サイドB-17 カスミとタイガーゴーレム
「...おはよう」
次の日の朝、バツが悪そうに起きてきたカエデの前に、食卓でミヤビと一緒にハンバーガーをバクついているエルフがいた。
「おはよう、あなたがカエデちゃんで、後ろにいるのがツバキちゃんね」
エルフはよく通る声で快活に問いかけた。
「はい、えーと」
「カスミよ、よろしく。これでも一応ハイエルフよ」
「もう二人の分もできるから、座ってまってて」
昨日のことなどまるで気にしていなかったこえで、キッチンに立つマルティがいった。
なぜハイエルフがここにいるのかと聞きたいのはやまやまだっだが、昨日の今日であまり気さくに聞くことができなかったことと、マルティとミヤビは彼女がいることになんの不自然さもなかったため、いえず黙って食卓についた。
ほどなくして、丸いバンズにハンバーグのような焼いた肉と、赤と碧の野菜を挟んだものに、ジャガイモを細く切ってあげたもの、付け添野赤いソースとリンゴジュースが二人の前に置かれた。
だまって食べ始めると、マルティが
「昨日ヒュドラの肉が入ったんで、今朝は作った食事だよ。僕たちはこの料理をハンバーガーとフライドポテトとよんでる。赤いのはお好みでポテトにつけてたべてね。あとそこにいるハイエルフのカスミ姉と、今日から一緒に攻略するんで、あとでパーティ承認よろしくね」
ついてでで、説明された。
さすがにカエデは、それでは納得できなかった。
「ちょっといきなりなによ。そもそもどこから現れたのよ、このハイエルフさんは。一人では入れないんじゃなかったっけ、このダンジョン。入れたとしてもまさかここまで、一人で私たちをおいかけながら、あの大量の魔物の群れを走破してきたとでもいうの」
立ち上がるカエデに、まあまあと当のエルフがなだめる。
「まあそこは企業秘密ということでね。第一私は冒険者登録していないから、人数がいようが正規にははいってこれないし。でも安心して、実力はマルティやミヤビにも劣らないから」
マルティが、やさしく付け加える。
「もともとね、君たちと別れた後に合流する予定だったんだ。でも一緒に行くならパーティとして承認してもらわないと駄目なんで、顔合わせをこの朝食の場にしたんだ」
「そうなの、....て、私たちついて行っていいの?」
「昨晩君がそう宣言したんじゃないか。僕としては君たちの希望は、僕のできる範囲内なら聞いてあげるつもりでいたし。それとも昨晩のはブラフ?」
マルティは平然と聞いてくるが、カエデにしてみれば勢いでいってしまった内容ではあるし、仮についていけるとしても今まで以上にマルティたちにおんぶにだっこ状態になるようで、ハイそうですといいにくかった。
「そういうわけではないけど、ついていけるのはうれしいけど、なんか完全に足手まといになりそうで.....」
「なにいってんのよ、女は男に苦労をかけさせてなんぼよ。いいのよホ、じゃないマルティにはがんがん頼っても」
初対面でまったく性格のわからないハイエルフは、姉妹の最も心配している事柄を気にするなといっている。
「カスミ姉、それはちょっとひどい。まあ、でもたよってもらっていいよ、このダンジョン内では。なんとなくついて行くって言い出しそうな予想もしていたんで、カスミ姉とほかの助っ人も用意していたんでね」
「ほかの助っ人?」
「あとで紹介するよ。さあ冷めないうちに食べて食べて。僕はもう少しハンバーガーとポテト量産して、ストレージにしまったら、つづきの話をするから」
と、キッチンにもどった。
ふたりはいわれた通り、食事を始めてすぐハンバーガーとポテトに夢中になった。
ただ今朝は、ハイエルフのカスミがいる手前、お替りは言い出せなかった。
★★★
「さて、話の続きだけど、この先このダンジョンがどこまで続くかわからない。そしてカエデがいったように、もっと強力な魔物がすくなくとも階層主やダンジョン主として現れると思う。もちろん二人をフォローはするつもりだが、状況によってはそうできない場合も出てくるだろう。なので二人にはレベルアップしてもらわなければならない」
「それはあたしも思う。昨日のヒュドラなんて隠れているしかなかったからね。でもマルティたちのおかけでだいぶレベルアップはしているし、スキルもステータスも上がっていると思うんだけど、それでも厳しいかな?」
「包み隠さずいうと、それぞれの階層主との戦いでは相当難しくなるかもね。隠れているだけとしても危険は数倍にはなると思う。だから二人には、早急にステータスアップとスキル獲得をしてもらう必要がある。特に体力と防御力については、ステータスを相当あげてもらう必要がある。わかるね」
姉妹はうんうんとうなずく。
「そして、あんまり言いふらしたくはないけど僕にはそれをする手段がある。二人にならそれをするのは藪坂ではないけど、覚悟があるかどうかを聞きたい」
「覚悟ですか?」
「覚悟だ。それをすることによって、二人は一般的な冒険者とは比べ物にならない実力をつけるだろう。だけどそれは反面、普通の人をやめるということだ。どんなに隠していても、1回でも実力を見せてしまったら、相手によっては君たちを取り込み、利用しようとする人間が現れると思う。今までのように一冒険者としては、暮らせなくなるかもしれない。常に好奇の眼で眺められ、心休まる日が存在しなくなるかもしれない。そうなっても後悔しない覚悟は、あるかな」
