サイドA-31 ファーラーンダンジョン第19層
「これで終わりだー」
ガストこと『暁の銀狼』のリーダーは、全身傷だらけになりながらも何とか立っているコボルトリーダーにむかい、雄たけびをあげながら自慢の長刀を振り下ろした。
長刀はみごとコボルトリーダーの心臓をきりさき、衝撃を受けた3メートル大の巨体はよろけながら交代すると、力尽きるように倒れた。
以後ピクリとも動かなくなり、その姿は徐々にだが消えてドロップ品に変わった。
『暁の銀狼』のメンバーと、今回レイドを組んだCランクパーティ2組系16人は、フロアボス討伐の喜びをそれぞれのやり方で分かち合う。
「やったな、ガスト」
ガストと同じメンバーでタンクのビートが手を挙げて、ガストに喜びを伝える。
ガストもその手を打って、答えた。
本当に大変な階層ボス戦であった。
このボス部屋の魔物は、3メートルを超える筋骨隆々のコボルトリーダーだけでなく、ランクDに相当する大きめのコボルトが30体登場する。
ガストにとっていかに大きめのコボルトとて1体1体は大したことはないが、その数をさばきつつパーティ全体で挑む必要があるコボルトリーダーを同時に相手するのはさすがに不可能なため、『暁の銀狼』単独での制覇はむずかしく今回別の2パーティーとレイドを組んでの挑戦となった。
その2パーティーは、どちらもCランクパーティーで、片方のパーティーはそろそろランクBに上がるとのうわさもたかい実力のあるパーティーであった。
今回のレイドによる討伐成功をもって、おそらくだがBランクに上がることが予想されるので、ガストたちにとっては面白くはないものの、そろそろ自分たちももう少し先までダンジョンを制覇して実績を上げなければAランクにいつまでたっても上がれないという事情もあって、背に腹は代えられむとやむなくのレイドグループ結成であった。
もちろんガストは抜け目なくボス討伐は自分たちのパーティーだけで行い、周りのコボルトたちを他の2グループにあてがうことで、成果の差別化をしっかり行っていた。
それにしてもホクトと一緒にいるミヤビという猫人は、このコボルト群など歯牙にもかけず、さらにここから61層もさきのダンジョンボスまで倒しているのだ。
ホクトのパーティーメンバーのミヤビとかいう猫人は、どれだけ力量を持っているのかと飽きれてしまう。
同時にそのようなメンバーを持っているホクトの幸運に対して、思い出すたびに腹が立ってしょうがない。
ホクトのことはガストもなんとなくは知っていた。
ガストのなかでのホクトの認識は、いまはなきAランク冒険者ジーノの孫であり、ひ弱なジーノに庇護された子供であり強者どころか普通の冒険者としても格下の存在と思っている。
ジーノはそのランクからもわかる通り、ファーラーンでは名の通った冒険者ではあったが、それはガストが冒険者になる前の話であり、実力が落ちて鉱石集めなどで生計を立てている過去の人物であった。
しかも病で亡くなるほど体が弱っていたことから、ホクトに対してなんらかの冒険者としての指導をする期間があったとしても短く、とてもホクト自身がダンジョンを制覇できる実力を持っているとは思えなかった。
もちろん先日の冒険者ギルドでの出来事は、ホクトの実力を十分に理解できるはずなのだが、ガストの中のホクト像とそれがあまりにも乖離しているので、脳内で何かの間違いと都合よくすり替えが起こっていて、あくまでミヤビだけが実力者という認識が続いており、それは『暁の銀狼』のメンバー全体の認識でもあった。
「それにしても今回は運がよかった。たまたま各階層をスキップできる通路が見つかって、この層以外ではほとんど魔物の相手をしなくてよかったからな」
ビートがタンク特有の大型の鋼の盾を地面において、疲れをいやしつつつぶやいた。
「そうね。おかげて私もみんなの支援や回復をほとんどしなかったから、魔力の消費が少なくてよかったわ」
ヒーラーのフーミも地面に杖に寄りかかるように体をやすめつつ、同意する。
