サイドA-33 執事キャラ
「で、結局ギルマスのごり押しに負けちゃってさ、第19層を走破してきたってわけ」
ホクトは第19層のドロップ獲得品、直径20cmはあるマッドクラブの足を素焼きにして、醤油をかけたものを歯でむしり頬張りながらコンソールに向いているエギルに話しかけた。
ここはファーラーンダンジョンのダンジョン・コア・エリアで、話し相手はダンジョン・マスターであり、ホクトのサブキャラであるエルフのエギルである。
ワールドスキル『多重自我憑依』で、中身は北斗であるのだから、自分に自分の経験をかたるというちょっと特異なシチュエーションだが、この世界を世界をログアウトするまで、つまり北斗として目覚めるまでは分裂している自我は記憶を言葉でしか共有できないため、長い間ログインしている場合は、こういう場面もちょくちょく出てくる。
今回もひと月はこの世界に滞在するつもりのところに、ギルドマスター直々の依頼が入ったホクトとミヤビは、第19層を制覇したその足でダンジョン・コアに来ていた。
ダンジョン・コア・エリアは最初に登録した時と様相がだいぶ異なり、天井も高く空間も大きくなったちょっとしたドーム球場のようになっていた。
ドーム状の天井は大きく開いており、そこから先には真っ青な空が見えている。
ドームサイドサイドの中盤にも、切れ込みが柱をはさんでサイドラインを形成しており、そこからもドーム天井と同様に外界がみえている。明るい光が差し込んでいて、きもちのよい風さえ吹き込んできている。
これらはすべて実際の外界ではなく、疑似的にエギルが作り出した空であった。
エギル曰く疑似的な空で見える範囲にしか存在せず、また昼夜の周期で明るくなったり暗くなったりするそうだ。
地下に閉じこもりがちなエギルからしたら、精神的にこのようなギミックが必要であると感じて作ったらしいが、実際はダンジョン作りに没頭していることが多く、当初の予想ほどの閉塞感はかんじてなかった。
コンソールの横少し離れたところには、以前には存在しなかったコテージ風の2階建て木造建造物があった。
それはエギルが最初に作ったしょっぱい建物ではなく、あとから試行錯誤の上に建造した建物らしかった。
コテージ周辺はコア内のほかの地面とは異なり浅い芝が生えそろい、さらには小さいが澄んだ水で満たされた池があった。
その小さな池を囲むように背の高いヤシの木数本と低い木々が生い茂っている。
小さな池には水の循環を表現してか据えられた大岩の切れ込みから水がこれまた小さな滝として流れ込んでおり、無音のダンジョン・コアに風の音とあわせて音を作り出していた。
池の中をのぞくと、水草に小魚がうごめいているのもみえた。
こちらもやはり精神衛生上の対応策なのだろうが、空同様引きこもりエギル=ホクトにはあまり効果はなく、あったほうが良いかなぐらいだった。
コテージ内に入るとわかるが、建物だけでなく木でできたく机や椅子、チェストや食器棚、それに収納された衣類や食器の類、8人が寝泊まりできるベッドや魔石で輝く照明器具、トイレやシャワーなどこまごました生活用品も充実している。
これらはエギルが生み出したものではなく、同居しているサブキャラの手によるものだった。
ダンジョン・マスターの生成能力として生活用品のレシピは存在しないエギルがこれらを手に入れるため、当初は創造機能で作るつもりが難易度が高く難しかったため、もちは餅屋の理論でホクトの持つサブ・キャラのなかでそれら生産に特価したスキルを持つ者たちを借りて、環境整備兼バトラーとして常駐させていた。
[SSR 木工技師 タクミ]
Lv.2000 Age:34
種族:ヒューマン
HP 200,000
MP 720,000(100,000)
ATK 120,450
DEF 195,000
INT 770,222
AGL 270,000
MGR 220,000
LUCK 11,000
固有スキル 『家具生成魔法(上)』Lv10