「そうね、ちょっと怖いけど覚悟するわ、ついていくために。強くなるために。ツバキどう?」
「私もおねいちゃんがするというならする」
「ふたりとも、ほんとにいいの?今帰っても私たちはだれも文句言わないよ。それにお金もたっぷり入って優雅に暮らせて、冒険者なんて危険な職業からも足洗えるし。なによりオムライスが食べたいんなら、ダンジョン攻略した後に、マルティがそちらに行けばすむことだよ」
ハイエルフのカスミが、心配して助言してくれた。
「いいんです。おっしゃる通り物静かに暮らすならそれでもいいんですけど、ならば冒険者にはなっていません。むしろ私もツバキも最近の自分の成長に生きがいを感じてます。そしてもっと先の自分を見てみたく思っています。一生に一回あるかないかのチャンスをもらっているようなもんです。後悔なんかありません」
「まあ、それならいいんだけどね。マルティ、ほどぼとにな」
しかし、マルティは遠慮をしなかった。
二人には、ストレージから出した、姉妹が見たことのない実をカエデには7粒、ツバキには8粒あたえた。
渡した内容は、カエデには「体力の実(特上)」「魔力の実(上)」「力の実(特上)」「素早さの実(特上)」「幸運の実(特上)」「守りの実(特上)」「魔力守りの実(特上)」で、ツバキには「体力の実(特上)」「魔力の実(特上)」「力の実(上)」「素早さの実(特上)」「幸運の実(特上)」「守りの実(特上)」「魔力守りの実(特上)」「知恵の実(特上)」であった。
体力的にはほぼ同じ内容で、得意とする分野と苦手とする分野で若干変えた内容だった。
マルティは、それらを裏技として伝え、ふたりにすぐ食べるように促した。
「変なものじゃないよ。むしろレアアイテムだよ。レベルにそぐわなくなるけど、ステータスは爆上がりするから、だまされたと思って食べてみて」
上の実はステータスに1500~5000のランダムな値の増加、特上は15000~30000のランダムな値の増加をさせるアイテムだった。
「ステータスはこれでオーケー。でもスキルとレベルには裏技はないんで、地道に上げるしかないよ。まあ、このダンジョンを出るころにはたぶん経験も相当溜まって、レベルもスキルもいろいろ増えてると思うけど。あとは装備だね。はいこれに装備を変えて」
名はつけていないということだったが、ミスリルでできた装備一式に、耐火用に竜のうろこのマント、視界を遮らない程度の同じくミスリル性のハーフメットが渡された。
カエデにマルティが渡した剣と同じく、マルティたちの仲間に作ってもらった鎧やマントで、マルティがいろいろ付与魔法を与えているとのことだった。
さらにこれもと、マルティから白い石のはまったリングを渡された。
「それは即死魔法に対抗する為の、身代わりの指輪。効果が出るのは即死魔法をかけられた場合と普通に攻撃で体力がなくなった時に、1回だけ身代わりになってくれるもの。発動すると指輪は壊れるけど、体力も魔力も最大値で復活できる」
さすがにそれはもらえないという二人に対して、ストレージにあと数百個あるので、自分たちの為にもつけておいてくれとたのまれ、不承不承身に着けた。
「最後に朝言っていた助っ人の紹介。外で紹介する」
二人はいわれるがままに移動した。
そこにはいつも付き添っているウルフ・ゴーレム=クラウドのほかに、それよりは二回り小さいものの二体の獣型ゴーレムの姿があった。
どちらも似たようなフォルムをしているが、足の太さや頭部、尻尾に相当する部分の長さが異なった。
もっと顕著なのは色合いだ。
「黒くて少しほっそりしていて尻尾が長いのがパンサー・ゴーレム=黒鬼、渋い赤茶で島が入っている4足が太いほうがタイガー・ゴーレムの=赤鬼。クラウド同様特色はあるけど、それはおいおい説明する。移動をもっと早くするために二人には、今日からこれに乗って移動してもらう」
その2体は、クラウド同様存在感がありまくるゴーレムであった。
ステータスが上がった為なのか、そういう強さの気配というか、やばい存在だというのが前よりも肌で感じ取れるようになった姉妹であった。
その意味では、マルティ、ミヤビ、カスミはその3体と同じくらい、いやそれ以上にやばい存在だと以前よりもはっきり感じる。
「私たちだけ?マルティたちは?」
「大丈夫よ、このゴーレムたちについていく体力もスピードもあるから。それとちょっとのスキルの使用もね」
つまりは、今日までは二人に合わせて移動してくれていたらしい。
あれだけ早いペースと姉妹は思っていたが、それでもまだ手加減していたということだ。
「誤解のないように言うと、ステータスの上がった君たちならペースを上げても十分ついては来れるけど、とっさの場合の保護を兼ねているのでのってもらいたいんだ。ふたりをずっと気にしなくてよいようにとの僕たちのための処置だから、足手まといとかそういうネガティブな考えはやめてね。それにこいつらを乗りこなすのは結構楽しいよ」
「わかったわよ。でも魔物に遭遇したら、私は降りて戦うよ。せっかくの新しい装備とスキルだもん」
カエデは赤鬼に、ツバキは黒鬼にまたがる。
背中は鞍のように変形しており、硬さもそれなりにやわらかいため、お尻がいたくなりにくそうだ。
「じゃあ、出発。今日も楽しく魔物を狩りまくろう」




