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サイドA-26 ワールドスキル[多重自我]

現代世界で4月に突入し、社会人としての北斗は新年度を迎えた。

依頼会社の年度末の予算の使い切りのための、大量で締め切りがきつく、それでいてクライアントのこだわりがつまった仕様の製品をなんとか納入し、ひと段落付いたといった感じではあった。


まあ、それでも仕事が続いていくことにはかわりないのであるが、締め切りが絶対ではなくなったこと、変更や仕様追加があればそれだけお金も納期も交渉できることは、新年度の特徴であった。


北斗は、そんな忙しい中でもあちらの世界の事に対しても熱心であった。

あちらの世界に一晩で滞在する時間も徐々に長くなっていき、いまでは最低でも1週間はいることが当たり前になっていた。

それでもいつ想定外の時間経過が起こっても問題ないように、より長く行ったきりになる場合は、連休等の初日に割り当てるようにしていた。

今のところあちらの滞在期間最長は、1か月の40日でありそのときは3連休が始まる前日の夜におこなった。


そんなこんなで過ごすうちに、現代世界の年度が替わるのにあわせたわけではなかったが、昨日ちょうどあちらの世界滞在1年を迎えて、ミヤビと軽く記念パーティをあちらの世界で開いたところだった。

ミヤビはこちらの世界では決して口にしない獣肉のステーキとアケビのシフォンケーキを2本も平らげた。


あちらの世界でも猫なので、そこは魚を欲するのが正統とはホクトは思っているのだが、ついぞそういう要求を聞いたことがなかった。

もちろん全く魚がないわけではなく、珍しくはあるが湖や河で魚類や魚系の魔物もとれるには取れるし、冒険者ギルドの依頼にも魚類魔物の討伐依頼が、常設であったりする。


まちでもそれら魔物の燻製や干しものも売っていたりして、手に入れようとおもえば手に入れられるが、ミヤビからリクエストがないので、ホクトと同じ魔物肉や野菜、果物、パンなどの加工品を食べていたりする。


あえて猫らしいというところは、熱いものが苦手な猫舌という程度だった。


ネオアンバー・ソメイユワールドにかかわって現代世界での北斗の生活は、劇的に二つのことが変わってしまった。

ひとつめはあれだけ睡眠時間を削ってまで行っていたゲームの時間が、ほとんどなくなってしまった。

新作ゲームの動画等は相変わらず見ているのだが、それはゲームを選択するための情報収集ではなく、アイデアを得るための情報収集と目的が変わっていた。


なのでやりこみ途中のゲームは、少し手を付けることはあっても、新作のゲームにはここ1か月てを出していなかった。

かわりにネオアンバー・ソメイユワールドの攻略を練る時間、やることリストにやりたいことリスト、それらの順番を考案する時間が増えた。

それら攻略戦略は、ワープロなどの電子媒体でまとめず、紙のノートにまとめていた。


とくにそれに意味があるかどうかはともかく、なんとなくノートというアナログ手段を使いたかったホクトであった。

のちのちパソコンに入れておく事によるハッカー対策になっていくのだが、このときは単に感覚での所作だったので、結果オーライとなっただけだった。


同時に、ゲームやそれ以外の娯楽、テレビを含む動画やゲーム仲間との交友も劇的に減って、相対的に睡眠時間が増えた。

もともと睡眠に関しては不健康な生活を送っていた北斗だったが、寝てからが一番楽しい時間となるため、就寝もはやくなり、睡眠もしっかり8時間寝だしたので、身体疲労は激減して仕事の効率も上がった。


飲み会どころか家飲みも量がへった、以前はゲームをしながら飲んでいることが多かったので胃腸関係の調子もよくなった。

健康面からしたら、ネオアンバー・ソメイユワールド様様であった。


もうひとつ劇的に変わったのは、食費と光熱費・家賃以外ほとんどお金を使わなくなった。

休日に買い物以外で外出することがなくなり、お金が自然にでていく状況が減り、かつ課金を含めてゲームに利用していた費用も激減したため、出費が驚くほどなくなったのだ。


とはいえ、もともと仕事以外は引きこもり人間だったので、周囲がその変化に気が付くわけもなく、しいていえばゲーム仲間にレイドなど合同作業の付き合いが悪くなったと愚痴られた程度だった。

それだって、今月は年度末に引っ越しを行った関係で、多忙で暇がないと断っていたのだが、さてこれからどうやって断っていこうかと思う北斗であった。


(まあ、でもこっちの変化に比べたらな...)


