サイドB-15 階層主ヒュドラと戦う
マルティ一行がたどり着いた第10層も、第9層と同じく迷宮ダンジョンであった。
9層と変わったことといえば、ミノタウルスやオークに追加して、より大型のミノタウルスキングやオークキングが混じりだしたことと、ビックスライムが出現しだしたことであった。
通常オークキングは、集団の長として複数のオークを従えて出現するものなのだが、この階層では単独で出現した。
体躯も通常のミノタウルスやオークの数倍の大きさで、そのせいか迷宮の天井もそれを許容する高さとなっていた。
カエデは最初、その大きさに圧巻されて攻撃の場所を戸惑っていたが、マルティ指示に従って下腹部、特に膝や脛をとすれ違いで切断するごとに、徐々にその大きさにも馴れてきた。
マルティのくれた剣は、魔物の強靭さに関係なく、抵抗も少なくなく切り取れてしまい、片足をなくしバランスを崩した挙句倒れこむ魔物の首を切断することで、ツバキひとりでも倒せるようになった。
ただビックスライムだけは、勝手が違った。
スライムは中心に見えている核を解体するだけで倒せる魔物ではあるが、大きすぎてその中心まではカエデの剣の長さでは届かない。
仮に核まで届かせようとすると、手をスライムの体内に漬け込むことになり、スライムの酸に焼かれてしまう。
「おねいちゃん、下がって」
ツバキの声とともに、背後から一線の光の筋が通った。
それはビックスライムの核を見事に貫き、スライムの体は霧散した。
驚く姉をよそに、妹はやったやったとはしゃいでいた。
「なに、いまの?」
「ホーリー・ビーム。聖なる力の終結した力ある光の筋で、対象を破壊することができるの」
「知らないんだけど。いつから使えるようになったの?」
「昨日の夜から。じつはマルティさんに今後はこのような攻撃魔法も必要になるだろうっていわれて、獲得できるスキルとして解放してもらったの。一回の魔力使用量が私にしては多いらしいんで、1時間に発動できるのは4回までに制限されたんだけど、すごいよね、こんなの一日に何十回も撃てるの」
単純計算で、12時間で48回で今の威力であれば、このダンジョンだけでなく普通の魔物にも十分通用する。
特にビックスライムのような近距離攻撃ができない魔物には有効だ。
「この技はまだまだレベルアップできて、そのあとも上位の技があるんだって。いまから楽しみだよ」
喜ぶ妹をよそに、自分たち二人の戦闘力がどんどん上がっていくことに、驚きを隠せないカエデであった。
おそらくであるが、このダンジョンも5階層ぐらいまでなら、二人でも走破できそうな気がしてきた。
その横で「次元刃」とよばれる技で、ビックスライム5匹を早々に倒して、核をストレージにいれているミヤビに比べるべくもないが。
★★★
第10層には階層ボスが存在した。
姉妹には、見たことも聞いたこともない、5つの頭を持つドラゴンのような外見をした怪物であった。
「最上位種ではないけど、ヒュドラという魔物だね」
その巨大さにおののく様子もなく、マルティはいった。
「この魔物は、君たちよりはるかにレベルが高いので、少しここに隠れていて。僕たちだけで何とかするから」
先頭に参加しなくてもこの場にいて、パーティというだけで経験値が入るからと、付け加えて飛び出していく。
姉妹にはどうしても想像できなかった。このどでかい威圧感しかない、災害のような魔物相手をどうにかできるなど。
しかし、それも一瞬で終わってしまった。
申し合わせたように、5つの首が一瞬で切断され、かつ火の玉と化したウルフ・ゴーレム=クラウドが大砲の砲弾よろしく突進して、ヒュドラの胴体に大穴をあけた。
地響きを立てて、倒れ地面に転がった6つの物体は、少しして大量のドロップ品へと変化した。
ヒュドラの牙、鍵爪、瞳、舌、鱗、大きな肋骨、首肉、胸肉、足肉、内臓がゴロゴロと地面に転がっている。
よく見ると、樽なんかも転がっていた。
極めつけは、人の頭ぐらいありそうな、巨大な緑色の魔石であった。
「ヒュドラも亜種ではあるけど限りなくドラゴンに近いんでね。お肉はとってもおいしいよ。舌も絶品だし。あっ樽はね、たぶんだけど血と心臓が入ってるんじゃないかな」
今日は、ヒュドラのタン塩パーティだと、二人には訳の分からない盛り上がりを見せていた。
「それにしても、やっぱり最上位種ではなくてもヒュドラはヒュドラだね。レベルがバク上がりだと思うよ君たち二人とも。めったに上がらない僕たちも1つ上がったからね。希望があれば今夜鑑定するよ」
と上機嫌にマルティは二人にいった。
二人と一体のすごさには馴れてきたつもりの姉妹であったが、この戦いでそれが勘違いであることが再認識させられた。
(いったいこの人たちが危機を感じる状況や相手なんて、この世界にいるのかしら?)
