サイドB-29 攻略はなかったことに
「で、今後のことだけど、地上にでるのはもう少しまってほしい。ミミコが最優先で転移魔法陣の配置換えをしているので、それが終わってからにしたいので」
このダンジョンでの姉妹の清算が一通りおわり、マルティは今後の話をし始める。
し始めるというのは、そのあとドロップ品でなにか欲しいものがあればと詰め寄られた。
大盤振る舞いどころか、なぜか口元をほころばせながら、ありすぎて困っているというような話をされた。
それについてはカエデは丁重にお断りした。
食材などは確かにありがたいが、自分たちでおいしく調理などできるはずもなく、マルティの食事が今後も確保された状況ではむしろ宝の持ち腐れになりそうだったから。
「転移魔法陣の配置変え?」
「うん、前のダンジョン・マスターが何個かは配置してくれているみたいだけど、もう少し僕たちだけでも行き来しやすいようにするために、追加したり配置返したり、つながりも変更したりしないといけないので。それとね地上に出てなんだけど、今回僕たちは第18層まではきたんけだど、ヤマタノオロチが強力すぎて撤退したことにするんで、話をあわせてほしい」
「撤退したって...ひょっとしてダンジョン攻略できたことは伏せるってこと?」
「そう」
「どうして?ダンジョン攻略は名誉なことじゃない?」
冒険者にしたら、誰でものどから手が出るほどの功績だ。
不思議に思うのも無理はない。
「僕も最初はそう思って、ファーラーンではバンバン報告してたんだけどね。それがトラブルの原因になっちゃうんで」
マルティ=ホクトは、ファーラーン・ダンジョンでは、ダンジョン・マスターを配置するだけではなく、自身のレベルアップのため何回もダンジョンを攻略してた。
最初はギルドおよび他の冒険者から喝采で迎え入れられたものの、そのうちホクトたちのおこぼれにあずかろうと、無理やり同行する者たちが増えてきた。
ホクトとしてはボス攻略だけでなく、ダンジョン・コアにも立ち寄るための攻略だったので、仲間以外の同行者は迷惑なため、毎回撒いていたのだが、それが逆に本当にダンジョン攻略したのかとの疑いを他の冒険者たちに疑われるようになる。
ギルドはそこら辺を疑わないのだが、他の冒険者のやっかみからくる嫌がらせやたかりなども増えて、ホクトたちにとってファーラーンは余り居心地のよい場所ではなくなった。
ようはルーキーにはそぐわない成績が目立ちすぎたのだ。
あまり目立ちすぎるのは得策ではないと教訓を得たホクトは、かたくなに冒険者ランクをあげないだけでなく、ホクトとしての行動も秘密裏に行うように、マルティなどまだ有名になっていないキャラクタなどで活動するようになった。
カスミを前面に出さずに、他の目がないところだけで活躍させているのにも、そういう理由があった。
「というわけで、今回も第18層のボス部屋までたどり着けたけど、実力的に無理そうなので引き返した、としたいわけ。ここが最下層であることも隠せるし、ダンジョン・マスターを隠蔽するのにも役立つしね」
「でもさ、そうはいってもこうしてパーティ組んでいる現在進行形のミヤビは有名なんじゃないの?あなたもルビーレッドドラゴンなんて売って、ギルドはある程度あなたの実力を知っているんだし」
カエデの言うことは、ミヤビの実力を片鱗でも知っている者なら、ごく普通の疑問だ。
「ギルドには他の地での実績を知られているんで、そこらへんは問題ない。この都市に僕たちが来たのも始めてだしね。ファーラーンギルドのギルド長にお願いして、他のギルドでもなるべくホクトやミヤビの成果を噂にしないようにはしているんで」
ホクトからしたら、これ以上悪目立ちするのは勘弁と同郷のファーラーン・ギルトー・マスターのケビンにお願いをしていた。
このギルド・マスターはもともと冒険者で、おなじく冒険者であったホクトの祖父のジーノと懇意にしていた。
その伝手でホクトは幼少よりケビンと面識があり、同業者のやっかみからくる嫌がらせの類の事情を理解してくれているため、いろいろと便宜を図ってもらっている。
仮にジーノの件がなかったにしても、ファーランの発展のきっかけを作ってくれ、かつ今も貢献し続けてくれているホクトたちには、ギルドとしていろいろ便宜をはかってくれているのも当然といえた。
