サイドB-31 サーマルス・ロードの人
マルティが操舵する馬車、ゴーレムのクラウドが牽引している馬車なのでクラウド号とでもいおうか、はその巨体に似合わない速度で街道を突っ走っていた。
クラウドはダンジョンほどではないが、索敵用に前方に数千ほど索敵端末を展開して微妙に体躯はスリムになっているものの、それを感じさせない力強さで、巨大馬車を牽引していた。
そのスピードも馬車の全力疾走の二倍程度で、普通からしたら飛ばしすぎの感もないではないが、クラウドの本来の実力からしたら1割もつかってなく、むしろ馬車が壊れないようにの気遣いから来る牽引速度であった。
また曳かれる方の馬車もホクトがダンジョン等で収集しまくった有り余る素材をフル活用して贅沢かつ精工に、鍛冶スキルと木工スキルをもつサブキャラに作らせたとあって、堅牢さはもとより凸凹道に対するショック吸収製やある程度の柔軟性もあいまって、走行安定性はもちろん乗っている人たちへの乗り心地のよさも確保していた。
御者台をいれて22人はのれる馬車には、現在11人のヒューマンや獣人が乗っていた。
うち四人は、ホクトのパーティメンバーであるミヤビ、カエデ、ツバキである。
カスミはいない。
ダンジョンを出る際に、あっさり「おふたりともまたねー」と軽いあいさつで、ホクトの中に収納?された。
マルティパーティ以外は、ホクトの懇意にしているらしい行商人二人とその知人といっている冒険者らしい三人組、あと5歳くらいの子供をつれた女性であった。
マルティいわく二人の行商人は、ふだんからホクトが拡販したい物品を行商してもらっている商会の雇われ人らしく、今回の同行はあらかじめ予定されていたものだった。
マルティは、姉妹に「商会の当主は君たちと同じ本当の仲間の一人だよ。かれらは雇われているだけで違うけどね」と耳打ちした。
親子は、イオシス行きの馬車の運賃が折り合わず、困っていたところを誘って連れてきたということだった。
残りの冒険者たちは、18歳前後の男性と女性がひとりずつといかにもな戦士風の壮年男性の組み合わせであった。
若い方の二人は、それぞれ胸に特徴のあるシンボルの入った貫頭衣に中サイズの魔法石を3つあしらえた木の杖を持っていることから、魔法使いまたは僧侶だと思われた。
「なんとなく、顔立ちが似てるよね。姉弟かな?」
カエデが小声で隣のツバキに耳打ちする。
「うん、そうだと思う。でもそれよりちょっと見たことない装いなのが気になるかな?」
ツバキは最初に彼らを見たときから、服装だけでなく杖の魔石の配置や、戦士の鎧の作り方に違和感を覚えていた。
それほど国外の風習を知っているわけではないが、彼らのいで立ちはすくなくともこの国の軍隊や冒険者のどれともあてはまらないような気がしていた。
「マルティさん、あの人たちどこの出身の方なんでしょうか?」
小休止で馬車を止めた際、ツバキは彼らの目に入らない場所で聞いた。
「あの方たち?ああ、あの三人ね。僕も知らないけどたぶんこの国の人じゃないね。言葉も少しなまりがあるし」
「じゃないね、じゃないでしょ。なに、他人事のように言ってるのよ。素性がよくわからない人を自分の馬車に乗せるなんて、どういう了見よ。第一どうしてあの人たちを乗せることになったのよ」
のんきに答えるマルティに、カエデがつっかかった。
「一緒に連れてきた行商人たちから頼まれたんだよ。なんでもあんまり路銀がないらしくて、自分たちの持ち物を売って足しにしたいらしいんだけど、それを評価できる人にアースワンでは出会えなかったらしいんだ。そこで彼らがイオシスにいる自分たちの商会の副代表なら交渉できるかもっ、てんで一緒に乗せていきたいんだと」
「でもそれって、素性がわかっていないことには変わりないじゃん」
カエデがなお食い下がる。
「でもそれを言ったら、あの親子だって素性がわからないよ。まあ、旦那に死なれてイオシスにある自分の両親のところに行くって話を信じて乗せてるのは僕だけどさ。じつは盗賊の手先で僕たちを誘導してるかもしれないし」
ちなみにマルティは、今回の同乗者たちから移動の賃料はとっていない。
あくまで席が空いてるから、ついでという気持ちなのだ。
ついでにいうと、自分の馬車でも商人たちが護衛という依頼でギルドを通せば、少なからず依頼料は入るのだが、マルティ=ホクトはそれを絶対にしない。
ギルドからの調査依頼と旅程護衛の依頼は、冒険者ランクCになるための必須項目だ。
Dランクを保持したいホクトにしてみれば、自分から進んでそのような実績を作りたくはなかった。
「あんたねー、この馬車のどこをどうしたら盗賊が襲えるっていうのよ。さっきみたいな状況になるだけでしょ」
「ああ、あれは笑えたね」
つい1刻前のことである。