スキル 『剣術(双刀小剣)』Lv10、『隠密』Lv10、『水刀』Lv10、『町の料理人』Lv10、『町の菓子職人』Lv10、『町のパン職人』Lv10、『町の麺職人』Lv10ユニット・ストレージ(松)x50,通常ストレージ(松)x50t
※ホクト(総)の仲間兼従者、ホクト(総)が指示を与えることにより、独自の判断での行動が初期条件によって可能
このサブ・キャラは、ステータスのとおり家具や服飾を含む布生成スキルに特化したキャラに料理系のスキルを後付けで追加した男性ヒューマンだ。
ケビンとおなじくSSR設定のキャラで、レベルも2000程度とホクトが所持しているキャラの中では比較的レベルは低いが、特化しているスキルが生産系なのでしょうがないのかもしれない。
名無しのキャラだったため、単純だが物つくりの名前をつけたホクトだった。
ちなみにダンジョンマスターは食事もしなくても、ダンジョンからもらえるパワーでまかなえてしまうのだが、それでは味気ないとタクミに料理人スキルも後付けして、身の回りの世話をさせている。
最低限のストレージも同じくホクトのスキルポイントで付与し、そこに木材や布の原料となる材料、さらにはエギルとそのキャラ用の食材をホクトはしこたま渡してある。
それに低いといってもレベル2000はこの世界では破格なため、いま作っている第79層の整備が整えば、そこから家具生成用の材料や食材を自身で取りに行かせるつもりでもあった。
「で、どうだった、第19層は。知識として知っているのと実体験したのとでは、印象が変わったんじゃないか」
「たしかに、そうだね。でもそれは君もでしょ?」
第19層を作ったのはエギルであるが、それは多重人格で分裂しているホスト、北斗が一緒なのでホクトも知っているということである。
構想は北斗が現実世界で行っているので、細かいところはともかく生成を直接行っていないホクトでも大雑把な構成は理解している。
「海洋部以外は一通り見てきたけど、まあ満足できるものだと思うよ。最初の思想であった他の冒険者たちを下層にいかせにくくするという点では特にね。実際制覇するのに詳細を知っている僕たちでも1週間かかってしまったもの。普通の冒険者だと、どんなに優秀なパーティでも2~3ヶ月はかかってしまうんじゃないかな。もちろん生還できればという前提付きだけど」
第19層は海と島の混在しているフィールドタイプのダンジョンに仕上がっている。
島の数は数千におよび、大きさは本当に数メートルの小さいものから、山と深い森を構えた一周100キロメートルを越えるものまでさまざ存在する。
海は島と島をつなぐように浅瀬や砂浜がある以外は、いきなり深淵に落ち込んでおり、その深さは数百メートルにおよぶ。
それら島と海とが複雑に入り乱れ、自然を利用した迷路を形成している。
「それにしても徹底的にやったね。迷路にするのは前提だったけど、次の層に行くための最短ルートでもこの層の端から端まで行ったり来たりしないといけないし、途中の分岐も相当奥まで行かないと行き止まりとわからない」
「まあな。最初に島を配置してそれとどんなふうに繋いでいくかに、一番時間をかけたからな」
意地の悪い行き止まりは百を越えて存在し、エギルと同じ思考形態のホクトでさえ、10回程度は行き止まりにあたった。
ホクトは第19層の入り口から出口まで、最短でいけたとしても約1000キロの距離があると踏んだ。
「全体を知っていれば、海をショートカットするとこも可能だけど、海に配置されている魔物があれじゃーね。船があっても危ないのに泳いではいけないかな」
ホクトの言葉にエギルがニヤリとする。
「肉食サメに近いモンスターぞろいだからな。餌用に普通の魚や貝類も配置しているが、海は横切らないほうが生存率は高いだろうよ」
配置しているのは肉食の魚タイプモンスターだけでなく、一部大王イカや大クラゲ、ナマコの大型にしたような軟体モンスターも配置している。
海の中に入らなくても海岸線でも危ない地点は多数あった。




