サイドB-27 さらにキャラクター登場
『多重自我憑依』は、ダンジョンマスターが一回登録するとそのキャラが死ぬことでしか解除できない特性のため、ダンジョンの管理を自分でしつつ外の世界を冒険したい北斗にとっては非常にありがたい能力であった。
半面、現実世界に戻った時にしかその記憶が統合されないことから、北斗として混乱はなかったもののログイン前(寝る前)に各キャラクタの行動計画や方針を色々決めておかなくてはならなくなった。
キャラクターが異なるだけで北斗であることには変わりないので、その場その場の思い付きで行動したとしてやりたいことの方向性が大きく異なることはないものの、お互いの行動が打ち消しあうような結果にならないように、行き当たりばったりはできなかった。
とくに、ログアウトするタイミングについては、確実に決める必要があった。
でないとこの世界での再活動時に、とんでもないピンチから始まったりする場合も想定されたからだ。
ログインからログアウトまでの期間を明確に決めて練ることだけは、北斗の必須項目となり、自分の記憶を整理する意味でも専用のスケジュールノートをつけるようになっていた。
その反動でか、あれほどゲーム三昧だった北斗の生活は一変し、いまでは自宅でコンシューマ機やゲームのためのPC起動はすくなくなっていた。
自宅での時間のほとんどを、攻略検討かアイディア収集のための読書やストリーミング鑑賞にあてている。
ゲーム時間は減ったが、ゲームシステムを参考にするため新作ゲームのシステム確認だけはおこたらなかった。
それらの作業が北斗にとっての楽しみか苦痛かに分類するとしたら、ゲーマとしてなら大歓迎である反面、毎日必須となるとどうしても苦痛になる部分もあった。
なので少しでもそれらを軽減しつつ、多数のガチャキャラクターを操りたい北斗にしてみれてば『多重キャラ割り当て』の能力はありがたかった。
「でもなんでいまさらそのキャラ変とかして、『ホクト』になったの?そのままマルティで支障はなかったんじゃないの?」
マルティのやることだからと半ばあきらめ気味に多人格能力を容認したカエデではあったが、その口にした疑問はもっともであった。
それに対しホクトは、明快に答える。
「それはね、僕でないとダンジョン・マスターを登録できないからさ」
顔も声も全く異なるが、それでもしゃべる調子はマルティに似ていたので、気兼ねなく姉妹は聞き出す。
「ホクトさんだけが持つ、ダンジョン・マスター用のスキルという意味ですね」
ツバキが問いかけ、ホクトはうなづく。
「まあ、みてて」
姉妹二人とは別の方向に体を向けて、手を広げた。
まばゆい光が起こり、それは人の形をして固まった。
その人物は、紫色の貫頭衣に同色のマントととんがり帽子、紫色の魔石の埋め込まれた木の杖をもつ長髪黒髪の少女であった。
「初めまして、錬金術士のミミコといいます。以後お見知りおきを」
とやや大げさなお辞儀を帽子をとって姉妹にした。
姉妹はまた頭が真っ白になり、沈黙が10秒程度続いた。
「ど、どういうこと?」
ホクトがにこやかに応じる。
「これが僕固有のユニークスキル。ある特定の条件を満たした生き物を、専用のストレージに格納しておけるスキル。そのスキルで格納していたミミコさんを、いまここに出現させただけ」
「だけってあんた、とんでもないじゃない」
姉妹はマルティが自分たちにストレージスキルを習得させる際の説明で、ストレージには生きた人・亜人・魔物は格納できないと教えられた。
今目の前にいるミミコは、まぎれもない人で、だからストレージにはいれることはできないはず。
ということは、それ専用のストレージが存在して、そのスキルをホクトがもっていると結論付けられる。
結論付けても、そんな馬鹿なという感情は姉妹にはのこるものの、実際ミミコは目の前にいる。
「そのとんでもないスキル、じつは二人にはもう見せているよ。分からない?」
ニヤニヤと二人の困惑を楽しむように問いかけるホクト。
中身はマルティとおんなじかとカエデはおもいつつ、あっと声を上げホクトの背後を見る。
「カスミ? カスミがそうなんだ!」
「ご名答。カスミ姉も僕のストレージに入っていたんだよ」
唐突に現れたハイ・エルフの種明かしがされる。
「カスミ姉は冒険者登録をしていないし、そもそもとんでもない実力者なのに、世間にはその噂さえされいないない。なぜならこんな風に仲間内しかいない場面でしか外に、僕のストレージから出ていないから。だからツバキ、君の想定はある程度あたっていたんだよ」
