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サイドA-30 ダンジョンマスター最初のお仕事

エギルは、このダンジョンのできてからの数値と、魔力保有量についてさらに説明を続ける。


「時間当たりの生成量が当初ここまででなかったとしても、単純計算すればダンジョンができてから1000年以上あればもっと保有魔力量があってもよい計算になる。だけど実際はダンジョンの層を増やしたり、魔物やトラップを生成したり、宝物を生成したりで間引かれていったんだと思うが、それにしても今の魔法保有量をみても、とてもそれだけでは消費している量の説明がつかない。少なすぎる。で、そこでおれのなかに流れ込んできたダンジョンから得た知識というかルールなんだけど、魔力保有量が10兆を越えると自動的に魔物を大量発生させて外部に放出することを自動的におこなうようになっているらしい。ということは何回もスタンピードを発生させていたと思う」


「スタンピード? つまり魔物暴走か?」


ダンジョンが余りある魔力を消化する際にもっともやりやすいのが、その魔力を使って魔物を大量発生させ、外部に放出する行為だとエギルはいう。

ダンジョン拡張や改造なんてものでも魔力は消費するが、ダンジョン・マスターがいないダンジョンに限ってはそこまで複雑な処理をすることが想定しづらいので、だったら作った後自律的にダンジョン外へいってくれる魔物生成のほうが難しくないらしい。


「とはいえ、それは昔から繰り返していたとしても、そばに人間がいなければただ樹海に魔物が多めに放出されるだけで、人間としての被害はない。ホクトがギルドマスターに説明していた内容は、あながち間違っていなかったということだ」


そういえば、ダンジョンを見つけた際にそのような説明をケビンにしたことを、ホクトは思い出した。


「まあ、おれが着任したからには、もっと有効的に使わしてもらうつもりだがな」

「ということは、あれだ。思っていたことが大体できそうなわけだ」

「さっきも言った通り概要しかまだつかんではいないが、おそらく問題ないと思う」

「つまり作れるダンジョンの広さに制限がなくて、作っているうちに『これ以上システム的に面積は広げられません』とかの制限メッセージは出てこないんだ」

「面積や種類に関する禁止事項は、ざっくりみたところなかったな」

「モンスターもとい魔物を配置していくと、『限界設置数に達しました』ともいわれないんだな」

「その禁止事項もさがしたが、今のところない」

「好きな地形を配置したり、そこに配置する樹木の種類や数、もしくは構成材質や建築構成なんかもフリーと考えていいんだな」

「素材や構成や量によってはまあ魔力が足りる範囲でということらしいが、そこはやりくりで何とかなりそうだ」


エギルとホクトは、笑顔を隠せずに確認しあう。


「やったな」

「やれるな」


エギルとホクト、それにクリスティーヌも混じってハイタッチをする。

まあ、中身がすべて北斗なのでしょうがないといえばしょうがないのだが、程度の差こそあれ三者は喝采している。


「くるってるにゃ」


この部屋で唯一温度差が違うミヤビが、気味悪そうに三人を眺めていた。


★★★


「まずは、計画していた通り第79層からはじめる。最終階層の手前の層を現状の迷宮タイプから広大なフィールドタイプに変更する」

「ああ、そうだな。とりあえず最終層に他の冒険者が到達しにくいように、踏破の難易度を上げるのが先だな」

「うむ、幸いというかそのために使えるダンジョン魔力量はたっぷりあるからな。思いっきり広げることができる」


エギルが満足そうに言う。


「保有魔力が多いのがわかったのだから、もっと浅い層、たとえば第19層も同時にフィールドタイプにするほうがいいんじゃないかしら。第79層はここからある意味一番近いんだし、別の目的でも使うつもりだから、できたらダンジョン踏破難易度を上げる目的には第19層をあてがうっていうのが、いいと思うわ。幸いというか第18層が今の冒険者たちの一つのキーポイント、超えれるギリギリのラインなわけだし、それをやっと超えたら広大なフィールドが広がっていて、足止めになるという算段よ」


