サイドB-14 ドロップがおかしい
マルティ・ミヤビとカエデ・ツバキがたどり着いた第9階層は、第8階層とは一変して迷路ダンジョンに戻っていた。
天井があり、通路が分岐するダンジョンだ。
浅い層のダンジョンと異なるのは、神殿のような石造りの通路で作られていた迷宮であることだった。
魔物は、人身牛頭の怪物、ミノタウルスと人身豚頭の怪物、オークであった。
どちらもマルティたちの数倍の体躯をもち、大ぶりのバトルアックスやメイスを振り回す怪物であった。
単身でうろついているミノタウルスに対して、オークは数体で行動していた。
オークについては、魔法の使えるオークメイジ、より大きな体躯と筋力の高いオークリーダーも存在した。
ただ、マルティたちにとっては、肉をドロップしてくれる有用な魔物でしかなかった。
出会い頭にぱっさ、ばっさと片づけては、大量の肉をドロップしていくのだった。
「おねえちゃん、やっぱり少し変だよ」
攻略が進むにつれ、ツバキが悲鳴にも似た問いかけをカエデにし始めた。
神殿の迷宮らしく、宝箱が頻発し始めてそれを守る魔物を倒すたびに開けていくのだが、毎回金銀財宝が山とあふれんばかりのものであった。
「これはドロップ品じゃないけど、二人のものでいいよね」
と、マルティはのたまっていたが、姉妹はありえない量に、否定の意を何度も表さずにはいられなかった。
もう最初にもらった金貨100枚どころではない。
この階層での宝箱だけの獲得物でも、一生暮らしていける資産になっていた。
ツバキがおかしいといったのは、宝箱を開けるたびに出てくる財宝の量であった。
ふたりはダンジョンに潜るのは、これが初めてではあるが、宝箱がそれ自体が魔物のミミックであったり、罠がしかけられたりしているものが多く、たいていはから箱で、本当に価値のあるものを手に入れられる割合は、かなり低いというダンジョンの常識はしっていた。
たしかに罠が仕掛けられていたり、ミミックだったりはするのだが、罠を解除したりミミックを倒したりしてあけた宝箱(ミミックは倒すと擬態であるこわれた宝箱になってしまう)すべてから大量の宝が出てきたのだ。
さすがにこれはおかしいと、カエデも思い始めていた。
魔物を倒して得たドロップ品も、今にして思うと思った以上のものが落ちている気がしていた。
とくに顕著だったのは、ミノタウルスを倒した際にドロップした肉の塊だった。
おそらく通常であれば、ミノタウルスの持っていたバトルアックス、角が1本と少量の肉がえられれば運が良いとなるのだろうが、マルティたちが倒したそれからは、角はちゃんと2本だし、肉に関してはミノタウルスの体躯よりも多いのではないかと思えるほどの量が、毎回山積みされるのだ。
感覚的に、この階層で得たミノタウルスとオークの肉は、倒した魔物の体重の倍はあるのではと、カエデは目算していた。
さらに驚いたのは、明らかに鉄の使い古されたバトルアックスで戦っていたのが、ドロップ品になると鋼でかつ新品のバトルアックスと、同じく鋼の剣にかわっていたりした。
なにかまた自分たちは知らない、常識外のことがあるのではと、6個目の宝箱をあけてあふれんばかりの金貨と、なにか付与がされていると思しき腕輪が出てきた瞬間に、たまらず確認した。
「マルティ、いままで確認しなかったけど、おかしいよ、ドロップ品や宝箱内の量が。なにか私たちに知らせてない、秘儀でも使っているんじゃないの?」
「ああ、ばれちゃったか」
マルティはいたずらを見つけられた子供然として、カエデに笑顔を見せる。
「ここだけの話だよ、実はドロップ品や宝箱の内容が10倍になるスキルを、僕が持っている。だからこんなにたくさんドロップしたり宝箱があふれてたりする。すごいでしょ」
「なっ」
「そっ、そんなスキル聞いたことありません」
カエデとツバキがそれぞれ唖然として、口を開いた。
「聞いたことなくてもあるんだな、これが。もちろんダンジョンでしか有効じゃないスキルだけど、ここではうってつけの能力さ」
もう二の句が継げない姉妹であった。
