキャラの持っている固有スキルは、いまのところホクトをふくめ他のキャラたちのスキルチェインには、確認した範囲では現れていない。本当に特スキルなんだ」
スキルチェインの話は事前に聞いていなかったが、現実世界のゲームでもよくあるシステムなので、カスミはホクトのいう内容を即座に嚥下した。
「スキルチェインシステムがあるのね。でもどうだろう、このキャラだとLvMAXの項目が多くて、伸ばせるのも下位スキルばかりじゃない?」
贅沢ではあるが、自身のスキル一覧をみてカスミは素朴に聞いた。
「魔法とかでいえばそうかもね。剣技もなんだか大げさな流派が皆伝になっているし。まあでも楽しみ方はいろいろあると思うよ」
「ふーん、例えば?」
「カスミ姉のスキルチェインに現れているかわからないけど、僕のスキルチェインを例にすると、全く初期スキルとは系統が異なるスキルが存在する。例えば料理人とか、木工技師とか、何かを作る系のスキル。その上位には錬金術があったり大げさなものだと地形操作なんてものもある。そういうのを一つずつ段階を上げながら習得していくのは面白いと思うよ」
ほうほう、とカスミはうなづくが、ホクトの言葉はまだ続く。
「それにたとえスキルチェインで新たに何か習得しなくても、そもそも持っているスキルを今の段階ではカスミ姉は使いこなせないと思う。ステータスが高いので半端な使い方でも全く敵なしとは思うけど、使い方を習熟すれば頭で色々組み立てなくても自然かつ効率的に流用ができるようになる。それだけでも十分楽しいと思うよ」
「ステータスもスキルもあるのに、今の私では使いこなせないということ?」
ちょっとホクトの言葉を疑うカスミである。
現実感のあるがあくまでゲーム感覚のため、ステータスとスキルは絶対と思っているカスミであった。
「そう。そう言える根拠が二つあってね。ひとつは自分の経験から。スキルとステータスがあっても、それは使わないと無意識には繰り出したり構成したりができなかった。例えるとそうだな、多機能の動画編集アプリを購入したとする。デモ等でそのアプリのできること、エフェクトやフェードインとか字幕とかがわかってても、それらをすぐすべて使いこなせるわけじゃないよね。場面場面で効率的な編集と要素を試行錯誤しつつ少しずつ機能を使いこなせるようになるよね。それとおんなじ感じだ」
ホクトの言っていることは単純でわかりやすかった。
ようは実戦での経験がないので、能力がいくらすごくても、使いこなすのには時間がかかるといっているのだ。
「なるほどね。で、もう一つは?」
「それは、口で説明するより体験した方がはやいかな。そのためにここダンジョンでカスミ姉を出したんだし」
カスミはその言い回しが気になった。
「出した、てなによ」
「あれ、説明したつもりだったんだけど。このダンジョンまで来て、僕のサブキャラ専用ストレージから出したということ」
そういえば、そんな説明もあったような気がする。
たぶん自分も同じような体験ができることに思考がはしっていて、聞いたが記憶に引っかからなかったのだろう。
「でもなんでダンジョン?あんたらは最初からダンジョンにいたの?」
「いんやこの村、ファーランから北にあるホクトの自宅にいたよ。『多重自我』で憑依しているキャラは、一部を除いて集まってログアウトするようにしているから」
「じゃあ、なんで最初から出してくれなかっ......」
カスミは森の右奥より強烈な気配を感じて、言葉を止める。
その気配は森の奥から一気に距離がちぢまり、瞬く間に豪音をともなって形となった。
カスミの目の前に、ミニバスサイズの剛毛でおおわれた質量とスピードを持った何かが、視界いっぱいに広がった。
それがカスミを押しつぶそうとする刹那、カスミの体は後方に引っ張られて、間一髪その大きな何かとの接触はさけられた。
みるとホクトがカスミを後ろからひきよせて、回避させてくれていた。
巨大な何かはホクトたちの横を高速で横切ったかとおもうと、少し先で木にぶつかって轟音とともにとまった。
カスミの目だからとらえられたが、後ろにいたミヤビが小刀一閃、その巨体を突進してきたスピードを利用して横一文字に切り裂いていた。その巨体は改めてみると、イノシシのようであった。
「イビルボアだよ。でっかいイノシシの魔物」
ホクトが聞こえるようにいった。
「どう?ビビって動けなかったでしょ?これがもう一つの理由だよ。現代人は大型のイノシシの突進なんてあったことないから、とっさの反応ができないんだ」