変化があるのかないのか、はっきりと決められる要因はないが、どうも猫の雅の考えていることがわかるような気になっている今日この頃の北斗であった。

わかるだけでなく、普段もあちらがこちらの意図を理解しているような、監視されているような、不思議な感覚が最近とみに多くなっているのを感じる北斗であった。


★★★


北斗は今夜のログインで、また何かしらの特典が得られると確信していた。

というのもネオアンバー・ソメイユワールドにあちらの時間で1年以上滞在しているのだ。

おそらくまたちょっと多めのガチャ特典と、まだまだ使い切れてはいないがスキルポイントの追加があるのではと予想していた。


案の定というか、就寝後ログインか゛出てくると、NEWのついたお知らせが3つ点滅していた。


『new 50日連続ログイン特典について』

『new ネオ・アンバーワールド1年間滞在特典について』



まずは50日特典の方をホクトはひらく。


『ログイン50日連続達成特典。ガチャチケット50枚、UR確定チケット3枚、SSR確定チケット5枚進呈「うけとる」「あとにする」』


いままでだと、たいていガチャ関係の進呈だが、予想通りというかそれ関係であった。

すでにサブキャラは60人以上いて持てあましているので、来れ以上いてもどうかと思う反面、ガチャの魔力なのかあったらあっただけうれしいと思うのは、人間心理としてしょうがないと感じた。


それに、UR/SSRはサブキャラだけでなく、この世界で普通に暮らしていたら絶対に手に入らない便利なアイテムもたくさん出てきているので、やはりあればあるだけ助かるとホクトは感じた。


次に1年滞在の特典を開いてみる。

こちらは予想に反して、うれしい裏切りがあった。


『ワールド滞在480日達成特典。スキルポイント1000万点、URキャラ『飛龍ゴーレム キャタストフ』、ワールドスキル『多重自我憑依(2人)』「うけとる」「あとにする」』


前二つについてはホクトも想像できた。

スキルポイントはあればあるだけ助かるし、獲得できるURキャラもその名前だけみても迫力がうかがえた。

ただ最後の「ワールドスキル」というのが、ゲーム上級者のホクトをもってしても意味不明だった。


スキルはいろいろ獲得してきてはいるが、そのなかに「ワールド」の名を冠するものは存在しなかったからだ。

その意図を汲み取ってか予測していたかのように、ワールドスキルには補足がついていた。


『ワールドスキル「多重自我憑依(2人)」』

・北斗の意識をネオアンバー・ソメイユワールド内で完全多重存在化させるスキル。

・ログイン時にホクト以外のサブキャラを指定することで、そのキャラはネオアンバー・ソメイユワールドにて、ホクトと同等の知識・判断力にてホクトから完全独立して行動できる。

・多重化したキャラのネオアンバー・ソメイユワールド内での行動や判断の記憶はリアルタイムには共有できないが、ログアウト時にそれらは北斗に統合される。

・多重化させたいキャラは、ログイン時に自由に変更可能である。

・多重化させたキャラは、アイテムと同様なので、ホクトの専用ストレージに収容可能である。

・多重化は、ホクトとは別のサブキャラで、最大二人登録可能である。


説明文を読んだホクトは歓喜した。

ログイン画面では手も足もうごかない状態だか、心情的には歓喜のダンスを踊っていた。

この能力はつまり、ホクトがネオアンバー・ソメイユワールドに同時に3人入って活動できることと同義であることを示していた。


ということは例のダンジョンマスターの件も、これで一気に解消できる目途が立った。

サブキャラの中から、ダンジョンマスターに割り当てるキャラを選択し、北斗の多重意識を「多重自我憑依」にて割り当てダンジョンマスターとして常駐させればよいのだ。


それによって、ホクトキャラはダンジョンにとらわれることもなく、今まで通りベルゼ大森林探索やダンジョン周回活動を並列して行える。

加えて『多重自我憑依(2人)』は、もう一人多重化できることを示唆しており、つまり二人ではなく3人同時にホクトが行いたいことをもうひとつ平行して実行できるということだ。


しばらくの課題が一気に片付くだけでなく、プラスアルファ要素がついたことで、手足が動かなくても小躍りしたくなるというのものだ。


『従者憑依』を取得した際の説明にあった「ホクト群」の意味も、これでやっと理解できた。

あれはこの『多重自我憑依』のことをさしていたのだ。


じつは先日、ホクト自身のレベルも2000を越えており、その際に『従者憑依』もLv1からLv2に上がっていた。

ホクトはレベルがあがったことでどのような変化があったかを確認したところ、それまでは憑依対象は1枠だったのがレベルが上がったことによって3枠になっていた。


ありがたいが、いまのところ同行者を増やすためだけになにか余分に動物を飼う予定もないし、同行者を増やすつもりもなかったのであまりうれしい変化ではなかった。


ただ、先日獲得したサブキャラのなにか姉二人の名前があったのを北斗は思い出し、2枠という数値と合致していることに、まさかと思いながらも少し身震いするのだった。


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