サイドB-26 ホクト登場
ファーラーン・ダンジョンの話は、姉妹の想像をはるかに超えていた。
ダンジョン・コアの存在さえ、姉妹にとっては疑わしいのに、ダンジョン・マスターまで話が膨らんでくると、もう絵空事や空想の産物としかおもえなかった。
(だけともし、それが事実だとしたら...)
ファーラーンの繁栄がマルティたちのダンジョン操作によるものだとしたら、同じことをするこのアースワンシティも同じように豊かになるということだ。
「それってすんごく重要な秘密じゃない?まだ仲間になると決めていないあたしたちに話していい内容?」
カエデがあきれたように、マルティに聞いた。
「その点は問題ない。まだ本当に秘匿してほしい内容には触れていないし。仮に今の話を誰かにしたところで、証拠がなければ今の君たちみたいに与太話としか思わないよ」
それは姉妹にも納得できる話である。
ただ、本当に秘匿したい内容とは一体何だろうとおもいつつ、知りたい反面それを知ってしまってはもう後戻りできないのだろうと、カエデはおもった。
「ど、どうする? 本当に巻き込まれてもいいのかな?」
心を決めてきたつもりだったが、今の話で尻込みして、小声で妹に確認する。
が、妹はなぜか薄笑いを浮かべつつ、心ここにあらずといった遠い目をして姉をみた。
「マルティさんたちだから、ありなんじゃないかな?」
カエデはその態度から、妹の常識がぶっこわれて達観してしまったことを悟る。
はぁ、マルティ達だからかとこちらも普通をあきらめたカエデが、マルティたちに向き直り告げる。
「決心がついた。ふふつか者の二人ですが、末永くよろしく」
期待と不安と、なぜか諦めがない混ざった、複雑な宣言だった。
★★★
「で、ダンジョン・コアだけど、どこにあるの?」
仲間宣言の後、ゆっくり朝食をとった一行は、身支度をすませ宿泊小屋をしまって行動を開始した。
「あの転移魔法陣を使う」
マルティは、ダンジョンボス部屋の端に発生している、転移魔法陣をさした。
「あれって確かダンジョン入り口に近い層まで転移させてくれるゲートよね」
カエデはダンジョン走破の経験は皆無だが、クリアした場合の現象については、通説で知っていた。
「そう、そのまま魔力を込めればね。だけど別のやり方で、ダンジョン・コア行きの転移魔法陣になる。カスミ姉、ミヤビお願い」
マルティの指示のもと、二人が転移魔法陣に近づきお互いが片手を魔法陣にかざして魔力を放出する。
転移魔法陣は淡い紫色に発光し始める。
「よし、じゃあ行こう」
「えっ、ちょっと。ダンジョン入り口に戻っちゃうわよ」
カエデの抗議むなしく、マルティとカスミに背を押されて魔法陣を踏む。
一瞬の視界消失を経て、姉妹が見た風景は出口などではなく、想像をはるかに超えるものだった。
(なにこれ、これがダンジョン・コアなの?)
そこははるか彼方に天井が見えるドーム状の空間であった。
空間全体は光源は不明だが白色にそこそこ明るく、地面も壁も天井もすべて黒曜石でできたような光沢を放っている。
「すごいわね、東京ドームぐらいかしら」
カスミが姉妹にはわけのわからないたとえをした。
この空間の外側はわからないが、仮に姉妹の知る建造物に例えるなら、イオニスにあるコロッセオにお椀上の天井をかぶせたような、そのくらいの規模感であった。
空間もすごいが、その中心に鎮座する天井に届きそうなほどの巨大な水晶の柱群に、カエデの目は釘告げになった。
中心に最も巨大な水晶柱は、カエデの知る数千年生息している大樹よりも太く、その周りに寄り添うように乱立する小さいほうの水晶柱にしても、3階建ての建物の高さに匹敵する。
水晶柱はそれ自体が同調して七色に明滅したり、星をちりばめたような流星が描かれたり、光が波紋状にスライドしたりと不規則なパターンで圧倒的存在感を醸し出している。
まるで久方ぶりの来訪者に歓喜しているかのようでもあった。
「あっあの光っている柱が、ひょっとしてダンジョン・コア」
マルティがうなづく
「たぶんね。ファーラーンダンジョンのもこんな感じだったし」
「すごい、本当にダンジョン・コアてあったんだ」
呆けた口調で目の前のコアを見上げつつ、ツバキがつぶやく。
ダンジョンボス部屋の転移魔法陣はひとりの魔力を与えると、入口付近への転移になるが、それがふたりの異なる波動の魔力だとダンジョン・コアへの転移になるとマルティは説明してくれた。
「さてと、では早速ダンジョンマスター登録といきますか?」
「今回は、どんな種族をあてがうんだ?またエルフ族か?」
カスミがまたと言ったのは、すでにマルティたちがダンジョン・マスターを割り当てているファーラーンダンジョンを含む3ケ所のダンジョンが、すべてエルフをわりあてているためだった。