メンバーに防御力向上のバフを最大限かけたあととあって、魔力がぎりぎりの疲労困憊状態で、勝利の余韻がなければすぐにも横になりたいのだろう。
ガストはそんなメンバーの言葉に苦々しく思いながらうなづく。
そうなのだ、今回のダンジョン潜航ではいままで見つかっていなかった次の層へと進む階段が、ダンジョン入り口付近の部屋でたまたま発見されたのだった。
その階段はなんとこの第18層まで続いており、しかもあいだの各層にもつながっているので、ダンジョンを攻略する冒険者たちは第18層までなら自分の攻略したい層までその階段で移動して、特定の層だけ攻略することが可能になった。
たとえば自分の実力にあったフロアボスのみを攻略して次の層に進まず帰還するということが可能になったため、最近はそうやって実績や素材集めを行うパーティーやソロ冒険者が増えた。
第18層までの魔物やフロアボスは、ガストおよび今回のレイドメンバーであれば問題ない相手ではあるものの、苦労のわりに得られるものもすくない第18層のボス部屋まで以外で消耗を避けれるのであれば、これを利用しない手はなかった。
ただその直行できる階段の発見というのが不可解で、いままで絶対に見逃すはずがないであろう場所にそれは存在し、どう考えても後付けでいきなり出現したとしかおもえないというのが、ギルド含め冒険者たちの見解であった。
ダンジョンとは外部からの刺激、最近では多数の冒険者たちの攻略に加え、思い出したくもないがホクトパーティによるクリアにより、変化していくのが常識なのだが、普通に考えられているダンジョン変化に比べて格段に速度が早すぎる点については、関係者一同首を傾げるしかなかった。
加えて、ホクトのパーティ意外が手をこまねいている第18層が、直通階段の終着点というのも、いかにもその層まで早く来てくださいと言わんばかりの配置で、何かしらのダンジョンの意思が感じられるのだった。
ガストはその直通階段の出現をありがたく思う反面、ホクトたち以外の自分を含む冒険者たちが何やら軽く見られているように感じて、手放しでその存在を喜ぶきにはなれていなかった。
だが、これで一歩前進したことには間違いない。
「よし、ドロップ品を回収して少し休憩したら、次の層に進むぞ。おめーらもはやく第19層がどんなところか拝みてーだろ?」
フロアボス勝利を得て気分が高揚しているメンバーからは迎合の声が上がる。
ヒーラーとマジシャンの魔力の減少はしょうがないとして、武闘メンバーは重症のものは存在せずそこそこ動けるものが大半だった。
それに彼等は冒険者である所以、好奇心に満ちていた。
いままで手が届かなかった階層にすすめるとあって、士気は満タンだ。
回収可能なドロップ品をあつめ、傷の手当などもそこそこに短時間で一同は次の層への階段、正確には地下通路のような場所を進んだ。
「おっ、前方があかるくなって来たぞ」
暗い通路を照らしている松明とは明らかに異なる日の光のような差し込みが、出口の方に見えた。
一同は自然足早になるが、威厳をたもつためにガストははやる気持ちを抑えて、他のメンバーを先行させた。
先に地下道より飛び出したメンバーの喜びとは異なる声が、ガストまで届く。
不思議に思いつつも出口に到達したガストは、先行者の超えの意味が理解できた。
「なんだこりゃ....最下層まで迷宮が続くじゃなかったのか?」
タンクのビートが、だれにともなく質問する。
だが全員目の前に広がる光景に唖然として、答える者はいない。
そこには潮騒の香りと真っ白なサラサラの砂浜が広がっていた。
砂浜は見える範囲ではつながっており、左右では陸地に阻まれて見えなくなっている。
前方にはよせては返す波がひっきりなしに砂浜に押し寄せ、はてには緑を蓄えた島々が大海原に数多く点在するのが確認できる。
天はたかく青く広がっており、その一点に太陽のような恒点があり、さんさんと日の光をダンジョン内に降り注いでいる。
地上と見紛うようなフィールドが、ガストたちの目の前に広がっていた。




