サイドC-2 フィオナ王国会議2
「さらにはこれです」
驚き冷めやら一同に、さらに追い打ちをかけるように、スイレンがすすめる。
「これだけではないというのか?」
飽きれるように言うトーラに目配せして、スイレンの指示のもと、小さな麻袋がひとつと三角形をした白い粒の塊が、10個ほどのった皿が卓上に文官たちによって乗せた。
ハクジン公が差し出された朝袋の中身を確認すると、中には半透明な麦にた穀物の粒が、ぎっしり詰まっていた。
「見てくれは麦に似ていますが、米という穀物です。脱穀等の手間はありますが、調理は水につけて15分程度焚いて、同じ時間ぐらい蒸らすことで食することができます。こちらはその米を焚いて、三角に握って塩を表面に塗ったものです。お結びというらしいです。皆様おひとつどうぞ」
「塩だけか?ずいぶんと貧相な料理だな。どれ」
ガガは、『お結び』を手に取り、じろじろ見て一口たべる。
とたんに、顔をほころばせ
「こ、これは。うめーじゃねえか」
ほいほい口に運んで、一気に食べてしまった。
「この米とやらのパンとは異なる穀物の持つ甘さと塩がマッチして、かむごとにうまさが増す。手づかみなど野卑だがそのぶん手軽にたべれて、しかもパンよりも満腹感がある気がする。腹持ちがよさそうだ」
ガガが二つ目がないのかと、周囲を見つつ称賛した。
「はい、調理の手軽さと食しやすさ、それにこの穀物の持つ甘さが人気となっています。出来たてはもちろん、今皆様に供したように数時間経っても、その美味しさはかわりません。お結びを専門に売る者も出てきております。こちらも最近ノースランド連邦から輸入され始めたもので、価格も国内の小麦の価格とほぼ同じです。ブームといいますか、お米の売り上げ増につられて相対的に小麦の販売が国内でも下がっており、自然小麦の価格が下がり始めています」
つまりは、国内の重要産業として推進している小麦や魔道具生産が、輸出だけではなく国内需要も脅かされつつあるということだった。
ここまでの情報だけでも十分な気がするのだが、スイレンは続ける。
「さらにこちらは未確認情報なのですが、ノースランド連邦の新ダンジョンがいつくか新しく発見され、しかも実入りがよいとの評判が立っています。そのダンジョンのうわさを聞きつけ、こちらの国内を拠点とした冒険者が、かの国に移動し始めています。しかもその中には、長年我が国で活動していたAランクパーティも数組あるということです」
「なんと」
その報告ではローランド王国には、ふたつダンジョンが確認され、冒険者ギルド管轄のもと運営されている。
ダンジョンは、それ自体が宝の山といえるのだが、それを攻略して掘り出すには、ある程度技量をもった冒険者の存在が必要となる。
言い換えれば、冒険者が攻略しないダンジョンは、魔物を生み出すだけのむしろ害悪なものでしかなく、疎まれる存在となる。
王国としては、有能な冒険者の確保は、そのまま国益につながるので、流出を防ぐための優遇措置もとっているのだった。
その上位冒険者たちが移動していると聞いて、穏やかではいられない。
「どうしたノースランドは? 農作資源が乏しい国で俺らとしては小麦を売れば売るだけ利益が十分に出る、カモみたいな国だったはずだが...。魔道具の技術にしても特に秀でることもなく、こんな技術も生産体制もなかったはずだ。なにか体制が大きく変わっちまったようだな。連邦主席グループでも一新したのか?」
「いえ、そのような情報は入ってきておりません。ただここ数年をかけて、徐々に国内における食物自給率が上がってきており、輸出するまでになってきております。魔道具もこのコンロだけでなく、同じような高魔石効率を持つ電球や保冷器等、生活魔道具の輸出も盛んになってきてます。冒険者の移住については、いくつか新しいダンジョンが整備され、しかも稼ぎやすいとの情報もあり、そこらへんが影響しているものと思われます」