街道をふさぐように盗賊団が現れたのだが、彼らが口上を上げようとしたにもかかわらず、マルティは馬車の速度をあげてその横を高速ですり抜けし、彼らが事態を認識する前に置き去りにしてしまった。
とっさのことに反応できなかった盗賊たちは、あわてて振り返りあとを追おうとしたものの、その時点ですでに馬車は点となっていた。
「たとえ誘導されたとしても、だから大丈夫なんじゃない?」
「でも乗ってる人が襲ってきたら、そうも言ってらんないでしょ」
なお食い下がるカエデであった。
「大丈夫とおもうけど、何をそんなに心配してるの?」
ここで初めて声をひそめてカエデが言う。
「だってあの戦士のおっちゃん、ただものじゃない雰囲気がぷんぷんしてるんだもの。それも冒険者というよりは軍関係者のような。うちの爺様や父になんとなくにおいが近いのよ」
「ああ、カエデもそれがわかるレベルになったんだね」
カエデの成長を喜ぶマルティであったが、同じことを実は感じていた。
確かに並みの戦士ではないとおもっている。
ステータスを鑑定をしたわけではなかったが、魔物相手ではなく人間相手の戦場で相当修羅場をかいくぐってきた戦士であることは感じていた。
「それにあの二人、なんとなく平民ではなくて、高貴な人種のにおいがする。なんであの戦士はその護衛なんじゃないかな?」
「確かにそうかもね。意外と他国の王子と王女だったりして。心配していることは分かったけど、ならなおさら大丈夫だよ。だって盗賊じゃ絶対ないでしょ」
「でも」
「大丈夫だって。それにもし何かあっても、こっちには僕やミヤビ、君たちもいるし、彼らも何もできないと思うよ。あんましこういう言い方したくないけど、君たちも今は十分危険と認識されるレベルにいるからね。君ならあのおっさん、ひとりで対応できるから」
自分でもなんとなくそれはわかっているのか、カエデはそれ以上マルティを追及しなかった。
★★★
日が暮れ初めのとき、マルティは比較的木々の少ない、ひらけた地点で夕食にする旨を同乗者たちに伝えた。
この世界で旅をする際に食事は乗合馬車でも自分持ちが普通なのたが、マルティはダンジョン同様自分の普通を展開して夕食をみんなにふるまった。
しかもブラッディーホーンブルのロース焼き肉丼と、ワイバーンの骨から出汁をとった、クルトン入りオニオンスープという豪勢飯である。
カエデ姉妹以外は「ごはん」なる主食を経験していないので、案の定子供をもつ母親は警戒していたが、カエデたちがおいしそうにガッツいているのをみて、恐る恐る食べ始め、最後には平らげていた。
三人組については、警戒することもなく、むしろ若い男の方は興味ぶかげに一瞥したあとは、お替りをするほど食べた。
若い女性と壮年の戦士もおなじく警戒せず平らげた。
「どうでした?珍しい食べ物だと思うけど口に合いました?」
食後マルティは、三人組に声をかけた。
カエデに言われたわけではないが、一応探りをいれるつもりである。
「いやたいへんありがたい夕食でした。この国にはお米を食する文化がないと思っていたので、久しぶりにお米が食べれて我々喜んでいます。上に載っていたお肉もものすごくやわらかくておいしく、しかもあの絡めてあったタレは本当にご飯に合うので、びっくりです」
快活に若い男が答えた。
「ほう、お米を食べる習慣があなたの国ではあると?僕もこの国しか知らないですが、そんな国があるのですね。差支えなければどちら出の方か聞いてもよいですか?」
警戒されるかともおもったが、そんなことはなかった。
「サーマルス・ロード王国という島国から来ました。この国からずっと西の大海を越えたところにある、小さな島国ですよ」
「サーマルス・ロード王国ですか、知識不足ですみませんが初めて聞く名です。その国ではお米が主食なのですか?」
「ええ、お米だけではなく、今回いただいた牛丼の付けそえにあったお漬物も食します。てっきりマルティさんはうちの国の食事をまねてらっしゃると思っていたのですが、たまたまの偶然でしょうか?」
「いや、あのレシピは人づてに教えてもらったもので。そうですかあなたの国ではお米やお漬物があるんですね」
マルティは内心でびっくりしていたが、それを表面にはおくびも出さなかった。
スキルでレシピがある以上、日本の食文化に似た土地があってもおかしくはない。
だが本当にそうなのだろうか?
たとえば北斗同様にこの国にログインしている別の現実世界の人間がいて、日本食を広めてはいないのだろうか?
それが現在でなくても過去に北斗と似たような境遇のものがいて、食文化を広めたとかも考えられないか?
マルティが改めてみれば、彼らのいで立ちは和風と洋風のコラボのような風にも見て取れる。
むしろ日本人が介在していると思った方が自然ではないだろうか?
全然思ってもいなかった想定の連鎖が発生して、カエデではないが彼らの目的が知りたくなったマルティであった。




