サイドA-32 ギルマス・ケビンの策
定期的になっている素材買取交渉のためのギルド訪問にて、その日は久方ぶりにギルド・マスター執務室への呼び出しがホクトたちにかかった。
ハンナに案内されてギルド・マスター執務室にはいると、そこには仏頂面をしたケビンが、自分の机越しにホクトとミヤビの二人を迎えた。
「えーと、今日は何のお話で呼ばれたんでしょうか?買取品が多すぎてのクレームとか...」
ホクトはケビンのうろんな雰囲気をよみとって、いつも以上に丁寧に問うた。
「それはいい。こちらも買い取れるだけしか買い取っていないから。おまえら、ダンジョンのことでなにか報告し忘れていることないか?」
ケビンの声は拳がある。そうとう怒っているようだ。
突然の質問内容にも、ホクトたちはぽかんとする。
「報告し忘れ?」
「最近ダンジョンで大きな変化があったのを、知ってて報告していないんじゃないか?」
ケビンに大きな変化といわれて、内心ピンとくるものがあったが、ホクトはそれをおくびにも出さず問うた。
「大きな変化?いえよくわかりませんが」
ケビンははぁーと大きなため息をつくと二人をソファーに誘導し、自分も正面に座った。
「先日の話だ。『暁の銀狼』がCランクのパーティ2グループと手を組んで、奴らの未制覇であった第18層のフロアボスをたおし、第19層に進んだがこの層がお前らの報告にあった迷宮型ダンジョンではなく、海と島、青空が広がるフィールド型ダンジョンに変化していたらしい。しかもお前らの報告にあったゴブリンリーダーやコボルトリーダーではなく、マッドクラブの大群に遭遇したそうだ」
第19層の出口自体が円形の小島になっていたらしく、入り口付近でいきなり左右から回り込むように数十匹のマッドクラブに『暁の銀狼』たちは襲われたらしい。
マッドクラブはBランクの魔物であるので、彼等でも1体であれば倒せるらしいが、それがわらわらと湧いて出たので対処のしようがなかったらしい。
「その報告が彼らからもたらされた。ギルドから得た情報と違うとうちの所員たちは恨み節のようにいわれたらしい」
やっと悲願のフロアボス討伐を果たした連中からすれば、ケビンも彼らの気持ちもわからなくもなく、クレームを受けたに等しい所員が愚痴を垂れるのも黙って聞いた。
「お前たちは相変わらず定期的に、あのダンジョンの最下層まで制覇している。なら第19層が様変わりしたことを知っていて当然だと思うが、なぜ報告しなかった?」
ケビンの疑問ももっともである。
わざとホクトたちが報告しなかったとおもわれても仕方ない。
ただケビンのやや怒りを含んだ問いに、ホクトは正当な理由を用意していた。
「信じてもらえるかどうかはわかりませんが、ぼくたちは第19層の様変わりしたことを、いまマスターに聞かされるまで知りませんでした。確かに僕たちはダンジョンに定期的に潜っています。ただその対象層は第40層以降で、第19層はもちろん第4層から第39層までを最近通っていないんです」
「通ってないって....じゃあどうやって第40層に移動しているんだ?」
ケビンの質問は、至極まっとうだ。
「それはこれです」
ホクトは首周りをさわり、かけている首飾りを取り出した。
金属でできた鎖の先に、小さいが碧い石がつけられている。
「これはダンジョンのボスを最初に討伐した際に手に入れたものです。用途が不明だけど最初だけ出てきたので、なにかあるかと思って身につけて様子を見てたんですが、どうも第3層から第40層まで転移できるアイテムだったらしく、偶然第3層を通っているときに特定の部屋に近づくとこの石が輝きだして、光が強くなる方に近づいたら転移魔法陣が出現して転移したというわけです」
これは半分本当で、半分は嘘だった。
ダンジョン内を自由に移動するための手段として、転移魔法陣の配置を第3層/第40層/第79層/第80層にたいして行った。
そしてそれを利用できる人間を、とりあえずホクトとミヤビに限定する処理を行った。
ダンジョンマスターのエギル自身は、そのような魔法陣がなくてもダンジョン内であれば自由に行き来できるが、ホクトたちはそうはいかないので、専用の転移魔法陣とそれを発動させるアイテムを作ってもらったのだった。
そうした施策は外部の人間にばらすことはできないため、転移ができるようなホクトたち専用ともいえる首飾りを用意した。