「つまりはだ、我が国は国益の10パーセントを担う大口顧客を失いつつあるばかりでなく、国内で作った魔道具が海外だけでなく国内でも売れなくなっているということだ。おまけに国内消費による内需の一端を担っている冒険者たちが次々と外国に流失してしまっている」
それまで黙っていた国王自らが、現状を重く語った。
いままでノースランド連邦は、地理的には侵略するのに硬く、貿易をするにはたやすい国であった。
近年の経済的優位性に胡坐をかいていたところ、知らぬ間に覆ったというのが、王の正直な感想であった。
「商人ギルドや農耕ギルドからは、これらの状況をふまえ、関税を高くしてほしいという声が上がっております。たしかにそれで輸入物量の制限や購買割合の改善がある程度は望めるとは思いますが、入ってきているものが国内では賄えない、唯一無二のものばかりですので、どこまで効果があるかは不明です。加えて関税を高くすることは、こちらからの輸出に関しても影響を与えかねない諸刃の剣で、策略もなくすすめることはできません」
スイレンが付け加えるように説明した。
輸入品に高関税をかけるということは、逆を言えばノースランド連邦にもこちらからの輸出品に高関税をかけさせる口実となるということだ。
ただでさえノースランド連邦で売れていない小麦が、さらに売れなくなる可能性も高く、王国としてはむやみに入関税を上げることはできない。
トーラがここで、疑問をなげかける。
「ちょっとまて、関税をあげることは難しいのは理解できるが、そもそも輸入をしなければよいのではないか?あちらは輸送に関しては、ぼぼこちらの商船に頼り切っているではないか。商品の輸送自体をしなければ、問題ないではないか」
トーラは、素朴な疑問を投げかけた。
彼女の着目点は、まさに正眼をついていた。
というのが、ノースランド連邦はいままで農耕や魔道具の生産技術だけでなく、船舶についても自国でほとんど保有していない。
造船技術がないのはもちろん、他国から買い取る財力もないためだ。
なので基本、ローランド王国から小麦などの輸出品をはこび、帰りに空いた船の倉庫にノースランド連邦の数少ない輸出品、たとえば魔獣の毛皮加工品やら肉の加工品を、安い運賃をとって運ぶということを繰り返してきた。
そこにいくとローランド王国は、商船を多く持っていた。
船の種類も比較的大型の帆船を数多く保有していた。
一部の船は大商店の保有であるものの、その他はほとんどが国有財産であった。
小麦の生産同様、貿易を重視した国策として、長年にわたり建造を続けてきた結果だ。
なので、トーラのいう通り、輸入品が増えているのであれば、それをもってこなければよいだけの話である。
その分空いた船室を賄える運賃も取れなくなるが、もともとノースランド連邦からの輸入品は少なかったことや、その輸入品自体が脅威となっている今の現状からすれば、捨ててもよい儲けであった。
「その事なのですが...」
と、スイレンは父である侯爵とアマデウス王のほうに眼をやる。
その目線をうけとるように、アマデウス王は「うむ」と顎をしゃくった。
「ここまでの話は、いわばこの会議の前哨戦。ここからが貴公らをらを徴集し、かつ北の守護者であるサミルが出席していない、本当の議題だ。スイレンよ、あれを」
王の指示のもと、卓上にスイレンがさらに大きな4つ折りにされた用紙を広げた。
要旨は、卓上の半分をしめた。
広げられた用紙には、何かの物体の三面図が描かれていた。
横と正面と上部からの柄であった。
ガガには何かの建物の図のに見えた。
ただ建物にしては、上部のほうが面積が広く、下部が上部よりも小さい台形に近い形をしている。
全体的に角は丸みを帯びていて、箱のようなイメージの割には流線型のようにもみえる。
「なんだこれは。あたらしい様式の建造物か?」
「いえ、これは船です。ノースランド連邦が所有する新型船の図面です」
一同に衝撃が走った。