マルティたちはファーラーン・ダンジョンのダンジョンマスターのエルフ、エギルを筆頭に残りの2ヶ所もエルフを割り当てていた。
寿命の点でダンジョンマスターは長寿のほうが都合がよいとの判断からだった。
さらりと話していたが、ファーラーン・ダンジョン以外にも2ヶ所のダンジョンを攻略して、活用しているという事実も衝撃のはずだったが、今目の前の光景に麻痺してしまったかのように、姉妹はすんなり言葉通りを吸収した。
「いんや、今回はヒューマン。寿命の点で都合がよかったんだけど、そのあと錬金術で『エリクサー』を作れるメンバーがいることがわかったんでね。寿命よりも能力で選んだ」
そうカスミに説明したマルティは、姉妹に向き直る。
「ダンジョン・コアで驚いているところ申し訳ないんだけど、いまから追加で驚かせてしまうけど、これは僕の秘密の能力なんで口外禁止事項ね」
そういうとマルティーは右手をあげて、手のひらで天をさし、へんし~んと唱える。
一瞬マルティの体が粒子状に上方にずれると、上書きするかのように別人が現れた。
マルティよりはやや大柄でガタイがよく、黒髪でよく日に焼けた20代後半と思われる男性がそこにいた。
そしてマルティの姿はどこにもなかった。
「お二人さん初めまして。ぼくの名はホクト。マルティの別の姿だと思って」
「えっ、ええ~」
姉妹の共鳴した絶叫が、ホール全体に響き渡った。
(何の冗談?別の姿って何よ?)
都市伝説に近い未確認のダンジョン・コアを目の当たりにして驚愕の連続だったのに、さらに追い打ちをかけられてへとへとなカスミである。
「ホクトさん、ですか、マルティさんはどこに行かれたのですか?別の姿ってどういう意味ですか? 変化の術でいままで姿かたちを変えていたということですか?それとも転移か何かでホクトさんがこちらに来られて交代したということですか?」
ツバキが初対面ながらも、ホクトに焦ったように聞く。
もちろんダンジョンの奥深くに転移する能力など聞いたことないため、問うたツバキ自身あまりその可能性を信じていない。
「姿って表現のほうが呑み込めるかと思ったけど、やっぱり理解が難しいか。正確には別人格になる。マルティと僕とでは身体的構造もスキルもステータスも異なる。もっというと思考方法も若干ことなる。二人に共通しているのは、経験した記憶を共有しているということだけ。これは俺のスキルでマルティという人格に転生していたということ」
二人が驚くのも、そのような能力を知らないのも無理はなかった。
なぜならこの能力は、『ネオアンバー・ソメイユワールド』に現世界よりログインしている北斗専用の能力なのだから。
北斗は、この世界にログインして1年、480日経過した際、ワールドスキルと称した『多重自我憑依』を獲得した。
この能力は、ログイン時に北斗自信の自我をホクト以外の他のガチャキャラクターに憑依できるというものだった。
憑依させたキャラクターたちは、北斗自信として独立して行動できるスキルだ。
獲得した当初は2人までしか憑依ができず、そのうち一人をファーラーン・ダンジョンのマスターとして割り当てた。
あれから15年たったいまは、その人数も7人と増えており、そのうち3人は各ダンジョンのダンジョン・マスターとして活動している。
そして北斗はこの世界滞在10年目に、別のワールドスキルをもらっている。
それが『多重キャラ割り当て』という能力だ。
この能力、『多重自我憑依』が複数のガチャキャラクターに対して北斗の自我を独立かつ並列に設定できるのに対して、ホクトというベースキャラに同時に多数のガチャキャラを割り当てることができ、かつホクトやその割り当てたキャラの意志でいつでも切り替えることが可能という能力だ。
加えてこの能力は『多重自我憑依』が記憶や思考をこの世界内では口頭で伝えるしか共有することができないのに対して、ホクトと割点けたキャラ同士で共有できる点が異なる。
各キャラは思考方法が異なるため、ホクトの中では多重人格状態となっており、行動を決めるため他の人格とホクトは議論もしている。
いまホクトに割つけられるガチャキャラクターは当初の一人から3人に増えている。
今回もマルティのほかにあと二人のキャラクターを割つけているが、それを姉妹に言ったら最後、余計に混乱させること間違いないので、そこはおいおい説明する予定の北斗で、ミヤビにもカスミにも事前に言い含めていた。
特にそういうこころの機微がわかっていないミヤビには、余計なことをいわないように現実で液状おやつを3回渡す約束で厳命した北斗だった。
ミヤビは好物のだめに、余計なことはまったくいわなかった。