純粋に疑問に思う、カエデであった。
そして前々から感じていた疑問、ただ単に優秀とか強いとかで片づけられない、異質さをマルティたちに感じていた。
★★★
ヒュドラを倒したその日、時間はまだあったが第11階層には移動せず、ヒュドラを倒した階層主スペースにいつもの宿泊小屋を出して、はやめの休息をとることになった。
一瞬では終わってしまったが、やはりきつい戦いだったので休息も早いのだろうと勝手に姉妹はきめつけた。
夕食は、マルティの宣言通りのタン塩パーティとかで、姉妹にとっては初めて食べる料理であったが、薄く切って焼いたお肉に塩と柑橘系しぼり汁をかけただけのものであったが、独特の触感と味に舌鼓をうった。
材料が、先ほど倒したヒュドラの舌ときいて少しビビってしまったが、あの美味しさなら問題ないとの結論をツバキが先に出した。
「じつはね、はやめに終わらせたのには、二人に相談があってね」
「なによ、私たちの上がったレベルやステータスでも覗きたいの?」
「いやいや、信用無いな。君たちが希望しない限りそんなことしないって」
マルティは、心外といった返しをする。
「じゃあなによ」
「うん、明日からいよいよ第11階層、僕たちの目的地だ。ギルド所属の冒険者が進んだ最深層は14層でそこまでは様子はわかっていて、ちなみに第11層はフィールド型の草原だ。そして第14層までもフィールド型ダンジョンが続く。前にたどり着いた冒険者たちは第10階層主のヒュドラとの戦いでボロボロになって、それでも第11階層と第12階層で若干難易度が下がった上に、枯渇しそうだった食料的にも救われて、それでも次の層では撤退を決意したんだけど、最低限14階層をのぞくぐらいはしておこうと見ることはしたらしいんだ。だけど見るだけ見て撤退したんで、制覇はしていないし、どんな魔物がいるかも確認していない。当然広さについてや、ここがダンジョンの最下層かも確認していないんだ」
「その第14層をのぞくだけのぞいたというパーティーは、マルティたちが目指している第11層よりも奥まで行っているよね。つまり第11層の情報は、そのパーティが持ち帰ったと思うんだけど、その認識あっている?」
「あっていると思うよ」
「えーと、だとしたら矛盾してない? マルティたちは第11階層にある自分たちの欲しいものを取りに来たんでしょ。でも今の話だと第11階層はフィールド型で、少なくとも食料になるような素材があったというだけで、その他の情報はほとんど無いに等しいじゃん。どうして自分たちの欲しいものがそこにあるって思ったの?」
カエデは思った疑問を口にした。
「その通りで前の公リュク者たちからの第11層に関する有益な情報は全くない。でも僕たちの欲しいものは確実にこのダンジョンにあるんだ。厳密にいえば第11層ではなく、存在だけ確認したという第14層でもない。その先にあると確信しているものなんだ」
「それはどういう意味なんですか?」
ツバキが不思議そうに言葉をつないだ。
「僕たちの欲しいものはね、というか行きたい場所はね、このダンジョンの最下層。そして本当にたどり着きたいのはダンジョンコアがある部屋なんだ」