「実はね、あのルビーレッドドラゴン売却の際にもね、ここのダンジョンも少し潜ってみたいと伝えたところね『第11層なんて言わずにここのダンジョンも制覇しちゃってくださいよ』なんてギルド・マスターだけでなく執政官代行にまで言われちゃったんだ。マルティはともかくミヤビの経歴もばれているし、制覇したらしたでいろいろいい影響がアースワンにももたらされるから、しょうがないけどね」
「にしたって、軽いノリよね。本当なら死んでくださいにも等しいセリフなんだけど」
カエデがあきれたように返した。
「マルティさん、口裏合わせるのはよいとして、本当に隠せますか?」
それまでなにか考えているように黙っていたツバキが、マルティにきく。
「ダンジョンを攻略したことはないので噂でしか知らないんですが、たしか普通のダンジョンて攻略したら専用の出口がでたり、攻略済みたいな印が入り口付近に刻印されたり、ダンジョン内にいる人たちの意識に共通概念としてわたるとか聞いたことがあるんですけど」
マルティがその言葉にうなづく。
「そうだね、帰還用の転移魔法陣で入り口付近に転送された場合に、出口専用の部屋ができたり、入り口付近があからさまに形がかわったりするね、普通のダンジョンなら。でも思い出して、ここは普通じゃないから」
「普通ではない?」
「うん、僕たちの意志疎通が可能なダンジョン・マスターがいるから」
ツバキは、あっとコンソール前に座るミミコを振り返り見る。
「転移魔法陣の配置を最優先にしているのは、第18層のボス部屋の帰還用の転移魔法陣以外に、浅い層までの一方通行の転移魔法陣を作ってもらうため。というか討伐から1日経ってるんで、もうヤマタノオロチは復活してるはずだから、もう一度倒さないとあの転移魔法陣は使えないけど」
「なるほど。そのための待ち時間なんだ」
姉妹は納得した。
「とはいっても、帰ったら第18層までに得た素材もある程度は売りたいから、どのみち第14階層から第18階層までののことは、ギルドに調書はとられるけどね。あれ面倒なんだ、時間かかるし」
「それがいやで、毎晩記録をまとめていたじゃないか?あれ渡すだけじゃダメなのか?」
カスミが不思議そうにきく。
姉妹はここで初めて、マルティがダンジョンの記録をつけていることを知らされる。
「記録?そんなの毎晩つけていたんだ」
「うん、ギルドに説明する際に口頭だけだとあたらの記録係に合わせる必要があるんで、時間かかるの嫌でね。それでも一通りの説明はしなくちゃいけないんで、本当に時間短縮の為なんだけどね」
ダンジョンを攻略することは名誉なことであり、それだけでも報酬が得られるといいことばかり知っていたので、そんな苦労があるとは露知らぬ姉妹であった。
「まあ未踏のダンジョンを攻略して楽しんだ代償だ。あきらめてヒヤリングを受けるんだな」
「へいへい、カスミ姉はそういうことをする必要がないもんね。その面だけはうらやましいよ」
「マルティさん大変そう....」
自分たちもその当事者なのに、他人事のツバキである。
★★★
「ところで、転移魔法陣が配置されて、ここから帰還してギルドでいろいろやり取りをした後は、マルティさんたちはどうするんですか?」
転移魔法陣の配置はまだまた時間がかかるということで、一同はミヤビのストレージからだした簡易的な机を配置して、チョコクッキーを食べつつ雑談してた。
「うん、ここでの予定は終わったんで、次はイオシスに向かわなきゃね」
イオシスとは、ここノースランド連邦国の首都である。
「イオシス?マルティさんたちもイオシスにいかれるご予定があるんですね。じゃあ一緒にいけますね」
屈託なく笑うツバキに対して、マルティは怪訝な顔をする。
「予定も何も、君たち一回実家に帰るんでしょ?」
「はい、そうですけど....えっ、もしかして私たちがイオシスいくから、マルティさんたちも同行するんですか?」
マルティはますます不思議そうに尋ねる。
「僕たちはパーティでしょ?一緒に行動するのは当然だと思うけど」
「いや、でもそれはあくまで私たちの都合ですし...」
聞いたツバキはもとよりカエデもあぜんとしている。
細かい打ち合わせはしていなかったが、イオシスへは自分たちだけで帰省して、そのあとマルティの指示する場所で合流すると思い込んでいた。
マルティが仲間になってといったセリフは、パーティを続けるにつながっておらず、そのような誤解が発生した。
「パーティが一緒に行動するのは当たり前でしょ?」
マルティはにこやかに二人に伝えた。