最後のダンジョン・ボスのドロップ品というのと第40層のほかに第79層/第80層にも転移可能なことは伏せているので、そこだけがケビンたちへの嘘であった。
「つまりなにか?そのアイテムを身につけていれば、件の第19層は通らない。だから知らなかった、とこういうわけか?」
「はい、僕たちの目的は深い層とダンジョン・ボスの攻略ですから」
筋の通っている内容に、うなるケビンだった。
「だがな、その宝石のことは報告してくれてもよかったんじゃないか?そうすれば、こんなクレームもなかったろうに」
少し恨み節のケビンに対して、ホクトはこれも明確に回答する。
「たしかにそうかもしれませんが、そうすると今度はその石を譲ってほしいという人たちが出てきて、僕たちが困ります。正統に買い取ろうというのならともかく、窃盗したってかまわないという連中もいるでしょうから」
ホクトはこれまた正統な理由で回答する。
「そりゃ、そうか....わかった。第40層への転移が可能なことはギルド内だけの情報として漏らさないようにしておいてやる。その代わりといっては何だが、ギルドマスターからの指名依頼として第19層の調査を依頼する」
(そう来たか)
ホクトは自分がミスしたことを理解した。
第19層はエギルがダンジョン・マスター・コントロールで作ったので、当然北斗は構成含めて知っているのだが、エギル自身が作った後に任意地点を現地視察しただけで、ホクトとミヤビはまだいったことはないのは本当だ。
そのうち第19層も攻略するつもりだったので、行くこと自体は問題ない。
ただ、それがギルドマスター自身の調査依頼というのが問題なのだ。
「えーと、条件つきでよければ受けますけど、いいですか?」
ギルドからの指名依頼は基本的には断れない。
それを知ってて、あえて条件をだす。
「なんだ?指名依頼が不服か?」
「いえ、その依頼ですが調査ではなく攻略依頼に変えてくれませんか?」
「なんだそれ?どっちもやることは同じだろ?」
「いえ、違います。あなたは僕たちをCランクパーティに上げたいだけじゃないですか?」
冒険者ギルドの発行している冒険者カードにはランクが示されている。
ホクトたちは現在Dランクで、ちょうど中間ぐらいに当たる。
それをCに上げるには、冒険者としての成果だけでなく、いろいろ最低限の条件が付いてくる。
例えば冒険者ギルドからの指名依頼の達成やBランク魔獣の討伐などがある。
ホクトとミヤビはそのほとんどを満たしているが、ひとつだけこなしていない依頼がある。
それがギルトからの調査依頼だ。
冒険者ランクがあがれば、それだけ仕事の範囲も広がるだけでなく、いわゆるステータス、まわりの冒険者たちへのマウント要素になるので普通の冒険者であれ上位を目指すのだが、ホクト自身はこれ以上目立ちたくないので、あえてその依頼だけはさけてきたのだ。
「はぁ~おまえな。普通はランクをあげたがるもんだぞ。なんでそこまで拒否するかね」
「やですよ、ランクCなんて。ギルドからの強制命令対象にもなってしまうじゃないですか。僕たちはそこまでお金に困ってませんので、別に今のまま、気楽に冒険者していたいんですよ」
さらにいうと、ホクトたちの成果だとCランクにあがったとたんに、Sランクまで上げられてしまう恐れもある。
そうなると、いままでは知られていなかった国家単位にまで名前が広がってしまう恐れがある。
その結果いろんなしがらみが強制的に発生して、北斗としてのお楽しみ以外に時間を取られてしまうことは目にみえていた。
いづれ国家とのつながりが、いろいろな生産物の販売等で出てくることはやむを得ないが、北斗の計画ではいまはまだその段階ではないのだ。
「とにかく、依頼内容を変更してくれればお受けします。指名依頼といっても、またDランクでは強制ではありませんし」
「わかった、わかった。依頼内容はかえるよ。それでいいだろ」
ケビンはやれやれといった感じで、変更を約束する。
「あと、まさかと思いますけど、ギルマス権限で無条件ランクアップとかもしないでください。そうなったら、僕たちギルドやめますんで」
冒険者ギルドマスターには独自の権限で、突出した成果をあげたパーティにランクを上げさせることができる。
ホクトはそれも指摘しておいた。
「ふつうは逆のお願いはあるっていうのに....。わかった、俺はそれをしないと約束するよ」
ケビンもホクトが本当にギルド所属を辞めかねないという性格を知っているので、あきらめたように宣言した。