事前打ち合わせとは異なる提案をクリスティーヌがした。


「なるほど、それもありだな。でも踏破難易度あげだけに魔力を消費させるのはもったいないな...」

「じゃあ第19層は海と大森林のフィールドにして、海と陸の強力な魔物を多数配置すればどうかしら?」

「それはつまり、外部の人間には踏破が難しくなる半面、自分たちに対してはレベリングと素材集めの場にうってつけということか」

「俺たちが第19層も利用することを想定するならば、転移ポイントをおいておかないと。転移ポイントは、第1層/19層/79層てな感じか」

「ダンジョンマスターの制作可能項目をみてみると、転移ポイントも作れるみたいだな。ただ一般には見つかりにくいようにある程度のギミックは必要だな...」


ホクト、エギル、クリスティーヌは三人でダンジョン改造計画について議論し始めた。

内部が同じ人間なので、自問自答に近いのだが、そこは並列して思考できる強みで一人の中で考えるよりも、建設的な議論が短時間でこなせるという利点をもっていた。

この時点で三人は別の思考を行っており、相手が何を思っているかもわからないため、自分と話しているという認識はあっても違和感は感じなかった。


端から見ているミヤビにしても、まっとうな議論をしている三者とみれているので、その点では何も感じないが、内容に対する熱量が高すぎて近寄りがたいのは確かだ。

もともと何かを作ることよりは体を動かしているほうが性に合っているミヤビとしては、いつまで続くのかなと手持ちぶさたしかなかった。


「熱中しているところ申し訳ないにゃが、おなかがすいたし昼寝がしたいにゃ」


しびれを切らしたわけではないが、終わる気配が全くなさそうな議論をまえに、離脱を前提とした申し出をミヤビはした。

ホクトは、ああ確かにとまずはストレージにおさまっている机と食事を取り出そうとした。


「ホクト、ちょっと待った。食事はいいが机を出すのは俺に任せてくれ。どのみち俺はここで暮らすんだ。この際家を作っておきたい」

「なるほど、ダンジョンマスター最初の制作・配置というわけね。どうせならちょっと豪勢につくったら?大勢でも問題なく使えるように」


クリスティーヌがここぞとばかり提案した。


「ちなみに、家や建造物などのレシピはダンジョン制作スキルの中に入っているのか?」

「いや、それはない。だけどダンジョンマスターが具体的に創造しうるものでかつ種類は同一ではなくても同系統のものを知っていて想像できる範囲であれば、問題なく作り出すことができるので、家とか家具とかは全く問題ないな」


それに、ダンジョン内のものは生きている生物以外は、持ち込んでも時間がたつとダンジョンに吸収されてしますため、どのみち自分の能力で作り出すしかないことも、エギルは説明してコンソールの前に座った。


「豪勢にといわれても、面積が限られているから...そうだな」


エギルがコンソールに手をあてるとひとつの画面が浮き上がる。

3Dのワイヤーフレームで表示されたそれは、このダンジョン・コア・ブロックであった。

そこにはダンジョンコアやコンソール、それにそこに存在する4人が、こちらも簡易表示で表されている。

エギルだけ色が緑でその他のキャラは赤色なのは、ダンジョンに関連のある生物かそうでないかを刺しているのだろう。


とその一角、コアやコンソールのサイドの壁際、転移魔法陣がないほうの画像が、一気に線が増えていく。

それは次第に四角い建物を形成し、入口周りには屋根のついたカバード・ポーチが形成されていく。

カバードポーチ内には、簡易的な机とロッキングチェアがフレームでえがかれており、ポーチは入口以外はぐるっとフェンスで囲まれている。

さらにそのポーチの外側はパームツリーが小屋の左右に、これもラインのが交差してその樹木を形成し、ポーチ周りの地面は波打ったワイヤーフレームで埋め尽くされた。


「これで実行、と」


エギルがそういうと、音もなく画面内に表示されたものが、おなじく配置された場所に寸分たがわぬ形で生成された。

組み立てたというよりは、瞬間的に出現したといった感じであった。

それらは実在するものであるため、ワイヤーフレームではなく各々の材質や色をもって顕現している。


「おおっ、すげー。これがダンジョン・マスターの能力による物質想像か。予想以上にゲームティックな出現方法だな」


ホクトは興奮を隠せずにさけんだ。


「ほんとすごいわ。まさにダンジョンマスターの初仕事ってわけね....あら」


同じく関心したクリスティーヌが、建物内部に入ろうとして土のように変化した範囲に足を踏み込んだとたん、違和感を覚えてしゃがみこんだ。

土の地面のように見える表面を手で叩いて、首をかしげてそのまま入口に移動、玄関先をみてはぁーと溜息をついた。


「エギル、これ砂じゃなくて岩よ。土っぽく見えるけど硬度的にも材質的にもコンクリートのような岩だわ」


さらに、木っぽくみえるパームツリーや、木材や布でできたように見えるカバードポーチやロッキングチェアもすべて同じ材質であった。

パームツリーの葉についても同じようにコンクリート岩の造作のため、さわってもそよとも揺れない、完全な造花であった。


ロッキングチェアに至っては、地面に固定されているので前後に揺れることもなく、石特有の座り心地の悪さを露呈しており、とてもくつろげるものではなかった。


家のなかに至っても、ベットや台所、机やいすに箪笥のようにものもあるが、すべておなじくコンクリート材でできており、まるで遊園地にあるキャラクターの家のような感じで、とてもとても居心地がよいものとはいえなかった。


「居心地もそうだが、改めてみると家の形も今一つひねりがないというか、南国のあまり寒さを気にしない、屋根だけあればみたいな何の特色もないものだな」


同じ人格が入ってるのとは思えないほど、二人の評価はさんざんであった。


「いうな、俺自身も痛感している。ゲームのようにあるものを組み合わせて配置するのではなく、想像して作っていくのは相当なセンスがいると実感した。完全に予習や訓練不足だな。加えていうならまだこの能力に慣れていないんだよ」


エギルは言い訳がましくいう反面、ゼロから作ることの難易度を甘く見ていたことを痛感した。


「食べ物まで石なのかにゃ?それだけはかんべんしてほしいにゃ」


ミヤビがエギルにとどめを刺した。


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