「ストレージスキルといい、レベルの仕組みを理解していることいい、あなた一体何者なの?」
絶対に自分たちとは異なる人種だと、カエデは思った。
上位ランクの魔物を物ともしない戦闘力といい、他では決して聞けないスキルに関する知識といい、至宝のような武器を作れる能力といい、見も知らぬおいしい料理をつくれることといい、すべてにおいてもうただのDランク冒険者ではありえない。
「君たちと同じ、一介の冒険者だよ。まあ、ちょっとばかり強くていろいろ知っていたりするけどね」
そこだけはゆずらないマルティであった。
★★★
カエデとツバキの胸中は、その夜宿泊地内で、ざわざわしててた。
夕食に出た、ミノタウルスのビフテキは確かにおいしかったが、今日だけはお替りをすることはできなかった。
それほどに、なにか非常識な状況に巻き込まれている、とおもうのだった。
なにか、これ以上は、彼らの知っていることを知ってはいけない、知ってしまったら後戻りはできないような気がしてきていた。
困ったことに、それがすべて姉妹にとってプラスに働いているから、拒否もしづらいのだった。
「どうしよう、おねいちゃん。なんかマルティさんたちと一緒にいるのが怖くなってきたよ」
カエデも同じ気持ちだった。
「それはわかる、わかるんだけどね。だからってここで別れることはできないよ」
もう第9層である。
いまさら別行動で、自力で地上まで戻ることなどできないところまで来てしまっている。
ストレージスキルを獲得したり、レベルが上がって自分たちの実力があがったりして、浮かれていたのだから否めない。
彼らの異常さに気が付くのが遅すぎたのだ。
彼らの目的地である第11層はもう数日のところまで来てしまっている。
帰りたいと懇願したところで、約束を一つも破っていないマルティたちにいえる状況ではなかった。
それにカエデとしても、彼らの不気味さを知りつつも、惹かれるものもあった。
「ツバキはさ、いま回復魔法のレベル、マックスにしてもらってたよね、あと新しいスキル、異常回復魔法も取得させてもらって、どう思ってるの?」
「それについては、うれしいし、魔力も上がってきているんで、ダンジョン内でも気持ちに余裕ができてはきているし、...単純に自分の魔法が増えていくのや、体力もついてきているのはうれしい」
それは確かにとツバキは顔を崩して話す。
いつもの夕食後の経験値の確認で、今の積み重なったものだとこれこれができるとマルティに教えてもらい、そのなかで選択したものを取得したばかりだった。
教会に対する信仰への経験年数や働きではなく、別のやり方でスキルを獲得していくのには、まだまだ違和感ありまくりのツバキだが、自分がすでに司祭クラスの回復魔法を使えるようになっているのには、なんとなく肌で感じていた。
「あたしもおんなじなんだよね。取得させてもらった剣技とかももっとレベルを上げたいし、なによりさらに知らない剣技もまだまだ取得できるらしいので、それを思うとわくわくもしている。ストレージだってマルティたちに会うまでは、自分に持てるなんて想像もしなかったしね。おまけにあの貸してもらってる剣ときたら、まあ今まで私はなんてなまくらで戦ってたんだろうと、もうマルティの作った剣意外には戻れないよ」
カエデの声も後半熱を帯びた。
「だからね、この状況は怖いけどもう少しだけど、マルティたちについて行ってもいいと思いだしてる。そりゃちょっと、かなり得体のしれない二人組で自分たちだけで帰れる自信もないからしょうがないんだけど、今のところ私たちにマイナスになることは何もないし、危険な目にもあってない。ダンジョンにも慣れてきて少し楽しくもなっているし、マルティは約束もちゃんと守ってくれてるし、ごはんもおいしい」
ツバキがあきらめたように
「おねいちゃんの言う通り、私たち二人だけでは、たぶん帰れないもんね」
ため息をつきつつ、いった。
「しょうがない、もう少しつきあうか。あっ、だとしたら、今日のビフテキだっけ?お替りしとけばよかった」
いまさらながらに口の中に再現されたミノタウルスの芳醇な肉の甘味が、思い出されたツバキであった。




