サイドB-18 もっと快進撃
第11階層はマルティの情報どおり、何にもない平原であった。
下生えのひくい草はあるが、見渡しても小山のような突起どころか木一本見当たらなかった。
天井は高く見えないが、左右側面に天まで続く壁が存在し、その先が青くかすんで空の部分と一体になっている。
太陽に似たような光源が左右に一つずつ浮いていて、この層には昼はあることはわかった。
時間がたたないと、それらが移動して夜に相当するものがあらわれるかわからない。
あと魔物の存在も今のところ感じられず、風もそよ風程度なので本当に静かでしんとしている。
この層はほんとうにそれ以上の情報がないので、しらみつぶしにいくとマルティは宣言する。
ダンジョンの左サイドから攻めるということで、一行はまずはダンジョンのはての壁にそって移動し始めた。
順番はマルティ、カスミが並んで戦闘、少し後ろに赤鬼と黒鬼にまたがったカエデとツバキ、しんがりにミヤビとクラウドですすむ。
カエデは、先頭二人の移動速度に舌を巻いていた。
地面がありえないくらいの速さで過ぎ去っていく。
走っているはずなのに、重さがまるでないような、地面すれすれを飛んでいるようにしか見えない。
それに合わせて走っているゴーレム3体もミヤビも苦も無く追従している。
それほどの速さなのにゴーレムに乗る二人は、それほど振動を感じず、前方からあるはずの風圧も感じていなかった。
それぞれのゴーレムが全方位に防御を兼ねた風干渉低下の魔法膜を張っていることは、気が付かない。
かといって乗せられているというわけでもなく、姉妹の意思はちゃんと2体のゴーレムに伝わっていた。
(これは確かには楽しいかも)
自分の足以外での疾風感というのは、カエデにとって初めての経験であったが、人馬一体の操作感は純粋に面白かった。
カエデはスピード狂の毛があることを初めて自覚した。
と、いきなり前方に茶色のシミが現れた。
それはあれよあれよという間に近づいてきて、魔物群のの形を取り始めた。
それは牛系の魔物であった。。
その魔物は全身が黒に体毛でおおわれており、牛魔物特有の角2本に加えて額の部分に1本角が生えており、足が6本生えていた。体躯も小屋くらいある巨体であり、普通の冒険者パーティなら総がかりで1体を相手にするしかない大きさに見えた。
それが少なくとも50~60体いると、カエデはふんだ。
前方のカスミが走りながら右手を前に突き出した。
数瞬後、その先で切り刻まれた数十体の魔物の体が、宙に舞った。
マルティの前方でも、数十体の魔物がバラバラになって崩れ落ちた。
背後から、クラウドが砲弾の速度で姉妹を追い抜き、魔物の群れに突っ込んでいく。
衝突直前で軌道を変え、見上げる巨躯のどてっばらに穴をうがちながら突き抜けていった。
雌雄は、姉妹が魔物の群れに到達する前に決していた。
「ブラッドホーンブルだ。これは純粋に肉がうまい!」
マルティは、大量のドロップ品を前に騒いでいた。
ドロップ品は、肉と角と魔石と皮であった。
ミヤビは無言で、それらのまわりをあるき、ストレージに回収している。
「ちょっと、戦闘に参加させてくれないなんて、ひどくない。これじゃ新しいスキル試せないじゃない」
「そうですよ。私もパワーアップしたホーリーレイ使ってみたかったです」
カエデとツバキは、ややお怒りだった。
「いや、先に手を出したのはカスミ姉だし。あの速度で突っ込むには少し数も多かったんで、俺もちょっとは減らしておこうかなとおもって...」
「何言ってんの。技きまるのほとんど同時だったじゃない。人のせいにしない」
「二人が手を出したから、いいと思って、クラウド突進させたにゃ」
怒りの矛先である三人は、罪を擦り付け合った。
★★★
「この層はマルティ好みだね」
半日ほど高速で探索をして昼休憩の場で、昼食をとりつつカスミがいった。
相当な距離をダンジョン端に沿って走ってきたが、さすがにまだ一周というわけにはいかなかった。
あの後もブラッディホーンブルの集団に5回ほど遭遇して、今度はさすがに瞬殺せず数体をカエデとツバキに任せて全滅させた。
肉も魔石も、ブラッディの示す真っ赤な角も数百は獲得しているが、さりとてそれらで満足して回避して先を進むということはせず、必ず全滅させてはドロップ品を回収していた。
「肉の素材がたくさん、あふれるほど集まって、さぞかしマルティはほくほくだろうね。とくに好物の牛系だからさ」
カスミが揶揄すると
「なんだよ、せっかく遭遇するのに狩らない手はないだろ。経験もたまるし、素材も手に入る、おいしい料理がそれで作れる、ダンジョンのためにもなる。誰にとってもウィンウィンだろ」
「ダンジョンにとっても、ですか?」
ツバキが配られた桃の風味がする少し甘い水をのみながら、尋ねた。
「ああ、ツバキたちはそこら辺のことは知らないかな。細かく説明すると時間が足りないんで端折るけど、ダンジョンの魔物を狩ることはダンジョン自体の潤滑になるんだ。この第11階層は冒険者たちの手が入っておらず、かつ今のところ1種類の魔物しか見ていない。同種の魔物同士では争いもほとんど起きてないんで、変化が無くなる。一方ダンジョンとしては魔力を作り出し続ける特性があるから、増えた分は例えば魔物に転換したりしたいんだけど、すでに飽和しているんで魔力の行き場がなくなる。そうそうそれが多くなりすぎることはないんだけど、ほっとくとダンジョン自体が魔力過多でそれを外に吐き出そうとする。それがいわゆるスタンピート、魔物暴走につながっていくので、ちょいちょい間引きをしてあげるほうが、ダンジョンを利用する僕たちにとって都合がいいのさ」
「そういうもんなのですね」
「でもさ、それにしたって、今回の冒険でえた肉の量は普通に生活しているのには多すぎる、消化しきれない量よね。ストレージでいくら腐らないからって、一生かかっても食べれる量じゃないと思うんだけど。保存の関係で全部買い取ってもらいたくても、消費期限を考えたらギルドにも限界があると思うし。よく考えたらこのダンジョン意外でも同じようにいろいろ保存しているでしょ。経験だけほしいんなら、ドロップ品無視すればいいんじゃない?」
カスミがくつくつと笑う。
「それができないから、ここはマルティ向けといったんだ。こいつにドロップ品を放棄する、なんて芸当はよほどのことがない限りないな。物をあふれるほどたくさん持って幸せを感じるやつだからな」
「カスミ姉、それ言い過ぎ、ちょっと傷つく」
「だって事実だろ?」
マルティーは、うーとうなって反論はできなかった。
姉妹もケタケタと笑った。
「それにしても、なんというか、お二人は本当のご姉弟みたいですよね、マルティさんもお姉さんと呼ばれてますし」
ツバキが朗らかにいった。
当のカスミとマルティは見合って、おかしな顔をした。
当たり前だ、片やハイエルフ、片やヒューマンなのだ。
種族が違いすぎるし、外見も全く似ていない。
ただツバキから見ると、二人の距離感や信頼感、物言いは本当の姉弟としか思えない雰囲気を醸し出していた。
男女なので、恋人の可能性もなくはないが、そんな甘い雰囲気ではない。
「まあ、そうだな、腐れ縁というやつかな」
「前世で、本当の姉弟だったかもね」
二人とも否定はせず、むしろ少し失敗したかな?という顔をしていた。