★★★
「いろいろお二人が聞きたいこともあるのはわかるけど、それはつづけてもらって構わないので、こっちは仕事にかかってもいいかな?」
それまでやり取りを静観していたミミコが声をあげた。
「うん、登録初めて。あっ、いやその前にやってほしいことがある」
「してほしいこと?なに?」
ホクトの姿が一瞬消えて、マルティが再び登場し、なにやら自分のストレージから取り出した。
先日のヤマタノオロチ戦で獲得した、大瓶48本に入った謎のピンクの果樹しぼり汁であった。
なぜ姿をまた変えたのかについてカスミが二人に「キャラクターがそれぞれもっているストレージは共有じゃないんで、マルティのストレージを使うためよ」と耳打ちしてくれた。
「これは『西王母蟠桃の果汁』。これから君のスキルで『エリクサー』を作れるだけ作ってほしい」
「『西王母蟠桃の果汁』!! このダンジョンで取れたの?」
ミミコはマルティからうけとると、そのビンを眺めて叫んだ。
おそらくミミコも鑑定スキルを持っていて、それで確認しているのだろうとツバキはおもった。
「間違いない『西王母蟠桃の果汁』だわ。しかも結構な濃度の果汁ね。これであと『月下草』と魔石・中以上、聖水があれば、たしかに『エリクサー(梅)』が作れるわ」
と、大はしゃぎする。
さっそくとミミコは魔石と『月下草』を自分のストレージからとりだし、聖水はカスミが請われて樽一杯分生成し、それらを並べてミミコは魔法を発動する。
ミミコの杖の一振りで、空中に光のフラスコが48個出現し、そこに魔力操作で材料が次々につぎ込まれた。
『西王母蟠桃の果汁』は、フラスコ1個あたり1本使用された。
ミミコの次の一振りで高速に回転し始めること1分、光のフラスコはさらに輝度をまし光りつつ変形し、光がなくなったあとには小瓶が出現していた。
「やった、ついに『エリクサー』を採取した素材から生成できたぞ」
ホクトは大はしゃぎで、早速手に取って鑑定する。
『エリクサー(梅)』
・使用によりケガや部位欠損を含む全異常ステータスの完全回復ができる
・使用により病気(細菌・ウィルス・細胞変異)の完全撲滅・復帰ができる
・使用により数年の年齢回復ができる。ただし17歳前後を限度とする。
・使用量によって前記の効果は削減される。
エリクサーとしては(梅)と最低ランクなのだろうが、それでも単一の事象しか対応できず、再生もできないポーションとは比べ物にならない十分な性能だ。
この『エリクサー』だが、絶対に必要な材料が『西王母蟠桃』という、特殊な桃だ。
ホクトもその材料を探していたのだが、この世界15年滞在たっても見つけておらず、採取した材料で『エリクサー』を生成できていなかった。
それが一気に48本も手に入ったのだ。
ホクト=マルティはミミコと手を取り合って喜んだ。
この『エリクサー』を自身の錬金術で作り出したミミコは、北斗がガチャで得た名前付きSSRキャラだ。
初期Lvは2000とSSRキャラにしては低く、戦闘系魔法をもってはいるもののそれが専用スキルではない。
彼女の専用スキルは、魔法薬生成と岩・木ゴーレム創成に特化した生産系の錬金術であった。
しかもすごいのは、すべての錬金成功率が100%で、絶対に失敗しないという貴重材料でも無駄にしないありがたさがあった。
加えていまのところ、ファンタジー夢の薬『エリクサー』をスキルで無駄なく生成できるのは彼女しかいないという、貴重なキャラクターであった。
ガチャでミミコ取得時、彼女の初期ストレージ内容として『西王母蟠桃』を6個と『世界樹のしずく』500mlを所持していており、それらと独自に採取した『月下草』を用いて『エリクサー(松)』を小瓶6本ほど生成していた。
ただこの生成したものは松のランクだけあって、今回生成できた梅ランクと異なり、けがや病気や欠損部分の復活はもちろんのこと、強制的な17歳までの若返りと、その種族の平均年齢の15倍程度は歳をとらないという破格の性能を持っていた。
ヒューマンであれば約1000年は歳をとらないことになる。
『世界樹のしずく』はまだ400ml以上あまっているものの、『西王母蟠桃』が次いつ手に入るか不明なうえ、性能自体もぶっ飛んでいる貴重希少の薬品のため、使うチャンスを逃しており、本日まで至っていた。
「このダンジョンで、『西王母蟠桃の果汁』がドロップしたということは、今後も材料確保のチャンスがあるということね」
ミミコが、ならばとダンジョン・コア・コンソールのほうに歩き出した。




